言葉 2
「里菜先輩、すごい噂ですよ!」
更衣室に飛び込んできた栞ちゃん、
幸いにして、私と八重以外にはいなかった。
それにしても、朝だというのに、
栞ちゃんのテンションはMAX、
誰にも止められない。
「何の噂?」
八重が、恐る恐る訊ねる。
「藤井さんと里菜先輩のお二人です!」
えっ? 私?
一体どんなことを今度は言われてるの?
「ストーカー・ストーリーとは別物なの?」
気になって、私も尋ねる。
栞ちゃんは満面の笑みを浮かべて、
「ご安心ください。
今度は純愛物です。
昨日、階段の踊り場で、
先輩は総務の吉田さんにコクられましたよね。
断る里菜先輩にしつこく迫る吉田さん、
絶体絶命のピーンチっていう時に、
藤井さんが助けてくださったんですよね。
そして、藤井さんからの告白。
もちろん、里菜先輩はOKして、大大円。
藤井さんとの階段チューを見たという目撃談もありますよ。
ワー、キャー 、赤面ものです!
絵になるカップルでうらやましい限りです。
あの、藤井さんですよ!
素敵社員ナンバーワンじゃないですか?
もしかして、本命彼女って里菜先輩じゃありませんか?
そうだったら、イブのプロポーズどうしましょう?
私としては、受けてほしいですけど、
でもでも、
そうなったら、
里菜先輩が大人の階段を登っちゃうようで、寂しいです。
キャー、何言ってるんでしょうね。私ったら、
すみません。妄想を膨らませました。
とにかく、
お二人は公認カップルとしての地位を確立しつつありますよ。
おめでとうございます。」
スゴい……事実に則した情報を入手している。
栞ちゃん、君はただ者ではないね、
と、
八重が
「本当はどうなの?」と突っ込む。
「ほぼ、事実。」
本当のことなので、肯定せざるをえない。
「でも、誰もいないと思ったけど、」
と疑問を口にする。
すると、栞ちゃんが、
「藤井さんには、数日前から尾行がついてるらしいですよ。X-dayに向けて。」
と教えてくれた。
「藤井さんも大変だね。」
八重が気の毒そうに言う。
「ホントにね。」
私も同意した。




