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携帯
遅くなってしまった。ひとけのない更衣室は少し不気味、急いで着替える。ロッカーを開けて鞄を取り出し、中に入れっぱなしだった携帯を確認する。メールが10件に、着信が5件。
全部あいつからだ。ストーカー入ってる?
一瞬ぞっとした。
でも、変だ。
こんな執着心 、あいつは持っていないと断言できる。
だって、モテるから。
付き合ってる最中も順番待ちの女がいた。
女がまとわりついて離れない。
換えのきく女がすぐそばにいるのに、去った女を追ったりしない。
それが藤井慎だ。
しかも、私は酷いふられ方をした。
「遊びでさえない、つまみ食い。」
はっきりとそう言われた。
そんな女を追ったりしないだろうに。
「あ~、思い出してしまった。」
まだ痛すぎる。かさぶたにさえなっていない。
そもそも、半年という期間は「つまみ食い」の範疇なのか!?とも思うが、本人が言い切るから彼にとってはそうなんだろう。じゃあ、半年間「つまみ食い」をされた私は?…………
絶対に許せない。
私だって遊びだったんだから、おあいこ。
そう思わないと辛すぎる。
着拒にしようか迷って、
結局、出来ずに、鞄にしまった。