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隠れ家にて

 * * *


 アダシュの森

 フェイの隠れ家


 <そろそろ引き上げてくれ。あそこに見える木が隠れ家だ>


 そう頼み前回と同じく地上まで引き上げてもらう。

 陸地に上がって一安心。なんとか完全に日が落ちる前に帰りつく事が出来た。

 オペラもオレと同じく夜目が利くらしく魔物に奇襲される心配はないので慌てる必要はなかったのだが、万が一川を下り過ぎて対邪悪な魂の結界に侵入してしまったら間違いなく火達磨だ。船のまま大炎上したらお盆に先祖の霊を送る何処かのお祭りみたいになってしまう。オレはそんな一発芸に体を張るお祭り男ではない。


 「なるほど。ツリーハウスってヤツね」


 遠目に隠れ家を確認したオペラは若干楽しそうにそう言う。前魔王様を泊めるには侘しいあばら家じゃないかって?いやいや、逆にお嬢様はこういう庶民的な方がお好みあそばされるのではないだろうか。ただの鳥の巣穴だろ!なんて突っ込みは勘弁してください。と言うか文句があるならキツツキに言ってくれ。オレが建てたワケではないし。


 ようこそジェノバ風隠れ家へ。と言いたかったのだが

「ジェノバ風」を付けるとオシャレっぽくなる知識など披露しても間違いなくイマイチ伝わらないだろうからフツーに言った。


 <ようこそオレの隠れ家へ> そりゃそうだ。


 そんな事より女の子を自宅に招き入れるなんて初めて過ぎてだんだん緊張してきた。

 よく考えたら同じ部屋で一夜を過ごすんだよね。マジで?日本の自分の部屋にXX染色体が来るなどあり得なかった。自慢じゃないがZ指定とR指定は山ほどある。


 ああー! 先行するオペラはタランチュラばりの行動力で幹を這い上がり食料庫に入ろうとしているーー慌てるな!! そしてタランチュラは禁句だ。この隠れ家に見られて困るものは何もない。よな?


 オレも急いでよじ登るが、オペラは食料庫を出て次の保管庫に侵入する。何もないよな? 変なオモチャなんて保管してないよな? 大丈夫だ。だよね? どうぞどうぞくらいで大きく構えればいいのにどうしても落ち着かない。


 「牙に爪に角に各色効果の違う石の原石ーーこれが全部弾になるのね。良い尖り方してる……す、素晴らしいわーーフェイ!早く来て説明して」


 そんな声が保管庫から聞こえてきた。なんかオレが思っていた女の子が男の家に来たリアクションと違う……まあいいか、なんか力が抜けた。もう適当でいいな。


 一通り保管庫の説明をしたのだが、特に実戦用に加工してある紫毒弾(ポイズンバレット)とその原石。爆発弾(ボムバレット)とその原石に異様な興味を示し、更にはずっと気になっていたらしい体内の大鬼弾(オーガバレット)にも「何で? それで? どうやって?」と身を乗り出して子供のように食い付いてきて、実際火薬岩を溶解抽出して大鬼弾(オーガバレット)を加工させられて、穴を開ける時の苦労も説明した。


「火薬岩から成分を抽出したものを詰める発想も素晴らしけど、それを作り出す溶解力に脱帽ねーーまさかそんな方法で濃度を上げるとは……」

 

 褒められて非常に嬉しいのだけど、また「燃えてきたわ」とか言い出して髪を逆立てメテオられても厄介なので早々に寝室に移動する。

 この部屋は全く何も無いのに、それでも興味深そうに辺りを見回しているうちに髪が逆立ってきた。


 何でだよ! 燃えポイントが分からない……オレは萌える覚悟は完了してるのだけれど。気を逸らすため、そしてもうこのタイミングでいいやと座布団代わりにスカートを勧めてお願いをする。


 <ところで魔法を教えて欲しいんだけど>


「魔法って?」


 <ほら、炎の玉とか、氷の槍とかーー攻撃用の、分かるだろ?>


「使えないの?」


 <それはまあ使えないからお願いしているワケでして>


「無理よ。諦めて」


 ええぇ……その返しは予想外。諦めさせるの早えぇ。

 スライムだからか、スライムには無理なのか?

 別に魔法に憧れる厨二病患者でもダメチート勇者の仲間入りしたいワケでもないのだが、せっかく遥々異世界まで来たのだから、なんとかこう、ほら?ね。


 「何か勘違いしているかもしれないからハッキリ言うわ。魔物が使える攻撃魔法は、その種族や育った環境によって決定されてしまって、そして肉体的、精神的に成長するにつれて元から使える魔法の系統も成長するのだけれど。

 例えば炎の魔法が使える種族は、鳥が教わらなくても飛べるように生まれながらに使えるし、教えろと言われても呼吸をするように使うものだから教えたくても教え方が分からないわ。

 だから今現在あなたが魔法を使えないのなら、それはこれからも使えないと言うことでーー

 そもそも攻撃魔法が使えるスライムは私は聞いた事がないし。まあ簡単に言うと、スライムに転生した時点であなたは攻撃魔法が使えないって事になるわね。

 まあ、強大な魔力を生まれつき持っている私みたいな魔族なら好みの系統に進化させる事も可能ではあるけれど、下等な魔物のスライムには無理よ」


 なるほどなるほどーー全然勘違いしてない。勘違いしてないよ。思った通りだよ。それに下等なって形容詞いる?


 しかし無理だと言われると余計に使いたくなるこの不思議。いやまて、オレは体はスライム、心は人間、そして魂はーーあ、ダメだこのパターンは。出来そうな気が全くしない。

 ならば攻撃魔法以外ならどうだ? それに人間が魔法を覚える場合はどうなる。


「人間が使うのは魔法じゃなくて魔術よ。高い魔力を持つ森の民であるエルフが魔族の魔法を参考にして人や亜人の魔力の質を考慮して体系化して学問としたものが魔術だと聞いた事があるのだけどーー逆に私たちには使えない。

 でも攻撃魔法以外なら望みはあるわね。と言うかあなたは既に使ってるわ」


 オイオイ、初耳だぞ。いつの間にか魔法を使ってたか?もしかして視点が増えたあれか。


「ほら。大鬼(オーガ)の角を回転させた時に青白い光が灯っていたでしょう。あればあなたの魔力を角に込めて硬度と威力を増していた魔法剣の一種だと思うわ」


 ああそっちか。


 <しかしそれなら紫毒弾(ポイズンバレット)も光らないとおかしいだろ>


 当然の疑問を口にするが、顎に手を当てて少し考えオペラは答える。


「たぶんそれは大鬼(オーガ)の角が魔力を蓄積する素材だからでしょう。角のある魔物の力の源は大抵がそれだから。加工しにくかったのも、大鬼(オーガ)の魔力が残っているからでしょうね」


 なるほど、大鬼(オーガ)の角は魔力を蓄積するから光って威力も高い。紫毒の結晶石は蓄積しないから光らず脆いというわけか。

 しかしそもそも魔力とはなんだ?ゲームや漫画ではMPや精神エネルギーって認識してたのだが。


 「魔力は魂のエネルギーを精神を通して力に変えたものと聞いた事があるけどよく分からないわ。まあ、気合いじゃないの?」


 精神論ときましたか。ダメだ。こいつは教えるのに向いてない。


 「魔力を肉体に巡らせて強化したり、波長を相手の魔力に同期させての念話ならたぶん練習すれば出来るとは思うのだけれど、これは知能が低かったり魔力を体外に放出と具現化が出来ない魔物でも自然にやってる事だからスライムでも可能だと思うわ」


 嫌みや皮肉ではないのは表情から察するが、ドカドカ重めのダメージ食らってます。種族に貴賤(きせん)無しだよ。頼むよ。言葉のボディブローで悶絶しそうです。


 それに魔力で肉体強化や波長とか言われても、魔力が理解出来ないのにどうしろとーーうむむ、弾丸を光らせるには高速回転が条件だから肉体強化も同じく回せばいいのか?

 しかし回すって何を。弾丸を回さずに体を回してもせいぜい目が回るだけだよな。いや、中身かーーもしかして体液を回せばいいんじゃないのかーー食事の時に対流しているアレだ。練習してみるか。


 「何か掴んだみたいね。じゃあその間に私は川に水浴びに行ってくるわね」


 <おう。ごゆっく……な、な、な、なにい!!??>


 「覗いてもいいけどバレないようにね」


 <いいのですか?>


 「バレたら輪切りよ」


 怖いっ!輪切りってなにそれ。


 オペラは振り返りなから流し目でそう言い残して軽やかに外に出た。


 水浴びイベントキター!!これを覗かない男がいるのか?いや、いない。ましてやオレは忍者スライムだぜえ。

 内密に隠密させたら秘密なんて密閉してない秘宝館。


 行くぜ!!


 そして早めに60秒数えて動き出そうとしたら体のあちこちからチリリと火傷をしたような痛みが走った。


 痛っ!?なんだ?


 良く見ると体の周囲に細くて黒い糸が巻き付いているのに気が付いた。再度動こうとすると鋭く痛む。ーーまさか髪か……て言うかこれが輪切りか!!??いつの間に。


 * *


 部分的に伸ばそうとしても締め付けてきてどうやっても全く動けません。

 したがって大人しく魔法の練習をします。くうう。


 30分程したところで水着姿で髪を濡らしたままのオペラが興奮した様子でかけ戻って来た。イベント終了~~。


「見て見て大漁よ!これで夕食は決まりね」


 はあ?と思って外に出てみると、そこにはビッチビッチ跳ねている数百匹の鮎や岩魚風の魚が岸に打ち上げられていた。


 <これは?>


 「魚ね」


 グイっと、グイグイっと、グイグイグイっと、自慢気に際どい水着に包まれた胸を反らすのは視覚的に望むところではあるのだが、


 <どうするんだ?>


 「食べるに決まってるじゃない」


 <こんなに食えるか!!>


 どうやら髪を網状にして捕まえたらしいのだが、どう考えても食べきれないので二匹を残してリリースした。普通の人が200キロサイズのマグロ数百匹を一人で食べるようなものだ。こいつの頭はどうなってるんだ?


 次からは釣りにしなさいと念話で概要を説明したら早速試してみたいと必死で頼むので、体の一部を伸ばしてワームのルアー状に変化させたものを自切して、髪に括りつけ餌代わりにして試すと、瞬間に当たりがきてビックリしていた。

 オレもだ。子供の時にやったバス釣りの要領だったのだがビックリ、こんなに簡単に釣れるとは。


 「これは面白いわーーもう一回。お願いもう一回やらせて」


 仕方がないのでもう一度ルアーを作ってやったのだが、それを髪で掴んだままキャスティングせずにジッと眺めていたオペラは何を考えているのか口に含み咀嚼する。


 <お、おい!早く吐き出せ!!>


 「ちょっ、甘い。甘いわ!!と言うか美味しいわ!」


 どうやらオレの体は甘くて美味しいらしい。

 もうちょっと。あと一回だけ(食べさせて)と懇願しているがアンパンのヒーローじゃないのでさすがに断る。

 これ以上喰われてたまるか!!


 獲物を狙うジト目でオレを見るオペラを無視して枯れ葉や枯れ枝を集めて待っているのに腕組みをしたまま動こうとしない。


 <何をやってるんだ? 早くしろ>


 「何が?」


 <何がって、魔法で火をつけないと魚が焼けないだろう。オレは溶かして吸収するから生でも大丈夫だが、お前は焼かないと食えないだろう?>


 「言ってなかったけれど私は火の魔法が、と言うか四属性の魔法は使えないわ。厳密に言うと使えるのは念話と幻影(イリュージョン)だけよ」


 <そんな魔王がいるか!!>


 あまりのカミングアウトにまたもやノリツッコミを炸裂させてしまったが、100人いたら120人が同じリアクションをすると思う。


 「前まではーーもう前世って言っちゃうけど、攻撃魔法も少しは使えたけれど、不完全な復活で大半の力を失ったというのは伝えたハズよ。それに今回は投げにこだわるために魔力が成長しても髪の強化だけに費やすつもりだから」


 <ア、ア、ア>


 アホなのか? と言う言葉が出そうになったがなんとか飲み込む。


 「それに能力を多方面に分散させると一つ一つの威力も下がるものなの。前世もほぼ一つの能力に費やしたからこそ魔王という魔族の頂点に君臨してたのであって、仮に複数の上位の攻撃魔法を覚えていたら私なんてせいぜい中級魔族もいいところよ」


 そう言ったオペラの横顔は、少しだけ寂しそうに見えた。ボケとシリアスが交互に来るので疲れるがアホとか言わなくて良かった。


 しかし一つの能力を極めると言う考え方は嫌いではない。何でも出来る奴が辿り着ける場所などたかがしれていると相場が決まっている。


 器用なケンカは貧乏の元。だな。


 そう考えるとオレには「溶解」がある。溶解博士になると言う目標もある。最終的には溶解神だ。魔法なんていらねえよ。強がりじゃないよ?


 <ちなみに前世の能力って?>


「秘密よ。そのうち話すかもしれないわ」


 そうですか。いつか丸裸にしてやる。もちろん両方の意味だ。


 <一応聞くけど生魚は?>


「焼かないと食べれないわ」


 ですよね。うーん。火薬岩は爆発するだけだし、魔法も使えないとなると非常に気がすすまないが火のあては一つしかない。


 <火を取りに行くぞ>


「何か考えがあるのね。頼りになるわ」


 これくらいの褒められて方では割に合わない。何故なら魚を焼くためだけに命をかけるのだから。


 そうして二人で結界の前まで来た。


「これはーーまさか神霊結界!?こんな大規模なのはバリステス聖協会の大神官でも無理よ。いったい……」


 オペラは青ざめてそろりと手を伸ばそうとしている。


 <下がってろ!!アババになりたいのか!!>


 いきなり怒鳴られて手と首を引っ込めたのを確認してオレは細く伸ばした体をゆっくりゆっくりと伸ばす。


 あと10センチ……5センチ……境界に触れた瞬間、赤銅色の炎が立ち上がり暗闇に覆われた森に木々の濃い影が長く伸びる。

 考えるより先、反射的に素早く自切。

 ふう。


 地面に落ちてなお燃え続ける元体に長めの腐木を差し出して種火の完成だ。


 <戻るぞ>


「え、ええ」


 若干放心しているようだが構わず上に乗せて来た道を戻る。

 五つの視点の内、四つを一点に集中させる。

 炎に照らされ揺らめく陰影に浮かび上がる水着姿が素晴らしくエロティック。パーフェクトエロティック!!

 楽しくなってきた。さあ帰って魚を焼こう。


 * *


 焼き魚を触手のように操る髪で器用にほぐしながら食べる姿はグロテスク!されど時折漏れる「美味しいわ」の笑顔は犯罪的にピカレスク!たき火に照らさせる肢体は体のラインを際立たせてやはりエロティック!


 うん。自分のテンションが天元突破してるのは理解してます。この永遠とも思えるかけがえのない時間を切り取ってそっと胸に抱き寄せたならば、明日は全ての命に優しく出来そう。そんな感じです。


 栄光の時はすぐに尽きる。「今」は駆け足で「過去」になってしまうものだけれども「終わり」は「始まり」の始まりであり「未来」の足音はほらもうそこまでやって来ている。


 つまり。


 もうすぐ男と女が一つ屋根の下ってことさ。


 別にスライムだから何も起きませんよ。でもね。何て言うか。あれが盛り上がるんです。あれって?もちろん気分とか気持ちとか、なんかモヤモヤしたあれです。


 土をかけ、たき火を消して辺りに暗闇が舞い戻る。


 オレは草木(そうぼく)達の眠りを妨げてしまっていたことに心の中で謝罪をし、オペラを連れて住み処へ戻る。


 さっきから地の文が変ですって?雰囲気作りは男の仕事。そっとしておいてください。


 オペラは何か考え事をしているのかスカートの上で脚をたたんで座り、少し憂いのある眼差しで天井を見上げている。

 なんとなく空気が重い。時間だけが刻一刻と過ぎて行く。


 どうやって近づいたものか。何か理由はないかーーそうだ。天才かオレは?ナイスな口実を思いついた。


 <お、オペラさん>


「なに?」


 <さっき言ってた念話の魔法なんだが 、魔力の波長を合わすってのはすぐには無理そうだ。でも直接触ってる状態なら使えるんじゃないかと思ったんだけどどうだろう?>


「確かに、体内や体表面を流れる魔力を直に触れさせれば可能かもしれないわね」


 オペラは指を伸ばした両手のひらを合わせたり離したりしながらそう言う。


 <ちょっと試してみてもいいか?>


 大丈夫だよな。これは実験と言うか、魔法の検証でやましい気持ちはこれっぽっちも無いから、邪気に気づいて拒否されるとかないよね?


「いいわ」


 そう言うと迷わず立ち上がり長方形のクッション形になっているオレの上でうつ伏せで横になり両手を広げて抱きついて来た。「ああ、やっぱりひんやりして気持ちがいいわね」の声が近いわくすぐったいわでーーえ、え、どうすればーー

 ヤバいバヤイヤバい!!マジあり得ない。大胆過ぎて想定外だ。柔らかい。いろんな感触が柔らかい。顔もピッタリつけてる。これって、き、き、キス……なんじゃ……


「私がかけている念話を消すわね?」


 <お、お、お願いします>


「何で急に敬語なの?」


 <集中すると敬語になるのです。気にしないでください>


「そうなの。じゃあ消すわ」


 何をするんだっけ?そうだ。念話だ。記念すべき最初の言葉は重要だ。いやいや、間違いなく使えないだろう。何にする何にするーーもう何でもいいから話すんだ。


 <このまま二人で寝ようか?>


「凄いじゃない。いきなり成功よ!」


 勢い良く顔だけ持ち上げて喜んでくれているが、アババ!!出来てしまった。それに何を言ってるんだオレは!!


「もちろんこのまま寝るわ。こんな気持ちのいいベッドは他にないもの。それじゃあ今日は疲れたから魔法の続きは明日にしましょうか。お疲れさま。今日は助けてくれてありが……」


 <お疲れさまでした!!>


 ……

 ……


 <あのう、オペラさん?>


 すでにスースーという寝息が聞こえる。


 寝るの早ええーーオレはいったいどうすれば?どうもこうもないか。

 確かに今日は長い一日すぎて疲れた。

 死にかけて、激闘の末に亀を倒して、前魔王と仲間になってーークルージングしてーーメテオは……なかった事にしよう。

 しかしこんな小人美女が魔王だったって未だに信じられん。あーあ、グッスリ眠ってるよーー

 ここが日本ならサウナでも行ってそのあとは……マッサージじゃね?マッサージだよね?イヤらしい気持ちは微塵もありませんよ。ククク。心身共に疲労の極みであろう可憐な乙女に対する慈悲の気持ちしかありませーー


 ドカーーン!! ドカーーン!!


 これはオレの中の微笑みの爆弾が破裂した音ではなく、森中に響き渡ったであろう轟音と同時にがである大木が激しい震動と共に大きく揺さぶられる。


 地震か!?  投げ出されそうになるのを必死でしがみつき固定しつつ、


 ドカーーン!! ドカーーン!! またか!?


 急ぎ体を伸ばして外の様子を伺うが他の木々は全く動いてないので地震ではあり得ない。だったらなんだ?


 ドカーーン!! ドカーーン!! なんなんだいったい!?


 回りそうになる視界立て直してやっとのことで下を見るとそこには……数十匹の大鬼(オーガ)がこの大木を取り囲み、幹に極太金棒とバカでかい斧を打ちつけていたのだった。


 なにいーーーー!!!!????

 何で大鬼(オーガ)に襲撃されてるんだ!?


 とにかくオペラを起こして、それと弾丸だ。急げ!


 揺れに抗い縮めるのも一苦労だ。やっとの事で戻った途端に戻る必要はなく視点を本体にも作り出せば良かっただけだと思い至る。オレはアホか?反省は後だ。揺れと衝撃、そして破砕音は止むどころか激しさを増している。


 見るとオペラはこの激震、轟音の中でも変わらずスヤスヤ眠っていた。どれだけ大物だ。


 <おい!オペラ起きろ!!非常事態だ!!これは訓練ではない!>


「うぅん。どうしたの?」


 薄目を開けて軽く回りを確認して、そのまま寝ようとする。


 <起きろって!大鬼(オーガ)に襲われてるんだよ!このままじゃ木を倒されてしまう>


 オレは呼び掛けながら近くに置いていた弾丸を体に取り込む。火薬無しの大鬼弾(オーガバレット)×一。紫毒弾(ポイズンバレット)×三しかない。全く心もとない。なんとか保管庫まで行かないと。


「たぶんその角の魔力を辿ってやって来たのでしょうね。健気に仲間の敵討ちってところでしょう。あなたのお客さんだから頑張って追い払ってきてね」


 それだけ言ってまた寝ようとする。もう起こすのは諦めて寝ているオペラを体内に取り込んで保管庫へ向けて駆け出そうとした瞬間に一際大きな激震と爆音、そしてとうとう横向きへの重力が発生してーー隠れ家は倒されてしまったのだ。


 それを察してオペラを中心にしてボール状態になり衝撃に備える。


 無限に感じる数秒の後。大木で打ちのめされた大地の怒りの咆哮。形容出来ない衝撃、内部から吹き出す埃、腐れた木の粉が舞い踊る。オレは叩き付けられた激痛で意識がとびそうになるのを堪えてオペラを確認するがどこも怪我をしていないようだ。

 さすがに起きたようで目をパチクリさせているがまだ出さない。せめて埃が落ち着くまでは。いや、逆に今のうちに包囲を抜け出すかーー


 そんな感じで思考をフルに回転させて危機を脱出する方法を模索している時にあり得ない音と言うか声が脳内に響き渡る。

 

 

 <パンパカパーン! パッパッパパンパカパーン!!>


 おわっ! 今度はなんだ、いったいなんなんだ?

 頭の中で、いきなり耳障りで安っぽい古いアニメ調のファンファーレが鳴り響いた。しかも口で言ってる。この甲高い声は聞いたことがある。嫌な予感しかしない。



 <グッドタイミングのキサマら。バッドタイミングのキサマら。まだ生きてるキサマらにこんばんわ。邪神だよ。真の異世界生活は堪能してもらえてるかな?

 途中経過の発表をさせてもらおうかなと思ってね。クスクスクス>


 じ、じ、じ、邪神めええええ!!この忙しい状況のこのタイミングで……チビクソガキ~~!!



 オレはあまりの怒りに視界が赤く染まるような気がした。



ふう。キサマラー24話をお届けします。


急転直下です。


人生良いことばかりは続かない。


良い出来事と悪い出来事はどちらかに傾き過ぎるとシーソーのように同じ高さの反動として発生するのではないか ?


そう考えます。


というわけで楽しい時間の後には楽しくない時間が発生しました。


夏休み、


何も考えずに遊び続けると、最後には宿題と言う悪魔が無慈悲な牙を剥く。


と言うわけです。


自慢じゃないですが僕は小学六年の夏休みの宿題を提出せずに半年間の先生からの催促をかわし続け、中学生になるまで逃げ切った事があります。


ホントに自慢にならん。


さて、次回からはフェイから離れてチート勇者達のエピソードを綴ろうかと思います。


今話最終盤の邪神からのメッセージ、


このタイミングまで主要キャラクター達の行動を順番に書いていこうかなと考えています。


誰から書こうかな。


と言うか、新たな勇者も出るはずです。出るに違いない。出るよね?


くらいの感じで気長にお待ちいただけますようお願いします。





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