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言葉で伝わらなくても。  作者: モロキ
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異変

変だ、断言できる。


年度が変わった最初の日、

通勤途中に、後ろから

「おはよう、今日も可愛いね。」

の声、藤井さんだ。

藤井さんが追いついて、横に並ぶ。


私は、驚きと戸惑いで言葉を返せない。

立ち止まって、茫然自失。


「挨拶はきちんとする、だろ?

岩瀬に言いつけるよ?」


あっと思い、我に返る。

「お、お、お、……

おはようございます……」声が尻すぼみになる。


「いいね、そのリアクション。

最初に戻ったみたいで、新鮮。

今日から新年度だね、

今年もよろしく。」

と、私の頭を撫でて、追い越して行った。


それからだ。

メールが朝に夜に来る。

電話が来る。

社内で会うと、必ず声をかけてくる。


だから、

メールは見ないでゴミ箱に捨てる。

着信音は鳴り止むのを待つ。

会わないように避ける。

が、私の日課となった。


そのため、社内を

キョロキョロ、コソコソ移動するようになって、

八重に笑われ、諌められる。

精神衛生上、全くよくない日が続く。

ストレスがたまる。

振ったくせに、何で構ってくるの?とも思う。

恨み辛みもたまる。

そのせいで、藤井さんに遠慮しなくなった。


4月の2週め、廊下でバッタリ出くわす。

「いい加減にしてください。

もう、別れたんですよ。

声をかけないでください。」

ほらね、言えた!


なのに、藤井さん爆笑。

「何? その得意顔。」

大笑いして、

私と目を合わせて、

「ちゃんと言えて、よかったね。

言わないと、分かってもらえないものね。」

と、誉められ頭を撫でられる。

そして、

「君、顔芸、得意そうだね。

変顔してみせて、」

とねだられる。


「変顔なんてしません!

って、

髪乱れるから、頭を撫でないで!」

あっ、しまった、

タメ口になってしまった。


「いいよ、気にしてないよ。

ってか、嬉しいよ。」

と破顔一笑。


その笑顔に一瞬魅せられる。


ヤバい、ダメ、

頭戻さなきゃ。

タメ口のことだ。今、考えていたのは。

言葉にしてないのに?と思ったんだ。

「何のこと言ったんですか?」

と確かめると、

「タメ口、気にしただろ?」

と言われる。

でも、言ってないよ。

不思議に思ってることが伝わって、

「分かりやすく、顔に出てたよ。

表情に出すぎ。

面白くて楽しいけどね。」

と、頭を撫でてた手を止める。

「以前、同じことを言った?」

訊ねられて、頷く 。

「そうか、そうだね。言ったね。

繰り返すのも、面白いかも、」

なんて言うから、

「面白くありません!

繰り返しもありません!」

と、力を込めて、完全否定する。


「そうなの?」

急に顔を近づけて、至近距離になる。

思わず目をつむる。

彼はフフッと笑い、

「じゃあ、またね。」

傾けた身体を起こして、去っていく。

呆気にとられた私を残したまま。


変だ。

何かが間違っている。

藤井さんの行動が読めなかった。







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