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召還組2の男ー2

お気に入り登録が41件になりました。


登録していただいた皆さん、ありがとうございます。


小躍りして喜んでおります(/--)/


次は100件を目標に頑張りますので、これからも宜しくお願いいたします。

 窓一つない18畳の部屋で正座したまま辺りを怪訝そうに見回している眼鏡をかけた少年がいる。


 少年の前には艶のある飴色の本榧(ほんかや)製の将棋盤がある。

サイズは6寸9分。天地柾(てんちまさ)の足付将棋盤である。


 その上には上品な字体の本つげ盛り上げ駒が並べられている。


 盤の横には駒台が置かれており、少し離れた小さな机の上にチェスクロックが置かれている。


 タイトル戦で使われてもおかしくない程の盤駒だな。

 少年はそう思った。



 少年はK である。

 

 しばらく腕組みをしたまま考え込んでいた少年は、何も言わずに立ち上がろうと膝を立てた瞬間、部屋の中に懐かしい声が響く。


「やあK君、H君、四段昇段おめでとう。僕だよ。シンラだよ。二人とも大きくなったね」


 全く想像もしてないその声を聞いて、Kの心に喜びと困惑の風が吹き荒れる。Kは考える前に声が出ていた。


「せ、先生なのですか?突然いなくなって心配していたんです。ど、どこにいるんですか?ここはどこですか?」


 少ししてシンラの声が聞こえる。


「二人とも気持ちは分かるけど少し落ち着きなさい。いかなる場合も平常心だと教えたはずだよ」


 Kの困惑の嵐は更に大きくなる。


 この部屋には自分一人しかいないのに二人とも?それに先生の姿も見えないのに声だけは近くで聞こえる…

 いや、二つの視線を感じる。

 あのいたずらっ子のような笑みを浮かべている視線を確かに感じる。どこから見ているのか?


 いったいどういう事なんだ?


「さすがは私が見込んだ二人だ。素早く状況分析に切り替えたね。

 そして二人を喚んだのは他でもない。この場で対局してもらうためなんだよ。


 難しい事は何もない。勝った方は私の助手をしてもらう。負けた方は殺す。それだけだよ」


 今、先生はなんて言った?負けた方は殺す?そんなバカな。Kは困惑を通り越して混乱する。


「先生、冗談はやめてください。全く意味が分かりません」


「……。二人は連れていけないから一人に絞る。だけではさすがに説明不足かな?世話のやける弟子達だな。

 仕方がないから説明するけど、これが終わったら大人しく対局するんだよ。


 今、君たちがいる場所は地球ではない。とある異世界の一室だよ。そこに私が君達を召還した。


 そして私は今、(カルマ)と因果を探る研究をしている。簡単に言うと運命を数値化したいんだ。


 そのための助手を選ぶために対局してもらう。

 勝った方を助手にして、負けた方を殺すのは先程言った通りだよ。

 先手はK君、各20分切れ負けだ。それでは始めようか」


 Kは何がなんだか全く理解が追い付いていないのに、その言葉を合図にチェスクロックの時間が動き出した。


 カルマ?因果?運命を数値化?異世界?勝ったら助手?負けたら死ぬ?

 なんだ?分からない?どういう事だ?先生が僕達二人にそんな事をさせる筈がない。

 Kはますます混乱するが時間は止まらない。


 10秒……

 20秒……

 1分……


 とにかく指せ!集中しろ!


 Kは地獄の暗闇の中を一人で歩くような錯覚を覚えながら「先手7六歩」を指した。指が震えて駒をなかなか離せない。


 しばらくして「後手8四歩」と駒が動いた。

 駒自身が独立した意志のある生命体のように勝手に浮き上がった光景に思考が停止しそうになるより早く、その特徴のある動きに気付き落ち着きを取り戻す。


 緩やかに持ち上げそっと静かに駒音を立てずに置かれるHの駒の扱いそのものの動きである。

 

 声も聞こえない、姿も見えないが間違いなく目の前にHが居る。

 手を伸ばしてみるが空気を掴むばかりで何の感触もない。

 Kは目の前の何もない、Hが居るだろう空間を睨み付けた。

 目の前からHからの視線と圧力を感じる。


 幼い頃、大会の時、奨励会時代、数多くの時間を二人で盤を挟んで過ごしてきた。


 間違える筈がない。居る。間違いない居る。どういう理屈かは分からないが居ないのに居る。 


 そう確信したKの周囲からは全ての雑念が消えて、目の前の将棋だけに没頭する。


「6八銀」「3四歩」「6六歩」「6二銀」「4八銀」「4二銀」「5六歩」「5四歩」「7八金」「3二金」……


 お互い示しあわせたように「相矢倉」の手順をなぞる。

 相矢倉持久戦の構えになり、先手が攻めの構えに、後手が受けの構えになる。


 先に「3五歩」から仕掛けたのは先手のKだが、Hも受けに回り決め手を与えない。


 中盤の捻り合いから、そのまま終盤に突入するがギリギリの均衡を保ったまま寄せ合いが始まる。


 既にどちらかに形勢が傾いていてもおかしくない程、複雑な局面になっているにも拘らず、最後に指した方が良く見える。


 端攻めから矢倉を解体されたHが上部脱出を匂わせると、そうはさせじとKも妙手を放って網を絞る。


 Hも一手の隙に6九角から8六香の勝負手で追いすがる。


 お互いに残り一分を切った所でKの手が止まり、思考が凍りつく。H玉の詰みを発見したのだ。

 残り少ない時間を使い、見落としがないか確認する。

 手数は長いが間違いない。詰んでいる。


 しかし……


 Kは指そうとするが伸ばした手が動かない。

 指もブルブル震えている。

 いや、全身が痙攣しているように震えているのだ。


 このまま指し進めるとHは殺されてしまう。

 この一手にHの命がかかっているのだ。


 そう考えるとKの腕はどうしても前に出ていかない。


「K君、指すんだよ」

 先生の声が遠くで聞こえる。始めて耳にする感情のこもっていない冷たい声だ。


「先生!負けた方を殺すなんて嘘ですよね?先生がそんな事をする筈がないですよね?」

 Kはすがるように叫んだ。


「私は本気だよ。負けた方を殺す。

 さあ、指すんだ。私には君が必要なんだ」


 温かい氷のようなその声は、酷く現実感がなかったが、自分を必要だと言うその言葉に少しだけ腕が前に出たが、どうしても指す事が出来ない。


 考える時間が欲しい。K はそう思ったが、チェスクロックの表示は、まるで死刑執行のカウントダウンのように無情にも進んでいく。


 20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10……


 !!!!


 その時、突然盤面の駒が動いた。


 「3三玉」


 ……


 Kの手番なのにHが指したのだ。


 二度指し……Hの反則負けである。


 Kが放心状態で呆然としていると、目の前の空間が揺らいで、玉に中指を掛けたまま、うつ伏せに倒れているHの姿が見えた。


 Kを助けるために自らの詰みを悟ったHは反則負けを選んだのだ。


「こんな幕切れは流石の私も予想しなかったよ。

自ら殺した無二のライバルの死を乗り越えて、人の価値観を超越して欲しかったのに……」


「せ、先生……Hを本当に、こ、殺したんですか?」


「殺したよ。しかしK君にも失望したよ。棋力は上がっても、心が弱すぎる。よって零点だ。

 そしてこのままでは連れて行けないね。今度は異世界で修行してもらおうかな?」


 殺したよ。その言葉にKの心は引き裂かれそうになって目の前が真っ暗になる。


「君の名前は今からゼロだ。0と無限は同じ事だけど、

君のは零点の0だからね。

 もし、その世界を支配するくらい強くなったらまた会えるもしれないね」


 その言葉を聞いたのを最後にKは気を失った。




 * *


 盤も駒もなく、Hの死体もない部屋でKは意識を取り戻した。


 部屋には木の扉しかなく、さっきまでの出来事は夢なんじゃないのかと疑いながら扉を開ける。


 扉をくぐると大きな部屋に出た。そしてその部屋を一通り観察してみると、段上に黒板があり、教壇があり、まるで教室のようだ。


 目の前には見慣れない軍服を着た数十人の十代の少年達青年達が二組に別れて巨大な机を取り囲み、ああでもないこうでもないと一心不乱に何かに集中してた。


 人だかりに囲まれた机を見てみると15×15の盤上に、四角い木の札のような駒を配置しているようだ。

 駒には漢字が書かれており、兵だったり剣だったり槍だったり弓だったりしているが、動かし方を見るとどうやら将棋の駒ように種類毎に特徴があるようだ。


 兵、剣、槍、弓、騎、斥、車、象、砲、工、糧、陣、

そして将。


 「兵」は前と後ろに一マスづつの動ける。


 「剣」は銀の動きで「弓」に強く。

 「弓」は桂馬の動きで「槍」に強く。

 「槍」は金の動きプラス縦二マスの攻撃で「剣」に強い。

 しかし自分の弱点の駒には攻撃出来ず、同じ駒相手なら一マスバックさせる事が出来る。


 「騎」は八方向に動ける桂馬のようだが、味方の駒が隣か前後にいたら、その方向の二マスには進めない。


 「斥」は縦横二マス以内の敵の駒を動けなくする。


 「車」は飛車と同じ動き。


 「象」は角と同じ動き。


 「砲」は別の駒を挟んで縦横に攻撃。


 「工」が隣にいれば「騎」と「砲」に攻撃されない。


 「糧」が倒されると全ての兵は後ろにしか動けなくなる。


 「陣」は金と同じ動きだが「将」の周囲九マスしか移動出来ない。


 「将」は王将と同じ動きで、取られたら負けだ。


 盤は大きく駒数も多いが、将棋と違い取った駒が使えないのでチェスや中国将棋に近い感じだ。


 これはこれで面白いのだろうが、駒数が減ってくるとどうしても引き分けが多くなるだろうな。


 それにこんなゲームは見たことがない。文字は漢字だがところどころ見覚えのないのがある。

 話している言葉も中国語でも韓国語でもない初めて聞く響きだが、何故か意味は分かるし読めるのだ。


 まさか本当に異世界なのか?

 

 Kがそう考えた時、後ろから「熱心に見ているところ悪いが君は誰か?どこから入ったのか?」と、白いコートのようなのを着た、神経質そうな目つきの悪い男に声をかけられた。


 勉強を詰め込む事にしか興味がなかった、家庭教師の男に似ている。K はそう思った。

少し迷って本名を名乗ろうとしたがシンラに言われた名を名乗る。


「ゼロと言います。気がついたらここにいました。」


「ゼロ?聞いた事のない名だ。つまり不法侵入か。

 そうだな、あの局面での最善手に答えられたら帰してやろう。どうだ?」

 男はつまらなさそうに盤上を指差して言った。


 上からの物言いと目つきが気に入らないので、ゼロは分からないと答えようとした。


 その時、頭の中で両手を縛り上げられて天井から吊るされ、親指程もある鞭で拷問される血塗れの自分の姿が視えた。

 呻き声も自分のものであり、拷問している男に見覚えはない。

 それはTV 映像のように鮮明で、生々しく、打たれてもいない肉体に痛みを感じるような気がするほどリアルなものであった。


 いったいなんだこれは?


 今度は最善手を答えようとしたら画面が切り替わり、ここの生徒と同じ制服を着た自分が勉強している映像が視えた。


 この男を殴ろうとしたら、拷問される映像に切り替わる。


 逃げようとしても拷問だった。

 

 画面の中の自分に質問させたり、思い通りに行動させることも出来た。


 数回繰り返す内に自分の置かれた状況も把握した。

 この学校が軍の士官学校であるのも理解した。

 そして目の前の男が何者であるかも!


 何度か繰り返して確信する。


 


 これは未来の映像なのだと。



 ゼロのチート能力は「予知」であった。


 それは自らの未来の命の危機に際して自動発動し、その分岐点で脳内に未来の映像が再生されるものであった。


 命の危機を予知する最大範囲は5日先までであるが、更にただの「予知」ではなく、自らの行動により「干渉」し、枝葉のように分岐する未来を変更し、確認することが出来るのだ。


 のちにゼロはその能力に「干渉予知」と名付けた。



 ゼロはこの世界が異世界であると認識し、先ずは生き残るために全力を尽くす事に決めた。


 そう、自分を生かしてくれたHのためにも。


 そしてゼロは目の前の男から目を逸らさずに言う。


「10ー六象から39手詰めで先手の勝ちです。

 王よ。必ず役に立ってみせますので、ここで学ばせてください」


 意思を込めた声でそう言った。





 * * *

 

 邪神がチート勇者達を召喚する一日前。


 異世界アールグロンとは別の世界。


 異世界荒嵐

 とある部屋の一室





 うなじまでの黒髪に黒縁の眼鏡をかけた男が目をつぶったまま、机に向かい独り言を呟いている。


「よし。4日目で三人目を捕捉。


 やはり推測通り、勇者は召還組と転生組がセットで近辺に召還されているので間違いない。


 まずは殺さずに初期位置を吐かせるか。


 ……ふむ、こいつの話と歩幅からすると、初期配置は…遭遇場所から北東に約30から40キロというところか。


 この情報の誤差と、二人目の初期配置から推測される二人の距離は……5キロ前後だろう。


 ……三人目を倒して手に入るスキルは「探知」か。周囲の魔物の気配がわかるようだな。


 更に移動時間を減らすには馬を二頭手にいれなければ。


 邪神の間の時間軸が固定されていなければもっと情報が引き出せるのだが。

 ……

 ……


 ……ふう。時間はまだ丸一日はある。

 もう一度三人目を殺したところからやり直すとするか」


 四日間まともに寝ていない男の目の下にはクマが出来ていて肌艶も青白く、とても健康とは言えない状態であるにも関わらず、目の奥底から沸き上がる執念の炎は全身に飛び火し、視認出来そうな程のエネルギーは、まるで疲れと言うものを感じさせない。


 男は座ったまま一度背伸びをして肩のコリをほぐす仕草をしてから、再度目を閉じて思考に没頭する。



 この男の名前はゼロ。


 日本人でありこの異世界荒嵐に召還された異世界人である。日本での名前はKだ。


 年は20代後半。

 この国の国王である。


 いや、国王というのはこの男の肩書きを正確に表せてはいない。

 ゼロは世界中のあらゆる国という国を制覇し、人という人を支配し、全ての富みを手に入れた。


 つまり世界の王である。


 従うものには束の間の生と役割を、刃向かうものには絶望と即座の死を与えてきた。


 有能さを見込まれ富みを分け与えられたものは男の事を英雄と讃え。

 

 無能の烙印を押され一族朗党を皆殺しにされるのを目撃したものは悪魔だと忌諱(きい)し。


 悪意や害意に対して、事前に察知して手をうつのを知るものなどは神だと恐れた。


 そして現在。


 ゼロはこの異世界の全ての人間から虐殺の魔王と呼ばれていた。



 * *


 15年前


 当時14才であった男は六大王家と言われる中で、最も力無く、最も小さく、最も辺境に位置する国に突然現れた。


 ゼロの14才以前の過去は不明。

 奴隷だったとも下級貴族の子息であったとも噂されるが事実を知るものはいない。


 理由を知るものは少ないが、王の目に止まり士官見習いとなる。


 15才の時に国が運営する最高学府の士官養成学校を、たったの一年で主席で卒業する。

 同年には初陣である大国相手の東部領土防衛戦で二十倍の兵力差の敵軍から多くの味方を脱出させた。


 ゼロはこの世界では軽んじられている亜人種と、弾丸制限や雨などの環境に環境に左右されるこれまた重要視されていない銃歩兵の一団を任された。

 要は余所者の若造士官に死んでも損のない部隊を任せただけである。


 しかし、この東部領土防衛戦でゼロの心を壊すある出来事が起きていた。


 開戦直後こそ互角の兵力であったが、総司令管である大貴族の御曹司が、功を焦って中央突破をしたのが敗戦の理由であるのだが、ゼロは事前に敵陣の中央の薄みは誘いの罠であるのを看破して進言したのを「初陣の若造に何が分かる」と一蹴されてしまった。


 これは上層部の無能が大半の責任ではあるが、ゼロの発言力の無さも責任の一端であると言える。

 少なくともゼロ自身はそう考えた。


 敗戦はもう仕方がない。だが少しでも多くの兵士を無事に脱出させる。

 平和な日本に生まれたゼロは味方を見殺しにするのを良しとしなかったのだ。


 「干渉予知」は発動してないので自らに命の危険性がないのは分かっていた。

 それゆえの無謀とも言える作戦を周囲の反対を押しきって決行する。


 少数ではあるが、こちらの大隊の動きを先読みして脱出路を封鎖しようと動く敵一団がある。

 更に亜人種の索敵兵から、人でありながら念話で各部隊に指示を出している部隊長がいるとも報告を受けた。

 恐らく同一の部隊だ


 そいつだ。そいつを殺さなくては味方の損害は増えていく。

 ゼロはそう考えて、自らの部隊を囮に時間を稼ぎ、その部隊長を殺す事にした。「干渉予知」は発動しない。


 亜人にその部隊長を割り出させ。発見する。


 時間はない。迷うな。人殺しがなんだ。攻撃するにはするべきタイミングがある。それが今だ。

 ゼロは自分にそう言い聞かせる。


 小柄な指揮官が率いる部隊を、伏兵の十字砲火怯ませて側面突撃をかける。

 小柄な指揮官がこちらに気づいた時に一瞬固まった。

しかしその隙を逃さずにがら空きの脇腹に銃剣を深く突き刺したのだ。

その感触はこの手に残っている。


 間違いなく致命傷だ。


 ゼロはそう確信して部下達に「走れ」と命令する。

 そしてその混乱に乗じて湿地帯を抜けて自部隊も脱出しようとした。


 怒号と喧騒の中を久しく使っていない「待て」という日本語が聞こえたような気がして銃を落としそうになる。


「き、K……俺だ」と、明らかな致命傷をおった敵部隊長が最後の力を振り絞って声を上げたのだ。

 


 聞き慣れたその声でゼロの精神にザワリとした嫌な予感が走る。


 一秒も惜しい逃亡中であったが、ゼロは足を止めて振りかえる。


 腹を押さえて血塗れの軍帽を取り落とすそれはHであった。

 そして流れ弾が頭部に命中してザクロのように弾け飛び絶命するHの姿が目に焼き付いた。



 Hはあの対局で死んでなどいなかった。


 それどころか別々の国に召還させられて殺し合いをさせられていたのである。


 その場で立ち尽くすゼロは、味方に引き摺られるように脱出を果たすが、あまりの衝撃にそのあとの記憶はほとんどない。


 あるのは先生、いや、シンラに対する途方もない怒りと、Hを自らの手で殺させた世界情勢、この世界に対する憎しみ、そして絶望であった。

 



 この世界にこの俺の怒りを知らしめてやる。


 そしてシンラは必ず見つけ出して殺す。


 ゼロはそう固く誓った。


 * * * 



 16才の時に参加した、一部の貴族の強硬により実現した東部領土奪還作戦ではそれまで重要視されていなかった、亜人種の念話通信による三地点念話傍受から主力部隊の位置を割り出し、背後からの浸透戦術により敵総司令官を討ち取り敗走させた。


 同年 同盟国の裏切りを事前に察知して、逆用。

 敗走を装い、隘路に誘い込み水攻めにて五万の軍を殲滅。


 17才にして五千の軍を束ねる。

この五千全てを職業軍人として自らの直轄兵力として認められる。


 同年 クーデターを起こし王族を抹殺、軍部を掌握。

    当時10才の王女を女王として即位させ、自らを後見人として王領を掌握。


 同年 三大貴族を抹殺し国土の8割を掌握。同時に王女と婚約し王を名乗る。

 残り2割の辺境貴族も帰属の意を示し全土を掌握。


 18才の時に不可侵地域であった孤島の小国、魔導皇国を侵略。多くの魔術に関する知識、技術、人材を手にする。


 同年 各地から魔術の素養のあるものを集め、王立魔道院を創立。

 通信、情報収集のみならず世界で初めて軍レベルでの戦術に魔術を運用する魔導部隊を創設。 


 19才の時に大国を除く四か国と同盟を結び、最大勢力を誇る大国に宣戦布告をするが、若輩の身であるのを理由に同盟序列五位を自ら称する。

 同時期に大国の王族が相次いで病死。

 混乱に乗じて王都まで攻め入り、瞬く間に制圧。降伏させる。

 非才の身に余るとし、内政に専念したいとの理由で一切の領土を取得せずに帰国。四か国に内密で大国王家の第二王子を自国で保護。


 20才の時に、周辺四か国の内の二カ国が大国の領土権を主張して戦争を起こす。残りの三カ国もそれぞれ領土権を主張して、四カ国による大戦が勃発。

 自国はそれぞれの国に武器、食料の輸出のみを行い参加せず。難民と敗残兵を吸収して国力を蓄える。


 結果、大国と一カ国が滅亡し、勝利した三カ国も疲弊する。


 同年 四か国停戦協定を持ち掛け束の間の平和が訪れる。


 21才の時に滅亡した大国の第二王子を擁護し、元大国の領土の正当権利を主張し停戦協定を破棄。

 中央に位置する国家に宣戦布告をしてこれを撃破。これにより世界の七分の4を領土とする。


 22才の時に分断された二か国からの和平案を拒否。

二か国の領土の半分を譲渡される事を条件にこれを受諾。


 23才の時に二か国との和平協定を破棄。同時に二か国への進行を開始する。開戦からたったの二ヶ月で終戦。

これにより二か国を併呑(へいどん)し、世界の王となる。



 

 世界を手に入れた男は、満足しない。


 ゼロは自問する。


 いや、結局のところ、こんな事は代用でしかなかったのではないのか?


 そうだ、ただの代用だ。


 世界なんかが欲しかったのか?


 いや、違う。欲しかったのは世界じゃない。


 俺がなりたかったのは王なのか?


 違う。そんな地位には興味はなかった。


 じゃあ何なのだ?


 そうだ……俺の目的は一つだけだ……



 シンラを殺す……

 それしかない。




 世界の王となったゼロはそれまで被っていた人間の皮を脱ぎ捨てた。


 世界中を探させたがシンラは見つからなかった。


 あの男はこの世界に居ないのかもしれない。


 自分の求めるものの為にゼロはある決断をする。



 そして自ら創設した王立魔道院にある研究させ始めたのだ。



 それは異世界移動と、異世界人召還の研究である。


 ゼロは自らがシンラの元に移動するか、シンラをここに召還することで殺そうと考えたのだ。


 この研究には老若男女問わずに集められた人間を使い、日に数千人単位での人体実験が行われたと言われる。


 日々消えていく領民に不信を抱いた貴族も同然ながらいた。しかし反意を示し、挙兵する前に王となった男の

「殺せ」の一言で、事前に察知していたとしか思えないほど的確に効率よく消されていったのだ。


 有能なものもいた、共に背中を預けて戦ったものもいた。


 しかしその全てを自らに逆らうならばと、目的を邪魔するならと暗殺させた。


 貴族達は連係する間もなく情報を遮断され、暗殺され、解体した貴族から徴収された資産は、異世界移動の研究費用にあてられた。


 そして……



 

 ゼロが異世界に来てから十五年。

 世界の王になって異世界移動と異世界人召還の研究を開始してから六年が経過していた。



 この世界の人口は三分の1以下になっていた。

 

 急ピッチで研究をさせてはいるが、微々たる成果しか現れていない。


 研究の副産物で魂の仕組みについては理解している。

 他の魔術についても研究は進んだ。


 しかし異世界移動と召還術に関しては進展しないのだ。


 自分も研究に参加している、しかし干渉予知は使っていない。

 それは5日以降に実験結果が出るものを見逃すかもしれないという理由からである。 

 自分の能力は無敵ではあるが、長期的な実験には向いていない。

 やはり人数で薄めるしかない。


 どんな手段を使ってもシンラを召還するのだ。

 そのためにはこの世界の人間など、全て死に絶えてしまっても構わない。


 ゼロは自分が冷静に狂っているのを自覚している。


 目的を達成したら地獄におちる覚悟も出来ている。


 その思いが通じたのか。


 いや、しかし、


 いや、しかし、これこそ運命なのかもしれない。




 つまり。


 目的と地獄の扉が同時にやって来たのだ。



 前触れもなく『干渉予知』が発動した。

 頭には映像が流れる。


 ゼロの心は小揺るぎもせずに状況分析を始める。




 真っ暗い空間だ。


 突然明るくなる。


 そこは真っ白な空間だ。


 壇上には一人の女の子がいた。


 声が聞こえる。


「ようこそチート勇者諸君。 僕はこの次元を統べる第一級次元神だよ」

 ……

 ……

 ……

 ……

 ……


 ふふふ、アハハ、ハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!


 邪神の話を全て聞き終わった、ゼロの絶叫のごとき狂笑が部屋中にこだまする。



 居る。あの視線を感じる。間違いなくアイツもここに召還されている。


 5日後に地獄の扉が開くのだ。


 やることは山ほどある。


 先ずは情報収集……いや、「干渉予知」を持ち込む為に魂の上書きに対する更なる上書きの術式を完成させなければ。

 そして5日以内に出来るだけ多くの勇者を殺すルートの構築だ。


 ゼロは短時間で最善であろう方針を固め、聞くものに全霊の行動を促す力声で部下に指示を出す。


「今すぐ魔道院の上級魔術師を全員集めろ!!急げ!!」


 その声に含まれる歓喜と覇気は誰の耳にも明らかだった。




 * * *


 5日後


 ノースシード大陸に下り立つ一人の男の姿があった。


 <名前を入力してください>


 「ゼロ」


 <ゼロで登録しました。魂と肉体の接続が完了しました>


 

 その声を聞き、男は迷いなく南に向かって歩き始めた。




 一人目の勇者と、遥か先の何処かに居るであろうシンラを殺すために……




 

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。


召還組2の男の続きです。


なんとも先生は存在感ありますね。


名前はシンラです。


漢字で書くと森羅です。森羅万象のシンラですね。


この名前は以前お世話になっていたソーシャルゲームのギルドマスターの名前を使わせていただきました。


ちなみにゼロという名前もギルドメンバーの名前です。


チュロス、ヒーロ、ミウ、シア、アーユ、レモンもギルメンです。


皆さんお元気にしてますか?


僕は元気です。


名前を使わせてもらうのに、出来るだけ酷い扱いにはしないと言いましたが、既にギルマスとゼロさんはえらいことになってしまいました。


え?OK?ありがとうございます。


今回は軍記風になったり将棋風になったり、勝手に盤上遊戯を作ってみたりと、長々となってしまいました。


短く削ったのに、それでも一万字近くになってしまいました。


正直頭を抱えました。


14才の少年に進んで戦争に参加させるにはどうすればいいのかと、です。


色々悩んだ結果、H君には気の毒な事になってしまいました。


H君のご冥福をお祈りいたします。


いつか将棋だけをテーマに小説を書きたいなと思いました。


最近プロ棋士がコンピューターに惨敗してしまいましたが、それでもプロ将棋の価値は全く下がっていないと僕は考えます。


人間だからこその感情があり、ミスをして、悩んで、捻り出した手は素晴らしく、生み出されるドラマには黄金の輝きがあるのです。


日曜日にNHK でTV対局を毎週やってますから興味があれば是非ご覧になってください。


将棋は面白いのです。







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