忘年会
4人での忘年会当日、午後出勤した橘と会社前で待ち合わせた。
八重と和泉君とはお店で合流することになっていた。
自社ビルの前、イチョウの木の下で待っていると橘が出てきた。
「悪い、待たせた。」
と謝るから、
「大丈夫、そんなに待ってないよ。」
って、「スーツだったんだ!?」
少し驚いた声になった。
仕事納めの後だし、
もっとラフな服装を予想していたよと付け加える。
「ああ、まぁ、一応な。
いつもよりカジュアルだけどな。」
との返答にもう一度橘を見る。
ホントだ。いつもみたいにはカチッとしていない。
パープルのラインが入ったワイシャツは何気にお洒落だし、ラメの入ったグレーのネクタイともよく似合っている。
「見過ぎ。」
橘に頭を軽くコズかれて、
ガン見してたことに気づく。
ばつが悪くて、慌てて、
「行こうか。」と一歩踏み出した途端、
躓いてよろける。
あっ、転ける
覚悟した瞬間、腕を掴まれ支えられる。
「あ…ありがと。」
橘の腕の中、モゴモゴとお礼を言った私に、
「いいえ、どーいたしまして。」
と返して、軽く毒を吐く。
「相変わらず鈍くさい奴だな。
ほら、」
橘が手を寄越す。
一瞬、藤井さんの顔が浮かび、どうしようと迷う。
嫌がるべき?……
「えっと …… 橘、 あの、あのね、」
断りの言葉を口にしようとした時、
「転倒防止のため、
怪我でもされたら面倒だし、
そんな高いヒールで来たお前が悪い。
ここは素直に繋がれとけ。」
毒プラス俺様の入った声色に思わず見上げると、
橘は邪気の無い顔をしている。
そうだよね、橘だもん。
橘だし、拒絶するのは意識過剰、
逆に変だよねと思い直し、
差し出された手を握った。
温かい。
ということは、
「お前、手、冷たすぎ!
なんで、手袋してないの?」
橘の咎めるような口調に、言い返す。
「持ってるけど、いいかなって、」
「はぁ? お前、馬鹿だろ。」
と言われて、手を引っ込めようとしたのに、
橘がギュッと握りしめるから。
どうして?って思う。
「離してよ。」
意固地になって言い張る私。
でも橘はいいからと握ったまま。
諦めて、私は人混みの中を橘と一緒に歩き始めた。




