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言葉で伝わらなくても。  作者: モロキ
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別れ 2

待ち合わせた場所は、美味しいコーヒーを入れてくれる珈琲館だった。時間どおりに着いて、窓側の席に座る。注文したカフェラテを啜りながら、溜め息を吐く。そこへ、

「溜め息ばかりだね。」

柔らかな声が降ってくる。

見上げると、藤井さんだった。

「ごめん、遅れた。」

グラスを持ってきた店員さんに注文を済ませて、謝った。

急いだのだろう。髪が乱れて、額にかかっている。

グラスの水を一気に飲んで、息を吐く。

「大丈夫、そんなに待ってないです。」

と、ほとんど飲んでいないカップの中身を見せる。

「それなら、よかった。」

少し微笑む。

…… 会話が途絶えて、二人とも黙りこむ。

しばらくして、彼が頼んだコーヒーが来た。

なんとなく彼の動作を目で追う。

コーヒーカップを見てる、両手全体で包んで、

温かみを味わっているみたい。


冷たくはない、けれども温かいとは決して言えない、無言の時間が過ぎてゆく。


ようやく

彼がカップから私に視線を向け、口を開く。

「やめよっ……か。」

ポツリと言う。


「さすがにウンザリ、

君だって、そうだろ?」

同意を求められ、頷くしかない。


「最初に、俺、言ったよね、

君と付き合いたい理由、

楽しめそうって、」


「….… 君を観察するのも面白かったけれど、

いい加減、胃もたれ気味、」


そこまで言って、ハァっと息を吐く。


「君、重たいよ。」

さも煩そうに髪をかきあげる。


私は黙ったまま、言うべき言葉を探す。

遊びなのに重たくしてごめんなさい、

…… この状況を

藤井さんが望んでいないことは知ってた、

だけど、私だって、

溢れてしまいそうな感情に蓋をして、

抑え込んできた。

上手に出来なかったけど、

精一杯、頑張ってきた。

なのに、

今、酷いことを言われた。


もう感情を抑え込めない。

零れてしまう……

隠しておきたかった、

嫉妬心や独占欲や切なさを、

彼に知られてしまう。

「遊びなのに…… ね」

遊びなのに、ルールが上手く守れなくて、

ごめんなさい。


「君はそうだね、遊びだったね。

男とひっきりなしだったし、」

彼が突き放すように言う。

「悪い?」

ゴメンナサイと思っていたのに、まるで「私だけが遊んでる」ような言い方に憮然とする。

彼は気にも留めず、

「全然、悪かない、

だいたい

君に言わせると、

おたがいさま、なんだろ?」

と言う。

今の他人事のような言い方も、気に触る。


「事実そうでしょ?」

言い方がキツくなる。

「女に囲まれているとこ、何度も見たし、」と、

言い添える。

彼は苦笑いをして、

「二股三股とか信じてんの?

そんなに暇じゃないことぐらい、

同じ会社に勤めてるんだ、

知ってくれてるはずだけど、

違ったかな?」

と言う。


「そんなの知らない。

藤井さん、何も言わないじゃない。」

「君だって、何も言ってくれない。

そのくせ、気づいてくれって、

矛盾してるよ。

自覚ないの?

君、「気づいて」オーラがすごく出てるよ。

しかも、俺限定で。

今まではそれも面白くて付き合ってきたけどね、

可愛く思えたし、でも、

もう、お腹いっぱい、

そろそろ、君の本心を聞かせて?」


「気づいて」オーラなんて、出してない!

理不尽な物言いに、怒りがこみ上げて、

感情的になる。


「どうせ遊びでしょ?

遊びに本心なんて必要ないじゃない。」

感情が零れ出して、止まらない。


「藤井さんだって、遊びのくせに!」


「遊びじゃない、」

言葉を切って、私を見る。


私の心は即座に反応した。敏感だった。

「もしかしたら」と期待する気持ちが表情に出たのだろう。


私の顔を見ていた彼の次の言葉、

「遊びじゃなくて、つまみ食い、かな?」


彼が矢を放った。

最初の言葉で弛んでいた私の心を射抜く。


愕然として、目を見開く。

「つまみ食い」という言葉が流れ込み、身体中を駆けめぐる。

私は今どんな顔をしているの?

一瞬期待したことが恥ずかしくて堪らない。

彼の顔を見れない。

私の顔を見られたくない。

自分がイタい。


ここにはいられない!


すぐさま、席をたった。





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