別れ 3
とにかく、
彼から離れたかった。
店を出て、私は歩き続けた。
涙が零れ落ち、頬を伝う。
右手で拭うが、止まらない。
左手で鞄の中のハンカチを探すが、
見つからない。
ティッシュが手に触れたので、代用する。
涙が溢れて止まない。
「つまみ食い」
彼の言葉は私を打ちのめした。
けれども、それ以上に、
彼が、
自分の発した言葉によって傷つく私を見たがった、という事実が私を打ちのめした。
藤井さんの思惑どおり、
今、私は思いっきり傷ついている。
彼が私を大切に扱ってくれなかった。
彼にとって私は大事な人ではない。
本当に遊びだったんだ。と思い知らされる。
もう、そばにはいられない。
私の心が悲鳴を上げる。
痛い。切ない。苦しい。
つらい。嫌だ。
言葉で言い表すことにできない感情に圧倒されて、
涙が止まらない。
ティッシュで目を押さえて、泣き続けた。
それでも、暫く歩いて駅に着き、
改札を抜ける頃には、少し冷静さを取り戻した。
プラットホームに立つ。
電車を待つ人は多い。
人目がある。
とりあえず、涙は収まった。
泣きすぎてぼぉっとなった頭に、
電車の到着を知らせるアナウンスが入る。
やっと来た。乗って、帰宅する乗客で混み合う車内の手すりを持つ。
彼の言葉が甦る。
また、涙が零れそうになる。
きっと目は真っ赤なはず、
これ以上泣くと、明日会社に行けなくなる。
それはダメだ。
社会人として、きちんと仕事には責任を持ちたい。
ガタゴトと音を立てて、電車は走る。
揺れに身体を預けて、
車内広告を眺めて、気を紛らす。
衝撃が過ぎると、
考えれば考えるほど、怒りで胸がムカつく。
なんであんなことを言われなきゃいけないのか、
意味不明。
悔しい!悔しい!悔しい!
腹が立って仕方がない。
反撃できなかったことも悔しい!
言葉のパンチをまともに食らい、
軽くいなすこともできず、
何も言い返せないまま、席を立った。
一発殴っときゃよかった。
大人な女なんて、くそ食らえ、だ。
何の役にも立ちゃしない。
結局別れるんじゃ、割に合わない。
その時、
怒っている方が楽なことに気づいた。
感情を容易く扱えた。
だから、
私だって、藤井さんみたいな最低な男はウンザリ、
もう要らないと思った。




