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魔王?ー1

「我は魔王。この世に災厄と絶望を振り撒く者なり。 矮小なる存在よ。我を世界に解き放ちし者よ。 汝の望みを叶えてしんぜる。何なりと申すがよい」


 地の底から響くような声でその言葉を言い終わるや否や、垂直に立ち昇っていた漆黒の焔はその炎の流れをとぐろを巻く大蛇のように螺旋を描き膨れ上がる。


 膨れ上がった焔は荒れ狂う黒炎を身に纏った数メートルもある腰から上の、上半身だけの巨大な人の影を切り取ったかの姿に変貌し、その巨体を胸の所でお辞儀するように悠々と折り曲げて、真上から一匹のスライムを見下ろす。


 見下ろされているスライムは、そのあまりに禍々しい巨大な人影に気圧されているのか、あるいは自身が負った重傷の痛みに耐えているのかピクリとも動かない。

 


 

 * *


 痛ってえーー内部からの爆発の衝撃がこれ程とはーー弾けた部分は焼けただれてシュウシュウ白煙が燻っている。

 その傷口の断面を動かそうとしても、溶けたガラスのように固まっていて全く動かないばかりか、激しい刺すような痛みに全身が強張ってしまう。


 左半面は全然ダメだーー右側を下にしてゆっくり這うくらいは出来るかもしれないが、とてもじゃないがそんな気にならないくらいの激痛で頭がガンガンする。


 やっとの事で亀に借りを返して精も根も尽きかけて痛みでまともに動く事も思考もままならないってのに、このやたらデカい黒い炎みたいなヤツはなんて言った?


 なにオーだって?


 まー何?


 え?まおー?マオー?麻央?真央?舞おう?馬王?だんだん意味が薄れてきた。


 分かったーー


 たぶん間男ーって言ったに違いない。


 ちょっと爆音で耳もアレになってしまってるから、なんか別の不吉な単語に聞き間違えちゃって、少しだけ焦ったーー



「我は魔王。汝の望みを叶えよう。早く申すがよい」


 やっぱり魔王だな。魔王って言ったような気がする。


 いきなり何で魔王がこんな所にーー亀に隠れてたのか?

 いや、オレが解き放ったみたいな事を言ってたから亀に封印されていたとかそんな感じか?何で亀だ?万年の封印が解けたのか?解けたって言うかオレが解いたのかーー

 

 魔王を復活させたスライム。誰?オレ?知るか。


 まさか亀を倒すと魔王が出てくるなんて誰が思う?

 いいや、そんな事は誰も思わないからオレは悪くない。


 悪いのはあの不思議コスプレの頭のオカシイ邪神だ。 


 チクショウあの邪神、無茶苦茶やりやがって。

 スタート地点の森にラスボスの魔王を配置するって何考えてんだ?こんな凶悪そうなデカいのに勝てるわけないだろうがーーいや、逆か。魔王の所にオレを送り込んだのか?どっちでもいいか。

 と言うか今にも気絶しそうなくらい痛い。ああ、痛くて気絶も出来ない。


 いやいや、なんか望みを叶えるとか言ってるから、何も今すぐに戦う必要はないのか。

 とりあえずギャルのパンツをおくれ。とでも言って帰ってもらって改めて集め直すかーー

 待て待て。集め直すってなんだ?何かと勘違いしてないか?混乱するな冷静になれ痛みを忘れろーー


 とにかく落ち着け!!深呼吸だ。ヒーフー。ヒーフー。


 落ち着いたか?まずは現状を整理しよう。


 亀をなんとか倒したーー問題なくOK。


 どうも亀に封印か何かをされていた魔王が出たーー納得がいかんがOK。


 肉体的ダメージが大きく残弾もゼローー不本意だがOK。


 よって勝てないので今は戦わないーー仕方がないOK。


 

「我は魔王。汝の望みを何なりと申すがよい。頼むから早くしてくれ」


 うるせえ。今集中して考え事をしてるんだ!!横から話かけるんじゃねえ!!痛みも思い出すだろうが。


 また深呼吸からやり直しだ。ヒーフー。ヒーフー。落ち着いて落ち着いて。オレはCOOLスライムだ。怒りは考えを鈍らせる。明鏡なんとかOK?OK。


 続けよう。


 そしてどうやら封印を解いたお礼に望みを叶えてくれるようだ。

 ここにこの絶望的状況の突破口があるはずだ。


 考えろ。


 うん、、望みを叶えてくれるって、どこまで叶えてくれるんだ?魔王を倒してくれってのはどうだろう?

 フッ。

 よし。冗談が言えるくらいには落ち着いてきたな。少し痛みも和らいで来たような気がしないでもない。

 いや、やっぱり痛い。死ぬほど痛い。ヒー。


 ハーフー。


 あっ、いや、冗談ではあるがいっそのこと邪神を倒してくれってのはどうだろう?

 魔王VS邪神ーーこいつはかなり強そうではあるが、さすがに邪神の方が格上そうだからダメだろうなーーあの生意気な邪神アリスめ。スライムにした上にこんな露骨な嫌がらせまでしやがって、死にかけてんだぞオレはーー

 くそう。また痛みと怒りでムカムカしてきたーー



「もしかして念話が使えないのか?ならば我が汝に念話をかけるから心の中で話すように念じてみよーー」


 <さっきからごちゃごちゃ煩いっつってんだろうがコノヤロウ!!!!黙って待てんのか?ええオイーー中身が人間のスライムだからって舐めてるとぶっ殺すぞーー>


「??!!!! ご、ごめんなさい」

 それまでの低い地の底からのような声ではなく、若い女の声で謝罪の言葉が紡がれたが、自分が何を言ってるかも理解出来ない程に限界を越えているオレは気付かなかった。


 まったく、最近のヤツは礼儀を知らない。デカい声を出させやがって。また痛みがーーヤツって誰だったか?まあいい。

 どこまで考えたかーー


 そうだ。アリスの嫌がらせだ。オレをこんな目にあわせやがってーーあいつ絶対今の状況を覗いてて「クスクスクス」とか笑ってるに違いないーー〇〇VSスライムなんてマッチメイク組みやがってーーあ?いや、戦わなくていいんだっけ?〇〇ってなんだっけ?


 激痛と激痛でーーどうも頭が回らないーー


「中身が人間とはどういう事なのよ?確かにあなたの魂の形は人間よね。それに魔力の流れも違うーーもしかしてあなた異世界人!!?」


 また何か言ってるような気がするが、頭に入って来ないーーやばーー意識が朦朧としてきたーー


 とりあえずーー亀の食べ残しの熊があるはずーーだ、それを食ってーー回復してからーーまた考えようーー


 そうだーーそうしようーーなんだ、最初からそうすれば良かったーー確か熊はーー目の前にあった筈だがーーあれ?なんだこの黒いのは?もう夜が来たのかーーいや、まだ昼くらいだったようなーーじゃあこの黒いのはーー邪魔なだけだなーー迂回するよりーーどけた方が早いーー



 そしてオレは痛みで感覚も殆どなくなっている右半身の一部を右にゆっくりと細く伸ばし、鞭のように横から左へ黒いものの根元を払うーー


 バシィ!! 「あべし!」ドボンっ!!


 二つの音と悲鳴が聞こえたような気がしたが、すぐに滝の轟音に掻き消され、と同時に目の前にいた漆黒の炎の巨人の影は忽然と消え去った。


 あれ?なんか軽く当たって川に落ちたような……まあいい。 そんな事より熊はーーああ、腕と足があるーーやっぱり目の前じゃないかーー助かった。とにかく回復だーー


 * *


 一時間後


 熊の腕を平らげてある程度回復させた後に、固まった左半身の断面を自切で切り離し、そのあと脚を再度食って完全回復したオレは、大鬼弾(オーガバレット)を2発と紫毒弾(ポイズンバレット)3発を回収した(鬼弾丸の素材の後弾は川に落ちたのか見つからず、叩きつけた紫毒弾は爆発の衝撃で粉々になったので2発と3発だ)


 レベルも確認したが、なんと一気に4も上がって19になっていた。体積も大幅アップの5559ml 。

 やはりあの亀はただ者ではなかったようだ。


 まあ勝ちましたけどね~


 粒子になって消え損ねた亀の素材があるかもしれないと探したが、これも影も形もなく全く見当たらなかった。あの氷柱か甲羅は良さそうな素材だっただけに、残念だが仕方がない。

 しかしあの倒した時の消え方はどうも気になる。

 これまで何度も魔物を倒してきたが、あんな消え方をするヤツは初めてだったのだ。

 まあまた同じ消え方をするやつがいたら考えるとするか。

 それより何か大事な事を忘れてるようなーー


 と、その時。


 <あなた、さっきはよくも私を川に落としてくれたわね。絶対に同じめにあわせてやるんだから>

 と、若い女の声が頭に直接聞こえた。


 なんだ?誰だ?どこからだ?異世界初日の事務的な声とは違う。どこかで聞いたようなーー


 オレは急いで近くの木陰に身を隠し、周囲をぐるりと見回してみたが滝から落ちる水風でサワサワと揺れる枝葉と草が動く以外、どこにもそれらしき姿は確認出来なかった。


 念の為、紫毒弾を回転させながら慎重に不意打ちを警戒しながら木の上に登ろうとしたが、


 <ちょっとどこに行くのよ。ここよここ。あなたの目の前よ。ほら、念話を使ってあげてるから謝罪をするなら早くしなさい>


 目の前って言われても草しかないし、念話ってなんだっけ?念じれば話が出来るのか?

 まさか透明人間か幽霊か?そんなバカなと思い、もう一度周囲を確認してみたが、やはり居ないーーえ?


 オレはある一点で目が釘付けになってしまった。


 居る。


 居る居る。


 居ました。


 そこには全身が蜘蛛の巣や泥で色白の肌が汚れているが、地面に付きそうな程の黒髪を伸ばした、少しキツめの目をした18才くらいの美しく若い女が眉間に皺を寄せて、黒の下着姿を惜しげもなく晒していて、普段のオレならハアハアなってるに違いない。


 しかし、驚いたのはその女が居る場所である。


 その女は、自身と同じくらいの高さの10センチ程の()にもたれ掛かるようにして立っていた。


 つまり女も10センチ程しかなかったのである。



 <え、え~と、あんたは小人ーーなのか?>

 その女を見下ろしながら心の中で話しかけてみた。


 女は一度下を向いて掌が真っ赤になるほどの握りこぶしを作り、全身をブルブルさせたあと、今度は念話ではなく肉声で。


 「さっき魔王だって言ったでしょうが!!このバカスライム!!舐めてるとぶっ飛ばすわよ!!」

 と、凄い剣幕で言った。




 オレはその言葉に開いた口が塞がらなかった。


 

 

またもや更新が遅くなってしまい申し訳ありません。


毎日更新されてる作者様達はホンとに凄いなあ。


と、尊敬してしまいます。


魔王?出ました。


はい。魔王?です。


何で「?」がついてるかは次話に持ち越しです。


フェイも死にかけました。


攻撃力こそスライム射撃術のお陰で飛躍的に上がってますが、防御力はレベルでの上昇分しか上がってないので打たれ弱いです。


ステータスを数値で表してないので分かりにくいかもしれませんが、スライムはしょせんスライムなのです。


だって防具無しの裸ですもん。


裸スライムですもん。


ス裸イムですもん。


なんかすいません。


この辺が今後のフェイの課題ですね。

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