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言葉で伝わらなくても。  作者: モロキ
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待ち時間 1

秋が深まってゆく。会社通りの街路樹、イチョウは黄金色に染まっている。オフィスの窓から見えるこの木は樹齢はわからないけれど大木なので、風に散るさまは圧巻で、眺めていて飽きることがない。

情趣深いって言うんだろうなっと浸っていると、後ろから小声で栞ちゃんが、「里菜先輩、岩瀬さんがこっち見てますよ。」と教えてくれる。

「ありがとね。」こちらも小声で答えて、不自然にならないように、席に戻る。って、

じゅうぶん不自然かとツッコミを入れた時、

束ねた書類を鞄に入れる岩瀬さんに、

「暇そうだな。」

と言われる。

「あんまりイチョウがキレイなんで、見とれていました。」

と答えると、

「イチョウ?」

岩瀬さんが窓に目を向ける。

席からは、イチョウの上部が見えるはず。

「あぁ、そうだな。」

気のない様子で頷いた後で、

「お前、余裕あるな 。

昨日頼んだ件はどうした? もう終わったのか?」

と不審そうな目を向けられる。

「あと最終確認だけです。」

と答えると、

「おま、なんで持って来ない?

早く持って来い。」

と怒られる。忙しそうな岩瀬さんの手が空く時を狙おうと思っていただけなのに………。

急いで岩瀬さんにプリントアウトしたA4の資料を

5枚渡す。

岩瀬さんは、

「こことこれ、元データの確かめを。」

と言いながら、資料にざっと目を通す。

「取り敢えず、このファイルを俺のフォルダに入れておいて。」

と指示して、

「俺は外回りして直帰する。

佐倉、

和泉が帰ってくるまでにデータ解析しておけ。」

と出ていった


八重を見ると、

30分前と同じ姿勢でパソコンとにらめっこしている。


私も、頑張らなくちゃ、

よし!取りかかろう!

自分を叱咤する。


定時を幾らか過ぎて、

データ解析の目処がついた。

和泉君のパソコンに転送しておいてから、

席を立って、オフィスを出る。


ビルの外、風が吹き抜ける。

「寒くなってきたね。」

と、独り言。


背後から「独り言って、淋しいヤツだな、」

と声がする。


振り返ると、

「橘?」


脇に鞄を抱えた橘が立っていた。

橘は、

「久しぶり、」と言って、私の全身を一瞥する。

ニヤリと笑って、

「少し太った?」と、

グサッとくるとこを突いてくる。


「少し…… だけ、ね。」

心配になって、

「そんなに分かる?」

と尋ねる。


「いや、そーでもない。

前が痩せすぎだったから、

ちょうどいいんじゃね?

つぅか、まだまだ痩せてるだろ?

ちゃんと食べろよ。」


心配してくれてるんだよね、と思って、

「分かった。ありがとう。」と感謝する。


橘は、腕時計で時間を確かめて、

「どっか、食べに行く?」

と聞いてきた。


実は、

この頃誘われても断ることが増えていた。

でも、橘だし、どうしようか…と、考えていると、

「考えすぎ、

歯車と一緒だから、

安心しろよ。」

と、頭を小突かれた。


結局、飲もうということになって、

二人連れ立って、居酒屋の暖簾をくぐる。






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