待ち伏せ
別れてから半年経った9月、
私は彼に告白することを決めた。
メールも電話も無理っぽいよね。
私だって、完全スルーしたし………
出てくれる可能性は低い気がする。
だったら、ベタだけど、
待ち伏せ?
それくらいしか思いつかない。
自社ビル斜め横のファーストフード店で見張ることにして、3日め。
何もせずに、ただ藤井さんが出てくるのを待つという作業は、意外につらい。
トイレにも行けないし、
人影が見えるたびに、もしかしてっと心臓が跳ね上がるし、
…… 早くも音を上げそうになる。
1日めは残業だったらしく、姿を現さなかった。
2日めは数人のグループで出てきたので、声をかけそびれた。
そして、3日め、時刻は7時30分、
もう1時間以上待っていた。あと30分したら帰ろうと思った時、藤井さんの姿が入口にあった。
一人だ。
飲んでいたアイスコーヒーを慌てて片付け、後を追いかける。
駅方向でいいんだよね、
早足で、行き交う人の間をすり抜ける。
あっ、見えた、
藤井さんだ。
藤井さんを見つけ、追いつこうと駆け出す。
あと数メートルのところで、
「藤井さん!」
声をかけた。
突然呼び止められた彼は、
振り向いて、私を確認したのだろう、
驚いたように、目を見張る。
それでも、私が追いつくのを待ってくれて、
「佐倉さん、どうしたの?」と訊ねる。
私は、息が切れて話せない、
ゼイゼイ、ハアハア、酸素が上手に吸えない。
酸欠になりそうだ。
緊張感も重なって、倒れてしまいそう!
でも、そんなこと言ってなんかいられない。
「あの、あの、聞いてほしいことがあって、」
逃げられないように、スーツの裾を握りしめる。
「今?」
聞き返され、
「今がいいです。
今、お願いします。」と、頭を下げる。
藤井さんは仕方がないなぁと髪を掻き上げて、近くの喫茶店を指差した。
「あそこでいい?
この後約束があるから、あまり時間取れないけれど、それでいい?」
「勿論です。ありがとうございます。」
お礼を言うと、
スーツを握っていた手を掴まれて、
「逃げないから、大丈夫だから、
手を離して。
皺になりそうだよ。」
と、やんわりと注意され、
恥ずかしさに赤面して、握りしめた指を解いた。
お店に入って、奥まった席に座る。
注文を取りに来た店員さんに、
藤井さんはコーヒーを頼み、
「君は?」と聞かれて、
「私も、ホットコーヒーをお願いします。」
と、店員さんに告げる。
店員さんが去った後、
「アメリカンじゃなくていいの?」と、
からかわれるのも、なんだか懐かしい。
「今日はいいんです。」と答えて、
飲み物が来るまで、当たり障りのない話をして過ごす。
コーヒーを二つ運んできた店員さんが、「ごゆっくり」と声をかけて去っていく。
コーヒーを、そのままストレートで飲んで、
「あっ、美味しい!」
思わず声を挙げる。
遅れて飲んだ藤井さんも
「酸味とコクのバランスが良いね。
佐倉さんの好きな味だね」
と言ってくれて、
少しの時間、コーヒーの香と味を楽しむ。
髪がだいぶん伸びたのは、忙しいせいかな?
私がコーヒーを飲むふりをして、
藤井さんを観察していると、
視線をカップに向けていた藤井さんに、
「話って何?」訊ねられた。




