聖夜 10
「笑顔?」と聞き返すと、
藤井さんは苦い顔をして、
「そう、
笑わなくなってしまった。
しかも、君、
気持ちを隠そうとするし。
分かりやすく表情に出るところが、
気に入ってたのに、だよ。
俺との付き合いが負担になったんじゃないかと、
腹を割って話そうと思っても、
君、逆ギレして
聞かないしさ、………
…… ごめん、
…… 君が、
勘違いすると思ったのに、
酷いこと言った。
君の泣き顔が見たくてさ、
……… すぐに言わなきゃよかったと自己嫌悪した。
最低だよね。
俺、君のことになると、
余裕がなくなって、
後で、後悔することばかり
してしまう。」
藤井さんが言葉を切り、
私の背中に回した腕に力を込める。
藤井さんは私を傷つけたけど、
そこまでしてでも素の私を見たかったんだ、
と思うと、心が震えた。
それで、私も藤井さんに告げる。
「あの時、すごく泣きました。
でも、私。」
一端切って、息を次ぐ。
藤井さんに伝えたい。
「今日、私は神様に感謝したんです。
こうやって、もう一度繋がったことに。
何度も、
もう切れたと思って、
ムリだと思って、
それでも、
あなたを思う気持ちはなくならなくて、
だから、今こうして一緒にいることは、
私にとって奇跡なんです。
大切にしたいです。」
今の気持ちをちゃんと言えた。
感情が高ぶったのと、ホッとしたのとで、
泣くまいと思ったのに、涙が溢れる。
私の涙を指で拭ってくれた藤井さんは、
分かったよというふうに、抱き締めてくれた。
イブの夜は、静かに過ぎた。




