驚くべき成長
14話を加筆修正しました。
大きく変えたのはレモンパートの終盤と、タツオパートの終盤です。
大筋に変更はないのですが、終わり方があまりにサッパリし過ぎてるように感じてしまい我慢出来ずに加筆をしてしまいました。
改悪にはなってないとは思いますが、読者様にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんm(__)mm(__)mm(__)m
* *
アダシュの森 下流 午前中
うーん。この結界はどこまで続くんだ?
一匹の奇妙な生物が、天空からの光が大地に届くことの無い鬱蒼とした原生林で、心中で呆れを含んだ独り言を吐きながら地上高くにそびえる大木の、深々と生い茂る枝の間を慣れた手つき?で進んでいる。
知らない人が見たら、その細長く伸びた形状と、体の中程に規則正しく並んだ斑点のごとき紫の模様から、緑色を主にした半透明な新種の蛇か、木上を生活圏にするワーム系統の魔物だと推測しただろう。
大小さまざまな葉やツタに溶け込んで、サラサラと風にそよぐ動きに、ごく自然に擬態している生物を見分ける事が出来ればだが。
しかし更に近くで監察することが出来るなら、その紫の斑点は表面に浮き出ているものではなく、人の小指程の大きさと形をした紫色の石を、体内に取り込んでいる事が分かっただろう。その中に一つだけ大きめの平たい黒い石があることも。
石の大きさはバラバラではあるが、
小指の第一関節まで程の大きさの物が四個。
小指の第二関節まで程の大きさの物が四個。
小指の付け根まで程の大きさの物が一個。
ここまでの物には全て側面に螺旋状の溝が刻まれていて、先にいくほど鋭くなっているが、先端は少しだけ丸みを帯びている。
そしてそれとは別に何の加工もされていない五センチ程の丸い石が三個。
矢じりのように薄く鋭い形状の五センチ程の真っ黒い石が一つ。
計十三個の体内に取り込んでいる石が、遠目には模様に見えるのだ。
今のところその石を何に使うのかを知っているのは、その奇妙な生物のみである。なぜなら見たものは全て死んでいるのだから。
しかし、真に驚くべきはその移動方法である。
時には枝の上を這い。
時には重力を無視するかのごとく下部に張り付き。
時には鞭のごとく素早く伸ばした体を5メートルも先の枝に叩きつけツタのごとく絡み付き、そして限界まで引き伸ばされたゴムが収縮するように縮め。
時には両端を固定して全身を弓の弦のごとく引き絞り、その反動で自身を発射させ跳躍もする。
そして獲物を捕食する時以外は一切地上には降りない。
恐らく狩人や冒険者に認識されれば新種の魔物として登録されるだろう。
実はフツーのスライムでしかないのに…
その奇妙な生物とはフェイである。
この邪神主宰の罰ゲーム開始から20日。
ダークエルフの里の結界に魂を拒絶されてから17日が経過した。
レベルは15。
体積は3797ml
特技溶解のレベルは10。
自切のレベルは6。
ただ一匹の矮小なスライムでしかなかったフェイは、今ではアダシュの森の下流地域では敵無しの存在に成長していた。
しかしスカートの破片はまだ溶かせていない(泣)
* *
うーん。この結界はどこまで続くんだ?
レベルも15になったし、結界を回り込んで一度森の外に出たいのに、全然途切れない。
日が登らないうちから出発した。
ゆっくり進んだとはいえ、軽く十数キロは進んだとは思うが、全く切れ目が無い。
というか森林も途切れる気配無し。
どんだけデカイんだか。大森林にしろと言いたい。
まさかとは思うが、この結界は、森全体を囲ってないだろうな?
いやいや、流石にそれはないか。
しかし興奮してない時のオレの予想って、だいたい当たらんし。
間違いなくダークエルフの仕業だろう、あのリーダーなら魔物を外に出さないためにそれくらいしてもおかしくないような気がする。
しかしそれだとこの森から出れないって事になる。
正直言って森はもううんざり。
そう。ゆとり世代は飽きっぽいのだ!!
まあ のだ!!とか言ってる場合じゃないし、上流に行くほど勇気もないしで、とりあえず結界に沿って進んではいるのだが…うーん。
おおっ!あれは。
そんな思考を垂れ流しながら進んでいると、前方に汚い茶色の布切れを纏って、右手に太いこん棒を持った、三匹の赤い肌の大鬼を発見した。
まあ小鬼よりはデカイので大鬼と呼んでいるが、あいつらよりデカイのがいたら中鬼に格下げされるのだけど。
大鬼と呼ぶより、なんかうまい呼び方が、こう、喉に引っかかった小骨のように出そうで出ない。
地上最強のあのパパス、なんて言ってたっけ?
まあ名前なんてなんでもいいか。
身長は1,8Mくらい。出っ張った額の上にちょこんと六センチ程の細長い角が生えてるのが特徴だ。
他の魔物は何度か見逃したが、こいつは別だ。
まだ一回しか遭遇したことがないこいつがいるなら、ここまで来たかいがあったとも言える。
しかも三匹も。
ここは当然やる。
スルスルと奴らの斜め頭上に音もなく忍び寄る。
大鬼は全く気づいていない。
気づくハズがない。
木上移動は更に磨きがかけられて、今や忍者レベルに達していると思う。
そう。今のオレは戦士からジョブチェンジして忍者だから。だから!!
ゲーム的には戦士から忍者になれるのか知らんけども。
三匹それぞれ座って休憩している。
「キギ」とか。「グゲゴ」「ドフウ」とか言って会話しているようだ。
アホめ。完全に油断してるな。
そして今からはガンナーだ。
さて、一番小さいのでいいか。
三発セット。
「カシャン」
いや、音はしてないんだけどね。
拳銃の弾を込めたシリンダーをセットした音だと思ってくれ。雰囲気作りのイメージだ。イメージ。
拳銃なんて触った事もないからオレも適当だ。
もうこいつらはゴルゴに狙われた標的も同然である。
狙いは左胸の心臓付近。
一番多く使ってきたこの弾の有効射程は10M。
的までは5M程。外すわけがない。
ゴムを圧縮。威力より精度重視。
心の中で深呼吸。止める。
三個同時に弾の側面を左右から螺旋方向に弾いて横回転。
ほぼ同時に底を強く弾いて発射。
シュボッ!! トトトッ!!
奴らの着ている布切れには一センチ程の小さな黒い孔が空いた。もちろん左胸のど真ん中である。
そこから赤い染みが拡がっていく。
血の染みだ。
奴らは痛覚が鈍いのかやっと何か攻撃されたと気付いたようだがもう遅い。
三匹は急いで立ち上がろうとするが、口の上下に生えた牙の端から泡を吹いて、そのまま立ち上がる事もなくドスンと音をたてて崩れ落ちた。
三丁あがりっと。
フフフ。弾丸に使用している紫の石はかなりの毒性があり、魔物だろうがかすっただけでも数分後には呼吸困難から全身麻痺におちいりお陀仏なのだよ。
それを心臓に撃ち込んだ効果は見ての通り。
紫スライムがいつも同じ所で寝ているので変だなあと思って、地面を掘り返したら、この石があったのだが、それをこの形状になるように溶解して、更に貫通力を上げるために螺旋状に溝を彫り完成させた自慢の一品である。
ちなみに「溶解レベル6」から鉱物が溶かせるようになり、意識して部分的に溶かせるようになったのは練習の賜物だ。
名付けてスライム射撃術「ポイズンバレット」
これこそオレが魔法対策で開発した遠距離攻撃であり。一番多く使っている攻撃手段でもある。
これを応用した奥の手もありますぞ。フフフ。
まああれ以来、ダークエルフに遭遇してないので、魔物相手にしか使ってないのだが。
今一番欲しいもの=睡眠か麻痺の弾丸
何に使うかって?野暮な事を聞きますなあ~
さてと。
オレは三匹が動かなくなったのを確認して、更に60秒を数えてから周囲に気を配りながら下りる。
この瞬間が何気に危ないのだ。
大鬼がいたので何も潜んでないとは思うが、前にも似たような状況で、でかい亀の魔物に奇襲されて危なく殺されかけた事がある。
この異世界は一瞬の油断で死ぬことがあるのだ。
警戒に し過ぎるということはない。
石橋を叩く時こそ背後に注意。だな。
先ずは三匹の左胸をまさぐり弾丸を回収する。
加減をしたので貫通はしていない。あったあった。
予備はもちろん隠してあるが、けっこう作るのに時間がかかるので再利用する。
体内に取り込んで、血と汚れだけ溶解、吸収する。
次に角を切り出す。
前回遭遇した奴は、あんなに硬い角なのに、なぜか折れていて使えなかった。
今度は超美品だ。慎重にいこう。
出来るだけ大きなブツが欲しいので、額の肉を溶解して頭蓋骨を露出させる。
そして、角を溶かすのではなくて、その根元の頭蓋骨を角の円周に沿って溶かしていく。コンマ数ミリのレーザーカッターのごとく、薄く薄く一点に集中して内圧を高め、円周だけに溶解の力を圧縮する。円周の頭蓋骨だけドンドン溶解されて乳白色の渦を巻くのが見える。
だがその間も周囲の景色に変化が無いか、不自然な音がしないか、魔物の気配はしないか気を配る。
取れた。そしてでかい!!角部分だけで7センチはある。
しかし喜ぶのは上に戻ってからだ。
残りの二本も同じ要領で切り出し、素早く木の上移動する。
ふう。一本あたり一分半ってところか?
もう少し速くしたいところだが、まあ上出来だろう。
まずはレベルを確認…メニューオープン
フェイ レベル15 種族=スライム
体積 3779ml
装備 紫毒の結晶石×12
黒曜石のナイフ
魔法なし
スキル 異世界言語
特技 溶解レベル10
自切レベル6
昨日上がったばかりだからか変わってない。
武器だと認識して取り込むと装備品になるこの不思議。
これも仕組みはわからんけど。
どうもレベルが上がりにくくなってるんだよなあ。
オレはともかく、他のスライムなら大鬼を単独で三匹も倒したら絶対に上がると思うんだけど…個体差があるのか?もしくはあの大鬼はかなり弱いのか?
まあこれは考えても仕方がない。
それより切り出した角を眺める……見事な角だ。
ズッシリと重い。
高さ7センチ、底面の直径4センチ程の円錐形。
側面には頂点から二本の螺旋が絡むように対称に底面まで伸びている。
恐ろしく硬い、そして重い素材なのだが、頭蓋骨ごと切り出したので見えないが、内部は空洞になっているのだ。
アハハ、やったぜ。念願の新兵器開発の目処がたった。
あの野郎~首を洗って待ってろよ。
ククク、あの硬い奴の驚く顔が目に浮かぶわ!!
クハハハハ~!!
完全に悪者の笑い方だが、最凶最悪の魂はそんな事は気にしないのである。
フェイがどえらく成長しました。
今までの流れで少しづつ成長させるのを一度は書いたのですが、どうもマンネリ化してるような気がしたので、ほぼ完全に書き直しました。
おかげで一話は貯金があったのが残高0です。
大まかな流れは決まっているのですが、何せ書かないといけない登場人物が多すぎるのが……
誰ですか?
え?
誰なのですか?
何が?
チート勇者を666人なんて調子こいた事をした人は?
……
……
僕かな?
ゴホン!!それはともかくフェイの成長です。
レベルは15に上がりましたが、どうやらスライムは魔法を覚えないようです。
したがって苦肉の策で編み出したスライム射撃術ですが、これは毒耐性持ちか、強度の高い外骨格や鎧、あるいは物理障壁の魔法もしくは解毒の魔法がないと一撃必殺です。
忍者やガンナーと言うより、アサシンと言えるかもしれません。
こんなモンスターは嫌だ!
毒の石を死角から飛ばしてくるスライム。
隙あらば体内に侵入して窒息死を狙ってくるスライム。
好物=女性の衣服
うんうん。これはキツいですね。
液体だけにどこからでも不法侵入できますし。




