告白の後
会社に戻るという藤井さんが駅まで送ってくれた。
少しだけ離れて歩く。
藤井さんが前で、私が後ろ。
藤井さんの左手はPCの入ったケースを持ち、
右手はズボンのポケットの中。
「里菜、聞いて?」
おもむろに、話をふられる。
「はい?」
藤井さんの背中を見ながら応じる。
「あの時さ、
里菜は、絶対に誤解したと思った。
それでもいいかなって思っていたんだけどね。
やっぱり、誤解は解いておきたくて、」
「何のことですか?」
曖昧な言い方に頭を捻る。
「つまみ食い、」
一旦、言葉を切る。
はっとする。身体が固まる。
「里菜さ、
俺が君を「つまみ食い」したと思ったよね?
………
それ、逆だから。
言い方を不味った。
あれ、君が俺を「つまみ食い」したという意味。
君、遊んでる風だっただろ、君にとって、
俺は、ちょうど手頃な相手だったんだと思った。
真逆に解釈して逃げるから、
説明するチャンスがなかった。」
「そう、………… だったんですか。」
あんなに、ショック受けたのに………、
気が抜けて、言葉も出ない。
「そう、だったんです。」
足を止め、藤井さんが後ろを向く。
「ゴメン、君を傷つけた。」
頭を下げる。
「すごく、傷ついて、いっぱい泣きました。」
私は本当のことを告白した。
彼はもう一度ゴメンと謝り、
けど、と続ける。
「君がメールも電話も、無視するから、」
と暗に非難される。
「ごめんなさい。」
私も、素直に謝る。
「だよな。困ったんだよ。
誤解を解けなくて、………」
藤井さんは辛そうな表情を浮かべた後、
「このことは、これでおしまい。」と断じた。
前を向き、歩き出す。
私はついていく。
意地を張ったりせずに、素直になっていれば、
すぐに解けたはずの誤解。
どれだけのものを失ったのだろう。
悔いた。
藤井さんの背中を見つめる。
こっちを向いて、と念じながら、
この人が欲しかった。
私だけのものになって、と、
切に願った。
突然、彼が、斜め後ろの私をチラ見して、
「怖いよ、その怨念のこもった視線。」
と、ふざける。
私は、手を彼の腕に絡め、
「愛のこもった視線です。」
と、顔を彼の肩に寄せる。
「そうなの?」と訊かれ、
「そうです。」と答える。
「気味が悪いほど、素直だね。」
失礼なことを言われた。
「大人路線は止めにしました。」
と言った。
「へぇぇ、いったい、どうした心境の変化?」
と笑いを含んだ声で問われたので、
「大人路線じゃあ、藤井さんを攻略できないと、
分かったからです。」
と思ったことを告げた。
藤井さんはブハッと笑い、
(今の顔、好きだな)
「それは分かって、良かったね。………
………それにしても、そうか、……
今まで大人路線だったんだ?
全然、気づかなかったよ。
ゴメンね?」
また、笑い出す。
「笑いすぎです。藤井さん。」
笑えない私は、彼の肩に顔を擦りつけた。




