第1章(5)ーI’ m a stranger here.ー
スッーー
ピタリとはまるように意識が身体を得た。新調した制服を着ているような、心地よくも落ち着かない感覚。どうやら無事に来れたようだ。
平静を保ちつつ軽く辺りを見渡し状況を整理すると、教室と思しき空間の窓際最前列に座っていることが理解できた。黒板の上方の壁に取り付けられた時計は9時35分を差している。“向こう”を出た時と一致しているな。
「ふっ」
自分の冷静さが逆に怖いぜ。突然別世界に送り込まれたにも拘わらず、なに食わぬ顔で授業に溶け込んでいる。教鞭を取っているのはエキゾチックな服を自然に着こなした妙齢の女性だ。黒板がアルファベットで埋め尽くされていることから、英語の授業で間違いないだろう。
「はい次のカッコ2、フジミネ」
ほう、この先生は君付けさん付けをしないらしい。強気なところも素敵ですね。既婚者だろうか。
「ほら早くフジミネ」
そうだぞフジミネ。先生を困らせるな。
「もう」
ため息ひとつ、先生はコツっと音を立てて教壇を下り、窓際までやってきた。ん?
「あんたらしくないわね。調子でも悪いの?」
何だ、教室中の視線を水圧のごとく感じるーーはッ!
俺は慌てて机の上に広げられたテキストの裏表紙を確認する。
《1ー2ー35 藤嶺 翔》
ふじみねーー
「俺かっ!」