表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/24

邪悪な魂

 * *


 アダシュの森下流 夜


 オレは木の上に身を潜めてジッと紫のスライムと、ボロい革鎧を着た緑の小鬼の戦いを観戦している。

 

 というのも、吹雪の魔法対策も全く思いついていないし、それよりもあのJK のスカートの切れ端を溶かす事が出来るまではダークエルフの集落には行かないと決めたからだ。

 この問題をクリアせずには前には進めない。


 また同じ状況になった時に、やっぱり溶けませんでした~エヘヘ。ではすまされない。

 アマチュアなら同じ失敗をしても笑って誤魔化すのかもしれないが、オレは溶解のプロフェッショナルのスライムだ。ここはプロとして妥協は出来ない。


 そしてそのためには魔物を溶かして、溶解のレベルを上げるのが近道であると結論づけた。


 溶けぬなら溶かしてみせよう全裸まで。だな。


 つまり当初の予定であった、スライムからスライム技術を盗みながら獲物を探し、あわよくばそれを倒してレベルを上げようというわけだ。


 木の上を移動するようになって、いきなり襲われる心配がなくなって命の危険が少なくなったのと、上から見下ろすことにより、魔物探索の精度も格段に上がった。

 身の安全は心のゆとり。

 安全に、強くなり、そしてあのJK に借りを返すのだ!!


 …

 …

 …


 とまあ、格好はつけましたが、すいません、嘘をつきました。と言うか、すぐにバレるので本当の事を言います。

 実は今は次の日の夜なのです。


 ダークエルフの集落にはあの後すぐ行ったのです…



 でも入れませんでした。アハハ。


 そう。入れなかったのです。フハハ。


 入れなかったんだよう~くうう(泣)



 やけくそで詳細に説明します。


 なんかですね、下流に向かったら、途中の空間が白っぽい膜と言うか、壁みたいになっててですね、手前はその膜が薄くてですね、奥はだんだん濃くなってたのですよ。

 僕はその膜が、リーダーが言っていた結界だとすぐに気がついたのです。


 僕は例のごとく木の上を移動していた訳なのですが、そうしたら膜の内側にスライムが数匹入り込んでいたのが見えてですね~、あっ、なんだよ、あいつらが入れるならオレも同然行けるに違いないと気楽に結界内部に細長く伸ばした体を踏み入れたのですが…



 はい。燃えました。

 それもジワッとではなくて、ボボボボって感じで一瞬で燃え尽きたのです。

 ええ、それは慌てました。だって侵入してない方の体まで火が伝わってきたのですから、慌てないハズがありません。


 必死でしたね。もう普通に死を感じました。

 悲鳴がアバババババア!!!!でしたもん。

 熱さを感じる間も無かったですし。


 でも体を細長くしていたのが良かったみたいで、火が全身に回る前に、燃えている所を切り離す事が出来ました。


 そう、特技の自切(じせつ)です。

 今回のでハッキリしましたが、自切ってのはトカゲのシッポのように体を切り離す能力だったのです。そのお陰で命拾いしました。いや、ホント。

 余談ですが自切のレベルが2に上がりました。


 命拾いした僕は考えました。


 どうやら僕の魂は邪悪なのだろうと。

 それもあの燃え方からするとかなりの邪悪さ加減であるのだろうと思います。

 正直言って、邪悪の定義を誰かに説明してもらいたい。

 求む!邪悪の定義。


 邪神アリスは僕に言いました。キサマは最凶最悪であると。

 僕はそんなことを信じてはいませんでした。

 だって僕はフツーのニートですよ?

 人畜無害のフツーのニートですよ?

 そんなのが最凶最悪だなんて誰も信じませんよ。


 あの褐色のダークエルフ達は、ダークなのに邪悪ではないと?

 スライム達は魔物なのに邪悪ではないと?

 じゃあ僕は?


 「見た目は魔物。頭脳は人間。そして魂は最凶最悪」

ですが何か?問題でも?ありますか?


 無いですね?じゃあ戻ります。 



 とまあそういうワケで二匹の戦いを観察しているのだが、この二匹は最初から戦っていたわけではない。


 呑気にウロウロしては、草を食って寝るを繰り返す、探索能力の無い紫のスライムに、オレが小鬼を紹介してあげたのだ。

 横になっていた小鬼に、ゴムの動きのデコピンの要領で石を投げつけて、追いかけて来た所を紫のスライムまで親切に案内してあげたのだが、小鬼の出っ張った額の肉の薄い部分にボゴッてスゴい音がして石が命中したのが気に入ったのか、目を真っ赤にして喜んでいた。


 ラウンド1 ファイ!! 


 紫のスライムはやはり毒性があるようで、ひたすら小鬼の目を攻撃している。小鬼の目は、度重なる毒攻撃で焼けただれ、既に視力を失っているようだ。


 そして闇雲にこん棒で攻撃をしているのだが、紫のスライムは小鬼の鎧に密着して離れない。

 自分の体をこん棒で打ちすえるって発想はないのだろう。もう小鬼は息を荒げて地面を叩いてばかりだ。


 なるほど。オレは毒は無いが、最初に目を溶かして視力を奪うのは有効だろう。これは使える!


 と、その時、その衝撃で小鬼の鎧が壊れて、スライムごと地面に落ちた。

 そこをこん棒がスライムにクリーンヒットしたのだ。


 紫のスライムは再度密着しようと近づくが、あまりに動きが遅すぎる。こん棒が一撃、二撃とまともに入る。


 おお!大逆転だ。


 紫のスライムは削られて本体は三分の1程になっててノロノロ逃げ出している。

 小鬼は別の方向を狂ったように叩いている。


 マジか?こんなチャンスをオレが見逃すハズがない。

 弱ったヤツには容赦はしないよ。オレは。


 オレは木の上から素早く降りて、小さくなった紫のスライムを急襲する。

 毒の心配はあったが、たぶん大丈夫だろうと取り込み、問題なく溶解した。

 やはり毒は食らわなかった。


 これまで何度も毒っぽいキノコや草を食べてきたが、一度も毒になった事がないので、この体は毒の耐性があるのか、あるいは溶解するときは毒にはならないのじゃないか?と、考えていたのだが、どうやら当たりだったみたいだ。


 次に小鬼の背後を蛇のようによじ登り、首を伝ってデカイ鼻の穴から体内に侵入して溶かしながら窒息死させた。

 こいつは視力はないし、毒で瀕死だったので反撃らしい反撃も無かった。


 ごっつぁん!!

 勝者フェイ。

 そしてメニューオープン。


  フェイ レベル7 種族=スライム

 体積 1771ml

 装備なし

 魔法なし

 スキル 異世界言語

 特技  溶解レベル4

     自切レベル2


 結構結構。順調ですぞ。

 回復したし、レベルも2つ上がって体積も増えた。

 なんか微妙に半端な数字なのが気になるが、まあいい。

 溶解も1つ上がって4になってますな。な!

 スカートは……ダメか。まだ溶けない。


 まあ。この調子でレベルを上げればそのうち溶かせるだろう。今日はもう寝て、明日はデコピンと移動の練習でもしよう。


 そしてオレは木の上で眠りについた。



 * * *


 ボークステイト西部 岩石地帯 盗賊の隠れ家


 右手の甲に8の数字が書かれた男は両手を固い麻紐で縛られて、小さな独房に閉じ込められていた。


 灯りはなく、暗闇の中で満足に足を伸ばす事も出来ずに、窮屈な体勢で半日経過しているにも関わらず、思考するには何の妨げにもならないので全く気にしていない。


 男は寝そべったまま考える。


 隠れ家の規模、見張り、足音からすると30人前後の盗賊団か。ちょっと物足りないが、こんな小規模集団からやり直すのも悪くはないな。


 男はそんな事を考える。


 慌てる事はない。大きな戦をするにはそれなりの準備が必要だ。世界が変わろうと、人の欲望は変わりはしない。男がいて女がいて、金があり、土地があり、権力があれば争いがある。争いの影には憎しみが生まれ、憎しみは悲劇を生み、その悲劇は別の場所では喜劇に変わり、全てを金に変えて、また争いが起きる。

 それをいつもの通り転がせばいいのだ。

 やることは同じなのだが……


 神様、願わくば私の興味をそそる人物が現れてくれますように。 



 暗闇の中で人の形をした悪意が、ぼんやりと虚ろに目を開けたまま神に祈りを捧げた。




邪悪の定義 はてなダイアリーより


自己中心的であり、自らの欲望の実現のためなら他者を不幸にする事すらいとわないという心的情動を形容したことば。


だそうです。


こうなると次は欲望の定義を調べないと、根元には辿り着けないので調べます。


欲 wikより


何かを欲しいと思うこと、そう感じている状態。


だそうです。


つまりは自らの欲するものを手にいれるか、実現させるために手段を選ばないというのが邪悪って事でいいのでしょうか?


これでは全ての生物が邪悪になってしまいます。


分かりやすいところでは食欲がそうですね。


他の命を食べて、自らの空腹を満たすのも、この条件に当てはまります。


生きる事、これすなわち邪悪なり。


さすがにこれは乱暴過ぎますよね。


皆さんはどう思います?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ