待ち時間の終わり
秋から冬へと季節が移る。
クリスマスまであと2週間。
街中がイルミネーションに溢れている。
去年は藤井さんは本命の彼女と過ごすんだろうと思い込み、クリスマスに関係することを全部シャットアウトした。
そんな去年に比べると、
今年は少し余裕がある、はずだったのに………
昼ご飯の最中に栞ちゃんが放った言葉、
「IT部の藤井さん、クリスマスイブに本命の彼女にプロポーズするみたいですよ!?」
ドキッとする。心臓の鼓動が体中に響き始める。
寝耳に水と耳を疑う。
八重を見ると、首を横に振っている。
だよね、初耳よね?
八重が
「栞ちゃん、それ、何情報?」
私の代わりに聞いてくれる。
「IT部です。お局様情報です。
藤井さん本人がおっしゃったらしいですよ。
クリスマスの飲み会にしつこく誘われた結果の発言だそうです。
なので、信憑性はかなり高めです。」
「IT部発信じゃ、疑えないわね。」
私の方に視線を向ける。
「里菜、
暴走しちゃダメだよ?」
無理、暴走を止められない。
ダメ、信じたくない。
食べかけの定食をそのままに、椅子から立ち上がる。
「ゴメン、片付けといて。」
それだけ言って、駆け出した。
そのまま、階段を駆け降りてIT部の前、
ドアを開ける。
お昼時なので、人は疎ら、
数人で集まって雑談している。
藤井さんを探す。
見つけた。
向こうのデスクにいる。
俯いて仕事中だ。
彼に駆け寄った。
「藤井さん 」
声をかける。
藤井さんが顔を上げる。
ひどく驚いた顔、
構わず、訊ねる。
「クリスマスにプロポーズするって、本当ですか?」
声が大きくなった。
周囲の話し声が静まり、何事かというようにこっちを見る。
藤井さんは、少し顔を歪めて、
「いきなり、どうしたの?
しかも、会社、
公私の別をわきまえてほしいな。」
柔らかな言い方だけど、目が冷たい。
凍えそうな目つき。
「でもッ、」
尚も言い募ろうとするけど、
「わきまえろと言った。
君に言う必要もない。」
こちらを向いてもくれない。
拒絶された。
「すみませんでした。失礼します。」
それだけ言って、お辞儀をする。
顔を上げられず、項垂れたまま、
溢れそうになる涙をこらえて、
IT部を出ていった。
そのまま、トボトボと営業のオフィスに戻る。
八重と栞ちゃんが待っててくれた。
何も言わないでくれる。
八重は、私の顔を見ただけで察したらしく、
ヨシヨシと頭を撫でてくれる。
彼女の肩に顔を埋めて、
泣きたい気持ちを宥める。
ここで泣いちゃダメ、と言い聞かせながら。
軽く背中を叩くリズムが心地よく、
次第に、私の心は鎮まってゆく。
落ち着いてきて、
冷静になって、さっきの行動を思い返してみて、真っ青になる。
何てことをしでかしたんだ!!
誰か私を深い穴に埋めてほしい!
常々心掛けてきた「熱い心と冷静な判断力」を全く無視した衝動的な行動。
しかも、人もいた。聞き耳を立ててたに違いない。
社内での藤井さんの立場も考えずに乗り込んで、感情にまかせて、大きな声を出した。
藤井さん、すごく怒ってた。
フォロー入れる気も無さそうだった。
嫌われた。
切なかった。




