待ち時間の終わりの続き 2
週末はイブ、街中に陽気なクリスマスソングが流れ、ウィンドウはリボンで彩りよく飾り立てられ、街路樹は電飾で華やかにデコレーションされた。
人は皆笑顔で行き交い、街全体が浮かれている。
私はといえば、今年もイベント系は無縁だと落ち込んでいた。
お姉さま方からの呼び出しは、素直に従ったことで収まっていた。
嫌がらせは、女性社員が少ない営業部内ではなかったし、部署外では八重や栞ちゃんが一緒にいてくれていた。
藤井さんがイブにプロポーズするという噂だけはカウントダウンが始まり、盛り上がっていた。
「するのかな?」
「どうだろ」
「見たいよね。」
「後をつけるのはどう?」
などと話す声が聞こえてくる。
嫌でも耳に入ってくるので、私は穏やかではいられない。感情をもて余していた。
そんなある日、今、私は階段の踊り場にいる。
ウチの会社はほとんどの社員がエレベーターを使用するので、階段で人と出会うことはめったにない。
それなのに、何故ここにいるかというと、同期の吉田君に呼び出されたからだ。
イブを一緒に過ごそうと申し込まれた。
誘ってくれるのはありがたいけど、一緒に過ごしたい相手ではない…… なんと言って断ろう?
波風を立てないようにしなくちゃ…… 。
「ごめんなさい。先約があるから無理です。」
頭を下げて謝る。
でも、吉田君は落胆した風もなく、攻めてくる。
「じゃあさぁ、俺とつき合ってよ。
佐倉さんのことは、入社した時からいいなと思ってたんだ。
かわいいし、ノリもいいし。
でもガードが堅くて、チャンスなかったんだよね。
橘が長期出張中の今しかないと思ってさ、どうだろ、俺とつき合わない?」
吉田君の言葉を聞いていた私は、橘という単語に引っかかる。
「何で橘が出てくるの?」
「だって佐倉さん、入社以来、橘にしっかり守られてるでしょ?」
「そうなの?」
「気づかなかったの? 同期内では有名だよ。」
「全然気づかなかった。」
「そういう佐倉さんの天然ぶりも好きなとこだよ。
ねぇ、俺とつき合ってくれない?」
グイグイと押してくる。
「吉田君のことをよく知らないし、」
とやんわりと断るも、
「構わないよ。つき合い始めてから知ってくれれば問題なし。」
と返される。
何度目かのごめんなさいをして、
吉田君のことは好い人だと思うけれど、恋愛感情を持てないことを告げる。
それでも、
「いいよ。最初は友だちからで。全然Okだよ。
そこから始めようよ。」
と、めげることなく攻めてくる。
だから、そこからもなにも、
最初も最後も友だちなんだって!
わかってよ!
と言いたい。
実際そう言っているのに、吉田君は聞いてくれない。
私の気持ちが伝わらないまま、硬直状態。
吉田君は私が同意するまで退かないつもり?
どうしよう…… 困り果てていた
その時、背後から抱き締められた。
両腕が私の身体を包み込み、
甘い香りが鼻をくすぐる。
藤井さん
「この子、俺のものだから、
吉田、悪いけれど、諦めて。」
藤井さんが告げる。
「なんで、藤井さんが?」
吉田君は絶句する。
「なんでって、佐倉と俺はつき合ってるから。」
藤井さんが言い切る。
呆然とする吉田君。
少し間をおいて、
「そんな、…… じゃあ橘は?」
と聞く。
「橘は、俺に言われてこの子を守ってただけ。
ちょっかい出す奴が多いから。
社内でおおっぴらにつき合うわけにいかなくてさ。
吉田も分かるだろ?
俺モテるから。」
と、吉田君に向かってウィンクする。
ウィンクで我に返った吉田君は、
それまでとはうってかわって、あっさりと、
「分かりました。」
と了承した。
「藤井さんが相手じゃ敵わないですよ。
知らなかったとはいえ、すみませんでした。
佐倉、呼び出してゴメン。
俺行くわ。」
と階段を上がって去った。
後には、藤井さんと私の二人が残った。




