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クリア目前のゲーム

作者: 岸本タユ

 ここまでの道のりは長かった。寝る間も惜しんで、モンスターを倒し、レベルを上げた。レベルだけじゃなく、装備も常に最新式のものを揃え、できるだけ死ぬ確率を避けた。これほどゲームにのめりこむことになるとは思わなかった。俺も自分でゲームで遊ぶまではゲームで遊んでいる人間を馬鹿にしていた。大事な時間をゲームに費やしてるなんて馬鹿じゃないかと考えていた。

 しかし、俺が間違っていた。ゲームは間違いなく面白い。寝食を犠牲にして時間を費やす価値がある。そこには世界がある。それこそ無限の、なんでもあって、何もない世界がある。その一端をゲームの画面を通して体験できることは、今の世の中の何事にも代えがたいことだ。

 俺がゲームを始めたのは友人がすすめてくれたからだ。法科大学院の試験に落ちて、気を落としていた時に「こんなときはゲームでもして気分転換すればいいよ」と言った。

「やったことないんだけど、ゲームって何をすればいい?」

 俺の疑問に友人は驚いた表情を見せて、3万円以上もする箱型のテレビに繋ぐタイプのゲーム機と、ゲームの名前を言った。

 そのときの俺はおかしかった。普段なら真に受けることはなかったが、俺は帰り道に電器店により、値段も気にせずにゲーム機とゲームソフトを買い、それからほぼ飲まず食わずでゲームをやり続けた。

 初めてのことだったので、最初のうちはどうしていいかわからず、ゲームの何が面白いか疑問だったが、操作方法、おおまかな仕組みを理解してからは夢中になった。

 飲まず食わずで遊び続けた。

 その甲斐があったのか、俺は最後のステージにたどり着いた。ここで終わるのか。自分の成果が現れたことに喜びを感じるとともに、もう終わりなのかと寂しい気分にもなった。

 最後のステージだったが、レベルを規定値の上限いっぱいまで上げて、十分に準備をしたせいか今までの苦労は嘘のようにクリア目前まで行くことができた。

 もう少しでクリア目前という時だった。あと数ダメージを加えればエンディングに違いなかった。

 そこでテレビ画面が暗転した。部屋の電気も消えた。部屋が静まり返り、外を走る電車の音が耳に入ってきた。

 停電だった。

 こんなときに停電? 今までの苦労が水の泡? 俺は突然の出来事にその場を動くことができなくなった。携帯電話を取り出し、ネットで検索をかけてみる。見ると、俺の住んでる一帯で雪のために停電が起きていることがわかった。雪のため……なんて。

 時計を見ると、夜の8時だった。いつの間にか夜になっていたのか。最近カーテンを閉めきって、電気をつけたままでいたので、昼夜の感覚が全くなくなっていた。ここ最近ほとんど寝てない。それを自覚した瞬間、眠気を感じ、まぶたが重くなってきた。眠い。

 停電はすぐに直りそうにない。俺は眠ることにした。

 起きたら、もう一度ゲームのクリアを目指すことにしよう。

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