言葉
藤井さんの腕の中で、私は身を縮めていた。
どうして、ここに藤井さんはいるのだろう?
私を助けてくれた?
「八重ちゃんが教えてくれてね、
間に合ったようで良かったよ。」
察しのいい藤井さんは早速私の疑問を解決する。
緊張感から体を固くして、
しばらくじっとしていると、
「里菜、こっちを向こうか?」
と、囁く声。
首をブルブル振って、拒絶する。
「里菜のくせに、生意気だね。」
無理矢理に身体を捻られて、向かい合わされる。
左手は腰を抱き、右手は顎を持ち上を向かされる。
そうしておいて、顔をのぞき込まれる。
顔を背けようとしたら、両頬を手で挟まれた。
目と目が合う。
「ずいぶん待たせたけれど、
里菜はまだ俺のものでしょ?」
本当に?
そう思ってくれているの?
藤井さんの言葉に戸惑ってしまい、声を出せない。
ようやく声を発する。
「だって、だって、」
言葉が続かない。
「藤井さんはイブに本命の彼女さんと…… 」
言葉を振り絞る。
「本命の彼女は君でしょう?
噂なんか君には関係ないだろ。」
藤井さんの言葉。藤井さんの心。
私は聞き逃すまいと懸命になる。
「どこまで噂に振り回されるつもり?
だいたい君は人の話に左右されすぎだよ。
俺の言葉をもっと信用してくれてもいいのに。」
と言葉を切って、私の顔を見つめる。
それから、続ける。
「今回は俺に聞きに来ただけ進歩かな?」
IT部に押しかけたことが頭を過り、すぐさま謝る。
「ごめんなさい。」
堪えていた涙が目から溢れ出す。
「あぁ、あれは頂けないね。
俺、積極的に噂話を提供する趣味はないし、
ああいうのは遠慮してほしいね。」
バッサリと切った後に、
言い添えた。
「だけど、他の時だったら、
もっと別な対応ができたと思うよ。
かわいい恋人を慰めるために。」
彼の指で、涙が拭われる。
彼の指を握りしめる。
「私はあなたの恋人なの?」
聞きたかったこと。
「そうだろ、違うの?」
「違わない! でも、…… 」
欲しかった言葉。
「彼女とはとっくに別れた。
家が絡んで少し時間がかかったけれどね。」
と、もう一度私を見つめる。
そして、
悪戯っぽく笑って、
彼がこう言った。
「サクラちゃん、俺とつき合わない?
俺、今彼女と別れたばっかでお得よ。
来週になったら、別の彼女ができるかも?」
「お、お、お、おつき合いします。」
またしても、食いつき気味になってしまった。
恥ずかしい、頬が火照って仕方がない。
「相変わらず反応いいね!」
と笑われて、彼は顔を近づける。
甘い吐息とともに、
「俺を幸せにしてくれるんでしょ?
楽しみにしてる。」
囁かれ、唇を塞がれた。




