待ち時間 2
居酒屋に入ると、
店員さんが「いらっしゃい、」と、
威勢のいい声をかけてくる。
中を進むと、奥まった座敷で、
八重と和泉君がビールを飲んでいた。
「あれっ、里菜?
橘君と一緒だったんだ?」
八重は不思議そう。
「出がけに偶然会って、連れてこられた。」
と説明して、和泉君の方を向く。
「和泉君、ごめんね。お邪魔します。」
と断って、八重の隣に座る。
八重は、
「同期が揃い踏みだね。」
と、満更でもない様子。
橘は和泉君の隣に座り、生中を2つ注文する。
「佐倉、ビールでいいよな?」
注文した後で、確認するのもいつものことだ。
「全然いいよ。」私も気にしていない。
すぐにビールが来て、乾杯する。
「お疲れ」
「お疲れさま」
口々に言って、一気に流し込む。
「美味い!」
「佐倉さん、飲まない方がいいんじゃぁ。」
和泉君に止められるも、
「大丈夫。大丈夫。
全然平気だよ。」
と断言する。
「やだ、この子もう酔っちゃったの?」と、
八重が声を上げる。
「そんなはずないじゃん、
まだ一杯めだよ。気持ちよくって、楽しいだけ!」
言い返す。
テンションは高め?かも。
橘が、
「飲ましてやったら?
最近、夜の誘いを全部断ってるみたいだから、
飲んでなかったんだろ?」
と、私の肩を持ってくれるのも、うれしい。
八重の目が光る。
(怖いよ、八重。獲物を狙う猫みたい。)
「せっかくだから、報告しなよ。」と迫る。
(なんのことか分かるよねって目で見ないで、
怖いよ、八重。)
私は弁解を試みる。
「だって、言うほどのことは何も……」
って、後を続けさせてくれない。
「ないわけないじゃん、
さぁ、吐け!」と追い詰められる。
仕方なく言う。
「告白して、今は彼女いるからつき合えないって、
でも、告白がうれしかったから、待っててって。」
ヒュー、ヒュー、
3人は 、口々に
熱いだの、卑怯だの、上手いだの、
囃し立てて、
ふと、和泉君が放った一言、
「で、佐倉さん、告白の相手はどなたなんです?」
直球が来た。
「えっと、……… 」
口ごもってしまう、…… 言ってもいいのかな。
八重と橘を見る。
「当ててみましょうか?」
和泉君はクスッと笑って、
「ITの藤井さん、でしょう?」
と問った。
私は、ただ、もう、びっくりして言葉も出ない。
なんで当たったんだろ?
八重と橘は、
「当たり!」とテーブルを叩いて囃し立て、
「分かりやすいよな!」などと言い合っている。
橘が、
「因みに、和泉はどこで分かった?
やっぱ、同期飲みん時?」と聞く。
和泉君は頷き、
「同期で飲む時に限って、
あの藤井さんと出くわすのは、不自然でした。」
さらに続ける、
「それに、藤井さんが営業に来ると、佐倉さん、
妙に、立ち振舞いに変化が表れるんですよ。
ツンツンし始めて、挙動不審極まりない。
失敗することも多いですから。
意識していることはまるわかりです。」
恥ずかしなぁ、もう、
真っ赤になって、うつ向く。
「皆で、知らない素振りをするのも大変で、
早くけりをつけてくれと、祈ってました。」
「皆でって ?」
不思議に思って尋ねる。
「だから、営業部員は皆、ですよ。」
和泉君は八重に、同意を求める。
八重を見る。
八重はばつが悪そうに、
「ごめん、言えなかった。
あんたが残念すぎで、悲しくて、
でも、そういうことだよ。
気づいてないのは、栞ちゃんくらい、かな?」
小首を傾げて、必殺スマイル。
「かわいくない。」
私はそっぽを向いた。
(何でそんなに分かりやすい人なの?私って。
しかもこの展開は何なの?
私が片思いしていたって話なの?
もっと隠そうよ!)
と反省するも、
後の祭りだ。
さんざん、話題を提供したんだろうなと、
思うにつけても、しゃくにさわって悔しい。
そんな様子の私を見て、3人は笑い転げる。
「ほんっとに、お前は分かりやすい!」
と、本日2度め、橘に頭を小突かれた。




