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言葉で伝わらなくても。  作者: モロキ
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仕事納め

年末28日は仕事納め。

デスク周りを主に片付ける。ファイルを整理し、不要な紙類はシュレッダーへと分ける。

雑巾を持って机下に入り込んでいる時、

「佐倉?」

と呼ぶ声がした。

返事をしようと顔を上げた瞬間、ガンと鈍い音。

「痛い!」

引き出しで、思いきり頭を打つ。

うわあぁ ~ 、

痛くて、動けない。

しばらく踞って、痛みが和らぐのを待つ。

痛みが治まってから、

頭のてっぺんを両手で擦りながら、這い出る。

床に膝をついたままで見上げる。


橘だ!

涙目になった。

でも、打った所が痛いからで、

決して、会えてうれしいからじゃない。


なのに、橘は、

「泣くほど俺に会いたかったなんて、知らなかった。

驚かせようと連絡無しで帰ったの、成功だな。

面白いもん見れた。」

げらげら笑いながらふざけたことを言ってから、

「すげぇ音がしたけど、大丈夫か?」と聞く。


今ごろ、気づかっても遅いよ!


「何よ?」

涙目のまま抗議する。

「突然思いがけない声がしたら、

ビックリするに決まってるでしょ?

まだ痛いんだから!」

と機嫌の悪いふりをする。


橘だ!

ビックリした!

泣くほどなわけじゃないけれど、

会えてうれしい。


「悪かったな?」

橘の手が伸びて、私の頭を軽く撫でる。


「お帰り。」

と一言。

「うん、ただいま。」

と返してくれる。


久しぶりの橘だ。

ちっとも変わってない、いつもの橘だ。

やっぱり、泣きたいほど、

会えてうれしい。

目から涙が零れ落ちる。

「痛いよ?」と訴える。

「あぁ、痛かったな。」と頭を撫でてくれる。

甘やかしてくれるから、

橘も私に会ってうれしいんだ、とわかる。


エフンと、変な咳払いの音。

「こらこら、そこの二人、

見つめ合わない!」

呆れたような八重の声に、我に返る。

橘もそうだったんだろう、

撫でてくれていた手が離れた。


「それで、どうしてここにいるの?」

と、八重が平然と質問する。

八重は、

久しぶりの橘にも関わらず、全く動じていない。

もしかして、これが、久しぶりに会えた同僚に対しての正しい反応の仕方なの?

私のは過剰反応だったの?

悶々とする私をよそに、

「一応、現在の進捗状況を報告しに戻った。

年明けにまた行くけど、年末年始はこっち。」

橘が答える。

そうなんだ、しばらくこっちなんだとホッとする。

「橘、久しぶり。」と、和泉君も会話に加わる。

同期4人が集まった。

「忘年会をする?」

八重の提案にみんなで乗る。

今晩は都合が悪いという橘に合わせて、明日の夜にする。

4人で集まるのはしばらくぶりだった。

楽しみだなぁ、と顔が緩む。

「佐倉、表情ゆるすぎ!」

橘に突っ込まれて、頬をプニプニと掴まれる。


この様子を営業部に入ってきたお姉さまに具に目撃されていることも知らず、呑気だった私。

後で死ぬほど悔いることになる。




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