聖夜 7
「里菜、りーな、りなちゃん、機嫌を直して?」
私に呼びかける藤井さんの声。
いまさら機嫌をとったって、遅いんだから!と、
プンプンしている私。
藤井さんの顔を見ることができなくて、ストールを被ったままというのが情けないけれど。
「俺が悪かったよ?」
と、ストールごと抱き締められた。
ジタバタする隙もなく、顔を藤井さんの胸に押しつけられた。彼の纏う甘い香りが鼻を擽り、私を酔わせ、抗う気を失わさせる。
大人しくなった私を藤井さんは抱き締めたまま、
「 えっと、
明るいところでやっちゃって、ごめんね。
ベッドに行かずにこんなとこでして、ごめんね。
それから、なんだっけ?
野獣になって、ごめんね。
君がヤダッて言ったのに、やめてあげられなくて、ごめんね。
まだ、あったよね?
なんだっけかな …… 、
ああ、
君の全部を見ちゃって、
ごめ「ギャァー、止めてください!
周章ててソファーから起き上がり、
皆まで言わせずに藤井さんの口を塞ぐ。
「何てこと言うんですか?
恥ずかしいのに!」
でも、キョトンとした顔つきの藤井さんを見て、
駄目だ!分かってない!と思う。
それで、
上目遣いに彼を見て、
「恥ずかしいから、
言っちゃぁ、ダメです……… よ?」
と、秘技『お願いの顔』を作る。
私のお願いを聞いた藤井さんは、訝しげな顔をして
手で口を覆い、目を反らしたけれど、
すぐに、こっちを向いて、
「ああ、分かった。もう、言わないよ。」
と答えてくれたので、よかったとほっとする。
その時、
「顔、出したね。」
アッと思ったけど、遅い。
顔をガチッと抱え込まれ、動けない。
目を見つめられ、
「ロマンチックなイブを演出しないで、
悪かったよ。
そんな期待をされてるなんて知らなかった。」
幾分笑いを含んだ声で言った後、
姿勢を改めて、
「君が欲しくて止まらなかった。
半年以上してないだろ?
我慢できなくて、ごめんね?」
と謝られると、いつまでも拗ねている私が子どもっぽく思われて恥ずかしい。
「も、いいです。」
と、小声で言う。
しばらくそのまま抱き合っていた。
お互いの体温が溶け合って心地よい。
時々目が合い、軽く唇を合わせる。
時計の音が響くだけの静かな時間が過ぎてゆく。
そんな静寂な時を破ったのは、藤井さんの声だった。
「それにしても、
今のは何の技だったの?
部長世代に有効そうだね?
俺、笑いを堪えるのに必死だったよ。」
と藤井さん。
「失礼な!
秘技『お願いの顔』ですよ。」
と私。
「へぇー、
妙な顔で見上げると思ったら、秘技だったの?」
と感心してる藤井さん。
絶対に馬鹿にしてる!と思ったけれど、
今日はクリスマスイブ、
仲よしでいたいから、
怒るのはもうやめにした。




