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召還組285の男

今回はかなり残酷な表現が出てきます。

読まなくても大筋に支障はありません。

お食事前、お食事中の方は気をつけてください。

 * * *



 グレーの作業服を着た男が街道を東に歩いている。


 そこから一番近い街まではまだ馬車でも三日はかかるにも関わらずも男は裸足でノロノロと歩いている。


 男は憤慨していた。


 男の右手の甲には焼き印を押されたかの如く、285という数字が浮かび上がっていた。

 焼けただれている訳でもないのに、何故か禍々しい印象を見たものに与えるだろう。


 男の身長は160センチ程。

 痩せ方、撫で肩で、まるで針金のようである。

 年はまだ30には届いてないようだが、額は広く、頭は大きく細面で、瓜を連想する人が多いはずだ。


 男の名前はN。


 Nは異世界に召還されるまでいじめられっ子だった。

 子供の頃から体が弱く、学校での成績も下から数える方

が早かったNは自分の意見を人に伝えるのが苦手だった。

 自然に、学校での立ち位置も中心には程遠い、いじめられっ子が定着してしまった。

 いじめは年を経るごとにだんだんエスカレートしていき、高校三年の時は、密かに思いを寄せていた女の子の前で自慰をさせられた事もある。

「やだ、キタナ~イ」その時の女の子の一言が今でもNの心を抉る。


 しかしNには環境を変える程の強い意志も無く、ましてや自殺するだけの勇気もなかった。

 厳格な父と、それに追随するだけの母はNを不登校をするという逃げ道も塞ぎ、更にはNを責めた。


 教師も同級生も見て見ぬふりで助けてはくれなかった。


 Nは高校を卒業すると同時に大学へは行かず(受験はしたのだが三流大学すら通らなかった)地元の本屋に就職した。


 しかしその本屋はいじめっ子グループの中心人物の親が経営する会社で、やはりNの立ち位置はいじめられっ子の学生時代と何ら変わる所がなかった。

 Nの他人に虐げられるだけの人生は終わらない。


 入社して10年。同期どころか後輩にまでパシり扱いされ、当然彼女もいないNは、帰宅してから好きなライトノベルを貪り読む事だけが唯一の楽しみになっていった。

 こんな人生だったらなあ。あーあ、こんな中学生みたいなヒロインと付き合いたいなあ。Nは現実から逃避する。


 そしてある日の休日。

 天気もいいのに家から出ずに朝からビールを飲みながら小説を読んでいると、Nの周囲が光に包まれて。

 気がついたらそこは異世界だった。


 Nが召還された異世界は魔法は一般に浸透しておらず、一部の国の王族にのみ禁術として存在しており、魔物も妖精もおらず、人間のみが生活している中世ヨーロッパのような世界だった。


 Nは大国の侵略により存亡の危機にたたされたある国家の王家に召還された。


 その王家に伝わる禁術は処女の乙女100人の生き血を生きながらに絞りつくし、その血を触媒に巨大魔方陣を異世界と繋ぎ、勇者を召還するというものだった。


 王は王家の存亡の為と言うより、国が滅亡すると失われるであろう自らの命と、来年15才になる一人娘の為だけに国民から選んだ処女乙女100人を犠牲にしてNを召還したのだ。


 権力者にとっての保身は、国民の命より重いのだ。




 Nを初めて見た王は落胆した。


 このような貧相な小男に大国の侵略を食い止める力があるとは思えない。

 残された時間は少ない、しかしそれでも処女乙女100人を生け贄にして呼び寄せたのだ、力だけは試して、ダメなら殺し、また次の勇者を召還しよう。

 可愛い娘の命に比べたら、この男や処女乙女の命など、とるに足らないものだ。

 王はそう考えてNと国一番の剣技を誇る騎士を立ち会わせた。


 Nに武器は与えられなかった。

 それに対して、王の側に立つ美しい少女のみが、これでは公平ではありませんと王に進言していた。

 聞けばこの国の王女らしいではないか。


 Nは生まれて初めて自分の味方をしてくれている少女から目が離せなかった。


 しかし王は首を縦に振らずにNは素手のままで立ち合いが始まる。


 観戦する誰もがNの頭蓋が真っ二つになるのを予想したが、結果は逆になった。

 騎士の渾身の一撃は、Nに傷一つつけることが出来ず、Nの枝のような腕から放たれた拳で騎士はこの世から跡形もなく消えてしまった。


 Nのチート能力は漫画や小説の中の主人公のような、如何なる武器も通さない鋼の肉体と、百人力のパワー。そして無限のスタミナであったのだ。


 王は狂喜した。


 王は有無を言わさずNに装備一式を与えて大国の10万の兵にたった一人で立ち向かわせた。


 Nも憧れの異世界に召還された喜びと、自分の無敵の力で14才の王女を守るため一人立ち向かう。


 Nはこの可憐な王女に恋をしたのだ。




 Nは戦った。


 自分の命の危険は皆無だが、王女のためにその手を血に染めたのだ。


 戦場を屍の山で埋め、流れる血は湖の如く大地を染め、10万の大軍を皆殺しにした。


 その結果、存亡の危機にたたされていた国は立ち直り、逆に攻めこみ、大国を侵略してその異世界で第一の大国になったのだ。


 平和が訪れ、王に好きな褒美を取らすと言われたNは、

迷わずに王女を妻にしたいのです。と答えた。


 王にとってNは道具であり、15になったばかりの王女をめとらせるなど論外であった。ましてやこの男根のような人相の男が息子になるなど考えただけでもおぞましい。


 言い淀む王を尻目にNは王女の可憐な手を握りプロポーズをしようとした。


「いや!!汚らわしい手で触らないで!!」

 王女のその言葉で王座の間は凍りつく。


 王女にとって10万もの人間を皆殺しにしたNは化け物以外の何者でもなかった。


 王の、褒美はおって取らす。控えよ。の声はNの耳には届かない。


 Nは高校三年の時のあの女の子の前で自慰をさせられた時の感情が甦り、茫然自失で自室に戻る。


「やだ、キタナ~イ」

「汚らわしい手で触らないで」


 この2つの言葉が頭の中を巡り回って眠れない。


 いったい僕は何のために生まれて来たんだ?

 いったい何のために異世界に来たんだ?

 いったい何のためにあんなに人殺しをしたんだ?

 王女を振り向かすためにはあと何人殺せばいいんだ?


 感情は渦を巻き眠れない。仕方がないので下女にワインを頼んだ。


 異世界に来てから親身になって面倒をみてくれた年輩の下女ではなく、見慣れぬ女が持ってきてくれた。


 ビンのまま一気に飲み干した。


 飲み干したのを確認して、その女は「飲みおった!!猛毒を飲みおったわ!!」と狂喜している。


 Nの体には何の変化も無い。

 Nの体は一切の毒を受け付けなかったのだ。


 Nは無表情のまま女の指を一本引きちぎる。


 頭の中にはある疑惑が思いつく。


 もう一本引きちぎる。


 (まさか?僕はこの国のためにあんなに人殺しをしたのに…)


 もう一本引きちぎる。


 (いや、王女のためにだ。)


 もう一本引きちぎる。


「もう止めてくれ!!王の命令なんだ!!助けてくれ!!」


 首をねじ切る。


 その言葉を聞いてNの心は絶望に染まる。


 (なんだなんだ、僕の人生はやっぱりこんなもんか。

 …

 …

 いや、虐げられるだけの人生はもうやめだ…

 …

 …

 俺は強い…誰も俺をいじめる事なんて出来ないんじゃ無いのか?


 アハハ、なんだなんだ、簡単な事だったな。アハハ)


 Nの目には狂喜が宿り、王座の間を目指して静かに歩き出した。




 * *



 男は憤慨していた。


 チート勇者としてやり過ぎた?

 真の異世界生活?

 この俺に罰だと?

 しかも、言うに事欠いて一人で生き抜いてみなよと言いやがった。


 男は思い出す。


 歴戦の騎士であろう男が磨き抜かれた鋼鉄の刃を全力で叩きつけてきたにもかかわらず、己の肉体に毛ほどの傷も受けなかったあの時を。

「軽く殴ってやったら粉々になったな。」


 千を万を超す弓矢が、たった一人の己に向かって放たれ、しかもハエでも払うように全てを素手で叩き落とした時の奴等の絶望の顔を。

「あのあと皆殺しにしたら血溜まりが池みたいになって笑った笑った。」



 陰湿にも毒殺しようと出されたワインを全て飲み干し、狂ったように勝ち誇る首をねじ切ってやった感触を。

「拷問はやっぱり素手でやらないとな、指を引きちぎっただけで、死にかけの虫みたいに大人しくなる。」



 娘だけは助けてくれと泣き叫ぶ王の四肢を引きちぎり、まだ息のあるその目の前で15になったばかりの王女を犯し、呪いの言葉を口にする目の前で娘を肉塊に変えてやった時のあの悲鳴を。

「ああ、あの膨らみかけのおっぱいを握り潰した時のあいつの顔は最高だったな。あのあとあの肉を食わせてやったっけ?アハハハハハ。」



 男は全く満足していなかった。

 異世界に召還されてまだ5年しかたっていない。

 やりたい事の半分もやっていない。

 己のみ強者で、それ以外は全てゴミ程の価値しかない。

 虫けら程の力しかない生きたオモチャはまだ腐る程いた。


 犯し、殺し、食らい、また犯す。


 堕胎はさせずに産ませた子供も1000人はいるだろう。

 己の能力を受け継ぎ、脅威になる可能性がある男児はすぐに殺させた。

 女児のみ生かせてある。

 そいつらが10才になるのを、寝かせたワインが熟成するのを待つように楽しみにしていたのに…



 考えに耽る男の濁った目はもう焦点が合っていない。

 昨日から一滴の水も飲まずに歩いている疲労もあるのだろう。



 目の前には一匹の狼の姿に似た魔物がいる。

 群れを追われた元ボスなのか、全身が傷だらけだ。

 額に一際大きな十字の傷がある。

 2メートルはあるだろう。歯を剥いて威嚇している。


 男は無造作に狼に近づいていく。

 拳を振りかぶった。


 それが狼に届く前に男の首は狼に食いちぎられていた。




 男の肉体はもう無敵ではなかった。


 


  




今回のお話は、初めてのチート勇者登場と言うことで、(もう死んでしまいましたが)

どういった人物を出すべきか、どういった人物ならダメチート勇者というのが伝わるか、


そんな事で悩みました。


方針が決まって書き出したらすごい増えました。


増えた?何が?


文字数です。文字数。


調子にのって盛り込み過ぎました。


両親や教師とのやりとり。


学生の時と、本屋に就職してからの具体的なイジメ。


高三の時の女の子との再会。


そしてその後の絶望(その女の子はイジメグループの中心人物と結婚したり)


異世界での召還後のやりとり、騎士との戦いのシーン。


初めての殺人の葛藤。


王女との二人っきりでのやり取り。


等々。


はい。とにかく膨れ上がりました。


そして出来たのは、うーん、なんだろうなあ…分かりにくいなあ…てか長いンじゃね?長すぎじゃね?


というものでした。


はい。削りました。


ガンガン削りました。


四分の3は削りました。


骨だけになった感じです。


もしかしたら削り過ぎて、なんだかなあ、薄っぺらいなあ?と思う人もいるでしょう。


でも僕にとっては結果的にお気に入りの話になりました。


かなり好きな話です。


こういう感じのスッキリしたのをもっと書けたらなあ…


そう思います。


ちなみに10万人 対 一人の大戦争シーンは最初からありません。お城の人間を皆殺しにするバトルシーンも最初からありません。


なぜなら。


そんなの僕の力量では書けません。




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