別れ 1
3月になった。スプリングコートを着て通勤電車に乗るのは嬉しい。車窓からの景色も暖かな陽射しの中、柔らかみを帯びてキラキラ輝いている。
混んでないので、吊り輪を持ったままうつらうつらする。
夜に外を出歩くことは少し控えていた。退社後は、ジムで体を動かしてから帰宅するようにしていた。心地よい筋肉疲労のせいで、昨日は早寝をしたのに、まだまだ眠い。
鞄から着信バイブ。
藤井さんからのメールだ。
用件は、「会いたい。」
辺りが一気に味気無くなって、溜め息が出た。
「いいですよ。」と返信を打つ。
それから時間と場所を決めた。
あれから全く連絡を取り合ってなかった。
なんとなく投げやりな気分で携帯を戻す。
見回すと、車内では誰もがスマホを弄くっている。
タックしたり、スクロールしたりすることに、
夢中になっている。
新製品に買い換えようかな。
もう一度、溜め息を吐いた。
オフィスに入り、コーヒーを入れ机を拭いて回る。
パソコンを立ち上げ、メールをチェック後、フォルダを開き目当てのファイルをクリックした。
仕事時間は瞬く間に過ぎる。
にもかかわらず、
何度も時間を確認する。
「今日はデートなのか?」
向かいに座る岩瀬さんが気にする。
「だったら、いいんですけどね。」と
軽く受け流して、たわいもない話をするうちに、定時となった。
更衣室で着替えて、会社を後にした。




