聖夜 4
「ようこそ」
藤井さんが扉を開けて、招き入れる。
「おじゃまします。」
そう言って、恐る恐る、足を踏み入れた。
ウォールナットでまとめられた室内は大人な雰囲気。
玄関でスリッパに履き替えて、真っ直ぐ進む。
突きあたりのドアを開けると、そこはリビング。
わぁー、午後の日射しが柔らかく射し込んでいる。
「広いんですね!」目を丸くする。
「15畳かな。」と、藤井さん。
窓に駆け寄って外を眺める。
晴れているので、見晴らしがいい。ステキを連発し、景色を楽しんでいると、
「コーヒーを入れたよ。ソファーにおいで。」
藤井さんの声。
「ありがとうございます。」
ソファーに座る藤井さんのもとに近寄る。
前それとも横? どこに座ろうかと迷っていると、
「ここに座って。」と、隣を軽く叩く。
近すぎ!!と躊躇するも、拒否権はなさそうで、
素直に藤井さんの横に座る。
また心臓がドキドキし始める。
「いただきます。」とコーヒーカップを落とさないよう両手で掴んで、一口啜る。
「美味しい!」
うれしいな。私の好みに入れてある。
「ああ、薄いのがいいって言ってたから、アメリカンに。」
「覚えてたんですか?(あの時のあの失態を、)」
と、後半は口に出さずに聞いてみる。
「そりゃあね、
あのマシンガントークが、印象に残ってて。」
と藤井さんは言うけど、
ギャァァァ~!!あり得ない。
「藤井さん、今すぐに忘れてください。
あの時、藤井さんが突然現れたから、
テンパってたんです。
今思い出しても、恥ずかしすぎて忘れたい過去なんです!!…… ゴホゴホ、ゴホゴホ、……」
勢い過ぎて、空気が気管に入って咳き込む。
「大丈夫?
ゆっくりと呼吸をしてごらん?
息を吸って、吐いて。……… 焦らないで。」
と、藤井さんが背中を撫でてくれる。
「すみません。ご迷惑をおかけして。
もう大丈夫です。
ありがとうございます」
お礼を言う。
藤井さんは、
「そんなに恥ずかしがることはないよ。
むしろ、
真っ赤な顔して一生懸命に喋る君が可愛らしくて、
印象に残ってたんだよ。」
背中を撫でてた手が頬に当てられ、
藤井さんの方を向かされる。
「君に、
クリスマスのプレゼント。
一つだけ、お願いを聞いてあげるよ。
何でも言って?」
何でもいいって、藤井さんをガン見する。
甘すぎだよ!藤井さん。と突っ込むも、
お願いしたいことはたくさんあるような気がする。
けれど、
一つだけなら……、
「本当にいいんですか?
後から『駄目だよ』は無しですよ。」
と念を押す。
「怖いな。」と、藤井さんは苦笑い。
「言ってみて。」と促されて、
話し出す。
「えっとですね。
前から思ってたんですけれど、
藤井さんって、社内で、
私のことを里菜ちゃんとか佐倉さんて、
呼ぶじゃないですか?
若い女の子を皆、○○ちゃんって呼びますよね?
だから、
ちゃん付けは、軽くて嫌なんです。
でも、佐倉さんて呼ばれるのもよそよししくて、冷たい感じがして、
………
だから、「佐倉」と呼びすてにしてほしいです。
ダメですか?」
お願いを口にする。
最初驚いて、後は真面目に聞いてくれた藤井さん。
聞き終わって、
「駄目じゃないけれど、
それが、君のお願いなの?」
と、確認する。
「はい。お願いいたします。」
それが願いなんですと、受け合う。
「じゃぁ、今後、社内ではそう呼ぶよ。」
やったー、うれしいな。
甘すぎ!な藤井さんに、もっと甘えちゃお。
「今、呼んでもらってもいいですか?」
図々しいって叱られるかも!?でも、聞きたい!
「いいよ。」藤井さんは軽く頷いて、
「サ ク ラ。
これでいい?」
呼ばれて、胸がキュンとする…… けど、
何故だろう、違和感?が残る。
「いい……んですけど、何か変な感じがして、」
首を傾げる。
「そう? 聞き慣れないからじゃないの?」
と、藤井さんは事もなげに言う。
「そう…… なのかな?」
「そう、だよ。」
と、藤井さんは断言した。




