忘年会3
「このエビ、身がプリプリで美味い!」
「だな、甘いよな。」
「お刺身はエビや白身魚がいいな。」
「違うだろ!やっぱ、マグロだろ?
トロ、とろけるぜ。」
「ヤダヤダ、おやじギャグ。
そんなに好きなら、漢字で書けるよね?」
「トーゼンだろ、魚に有だよな。」
「マグロは油っこいのが嫌。ヒラメやタイの方が身が締まっててシコシコしてて美味しいよ。」
「なんだ?シコシコって、
○○ニーじゃあるまいし、
大体、お前こそタイが書けるのか?」
「橘、セクハラですよ。」
「失礼な、書けるもんね、魚にね、あれ?
なんだッけ?
あれ?おかすぃなぁ」
「 お前、呂律が回ってないぞ?
酔ってんじゃねぇの?」
「大丈夫だよぉ~」
「その間延びした語尾、酔ってる証拠だろうが」
「うるさいよ!酔ってない!
ちゃんと喋れる!
それより和泉君は、お刺身、どっちが好き?
白身? 赤身?」
橘は放置して、和泉君に尋ねる。
和泉君は申し訳なげに、
「すみません、僕は青魚が好きですね。
血液サラサラになるっていうので。」
「まさかの第3極!
お刺身王者決定戦の勝者を決めるのは、八重だよ。
さぁさぁ八重、
何が好き?」
「知らなかった、戦ってたの?」とひとしきりケタケタ笑った八重の答は、
「マグロ、中トロ!」
「ほらな、マグロだな!
歯車、気が合うな!
お前、いい奴だよ。
俺ら付き合っちゃう?」
「うん。気を遣わなくていいね。
付き合っちゃおう!
橘、こっちおいでよ。
里菜、橘とチェンジして!」
「分かったよ。席替わればいいんでしょ。
ドッコイしょっと。
和泉君、隣、お邪魔シマース。」
「大丈夫ですか?
佐倉さん、ふらついてますよ。」
「大丈夫ではありまでん。
だからウーロン茶にしますう。
やだ、すぅだって、すぅだって、
何言ってんの、アタシ」
愉快になり、テーブルをバンバン叩いて、
そのままテーブルに顔を臥せる。
ハァッ……
眠いかも!?
目がくっつきそう……
「ね、私達どうかな?
お似合い?」
八重の声に、顔を上げる。
八重と橘のツーショット。
「オォ、新鮮!」
テンションが上がる。
「落ち着いた感じがするよ。
長年連れ添ってますって二人みたい。」
しっくり過ぎてモヤモヤするけど。は言わない。
「…… そうですか?」
和泉君は私の意見に賛同しかねる様子。
「和泉から見ると、どんなに見える?」
橘も興味を持ったようだ。
「 ……… 目を背けたくなる感じがします。
恐怖で。
強いて言えば、肉食獣が二匹、
相手の出方を伺ってるというところですね。」
橘がぷっと吹き出す。
「だな!
同類だよ、俺と歯車は。
喰うか喰われるかの関係だよ。
佐倉の目は節穴かよ。
お似合いのわけねーじゃん!」
言うに事欠いて、節穴だなんて暴言だ!
悔しくて、目の前のグラスを掴んで一気に飲む。
「ちょっと、里菜ダメだよ!」
八重が慌てて止めてくれたけど、
「飲んじゃった。」
一気だったから、止まらないもん。
「おま、それ俺のグラス!
さっき席替わったろ?」
橘も焦ってる。
いい気味!
八重の隣でヘラヘラしてる橘なんて嫌い!
困ればいいんだ!
「おい、聞き捨てならないな。
歯車の隣でヘラヘラなんか、してないぜ。」
あれ?脳内会話できてる!
なんでだろ?
まぁ、いいや。眠たいし……
藤井さんの夢がいいなぁ……
橘のお邪魔虫!
「考えてること、駄々漏れしてんだよ!
って、寝たんだな。
寝る寸前まで失礼なやつだ。
放っとこうぜ!」
橘の怒りを含んだ声。
「いや、それは不味いですよ。
前回の例から見て、朝まで起きないパターンですね。
どうしましょうか?」
和泉君が冷静に分析する。
「私はダメだよ!
明日は朝から実家に帰省するから、
この子は連れて帰れないからね。」
八重、なんか冷たーい。
「橘ん家に連れていったらどうですか?
仲がいいんですから、
俺たちも安心だし。」
「そりゃ、俺の家に持ち帰っても絶対に手を出さない自信はある。
でもな、藤井さんに知れたら不味いだろ?
佐倉ごときで、
俺、藤井さんに睨まれたくないぞ?」
「じゃぁ、どーする?」
フーンだ!聞こえてますよーだ。
みんなで押し付け合って、
いいもん、ここで寝るもんね?
本格的に寝ることにした。
「橘、悪いね。」
「いえ、こちらこそ飲ませ過ぎてしまって、
本当に申し訳ありません。」
「橘が謝ることじゃないよ。
じゃぁ、連れて帰るね?」
私は、
甘い香りに抱かれて、
ゆらゆらゆらゆら夢の中、
漂っていた。




