忘年会2
予約していたお店に到着したのはそれから10分後。
その間ずっと手を繋いだままで、
これはこれで心臓に悪い。否応なしに繋がっている部分を意識してしまう。
自意識過剰でもいいよ。
大人しく繋がれたままになっているのはもう限界。冬とはいえ手汗が出てきそうなのも乙女にはツライ。
「お店に着いたよ。」と声をかける。だから手を離してよを続ける前に、
「もう少し、佐倉を充電させて。」と橘は言って、離してはくれない。
いつもの橘じゃないことくらい私にだって分かる。どうしたんだろ?頭に浮かんだ問いかけを口に出す。
「出張、寂しかったの?」と尋ねてみると、
「まぁ、そんなとこ」と認めた後、
「お前は寂しくなんかなかったろ?
藤井さんとラブラブらしいじゃん。」
拗ねたように言うから、返答に困る。
寂しかったに決まってる。だけど、それを口にしちゃいけないことは私にだって分かる。
「そうだよ。藤井さんとラブラブで、橘がいなくても大丈夫だった。」
これが正解だよね?
「佐倉のくせに、生意気。」
橘がギロッと睨んできたので、
「何なの?やる気なの?」
空いてる手で、ファイティングポーズを取る。
「馬鹿じゃね?」
ククッと鼻で笑われ、思いきりぎゅっと握られてから、ようやく離された。
痛かったしと手をさすりながらお店に入る。
賑やかな店内、席に案内される。
八重の隣に落ちつき、ホッと息を吐く。
今夜は橘のリクエストで和食だ。
テーブルの上には予め注文しておいた料理が湯気を立てている。
なかなか来ないから食べ始めてたという八重と和泉君に謝ってから、ビールで乾杯する。
「お疲れさま」を言い合ってから、イッキに飲む。
その後は、社内の噂話に各々の近況報告。
今回は、橘の向こうでの苦労話が主となるが、もともと外面だけはイイ男。上手くやってたようだ。
「去年の藤井さんが押さえてくれていたから、すんなり受け入れられた。ただ食事だけは合わなくてさ、やたら味つけが濃いんだよな。やっぱこの味がいいよ。」と茶碗蒸しを食べながら言う。
八重が「出会いはなかったの?」と尋ねる。
それ、興味がある!
「出会いかぁ…… 」橘はしばらく考えていたが、
「食指が動かなかったなぁ。」と言った。
ということは、
「出会いはあったんだね?」と八重が突っ込む。
「まぁな、男がやって来たってことで合コン三昧?
俺史上、あり得ないくらい参加させられたよ。」
橘が苦笑する。
「お持ち帰りもあったんじゃないの?」更に突っ込むと、
「馬鹿か。そんな危ない橋渡るわけないじゃん。」と嫌そうな顔をされた。




