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第1章(3)ー夏服は野郎の視線を集めるー

まさに唐突というべき祐希さんの言葉に俺はシェーともアイーンともどっちつかずの微妙なポーズを無意識に繰り出したまま硬直する。


仰天する俺を放置して祐希さんはおもむろに部屋の隅に脱ぎ捨ててあった服を身に着け始めた。


「この日をどれだけ待ちわびたことか」


団地の一室に身を置く表向きSF同好サークル事務所こと我が研究所の、二十代中心の鬱蒼としたメンバーの中では比較的テンションを高く保っている祐希さんは、一度は高校に通っていたものの研究所に引き抜かれて中退したらしい。まあこんな胡散臭い研究所でも一応国の管轄にあるわけだし、研究員の身分は保障されている。断るに断れまい。


「張り切ってるねー橘君」


研究員の一人がピーナッツを噛み砕きながら、哀愁を帯びた視線を祐希さんに向ける。祐希さんは「ま、そっすね」と髪を触りつつ言うと、今度は俺に向き直った。


「お前はもう準備いいのか?」


「え、何がっすか」


キョトンとする俺を見るや否や、祐希さんは目を丸く見開いたのち、こたつ机の一角を見やり、この中で唯一三十代である所長と何やらアイコンタクトを交わしたかと思ったら再び俺を優しくもどこかニヒルな瞳で射ぬいた。


「お前も高校生になるんだよ」


「どえ! な、なななんと! 聞いてないっすよ! マジっすか!」


混乱と驚愕と興奮とが全身を瞬時にして埋めつくし、俺は首と脳が耐えられる限界の速度で祐希さんと所長を交互に何度も見た。


すると所長は照れ隠しをするようにはにかみつつ、


「ごめん、祐希君にしか言ってなかった。昨日それが決まったとき、祐希君は丁度いたから」


「マジっすか! うおおおおおお!」


よっしゃあ! こいつぁ驚きだぜ! 夢の高校性活(発音は同じだろ)を妄想こそすれ、毎朝登校中の女子高生を遠目に見ているしかなかった俺が、遂に……!




俺が正拳突きを連発していると、アラサー所長はすっくと立ち上がり、先ほどのハニカミとは打って変わって神妙な面持ちで、俺と祐希さんに告げる。


「祐希君にはもう話したけど、今回二人には以前から水面下で進められてきたプロジェクト、並行世界いど」


「あ、そういう長いのはいいっす」


「………………。じゃあ細かいことは祐希君に聞いてくれ。」


そう、それでOKっす所長。


「じゃあ、行くか」


祐希さんは丸めたバスタオルを洗面所に投げ込んで、首をぐるっと回した。


「え、祐希さんタンクトップで高校行くんすか? 俺も私服だし」


再び腰を下ろしてテレビを見ていた所長が、俺の言葉に反応してか「はあ……」とため息をつく。祐希さんも眉をハの字にして、


「お前な……さすがに“こっち”の高校じゃないくらい分かってるだろ?」


あ、やっぱり?

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