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言葉で伝わらなくても。  作者: モロキ
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割り切り

5カ月が過ぎた。


付き合い始めの藤井さんは、

しばらくは、「逃げてもいいよ」的なスタンスだった。

それが、ある日突然「逃がさない」になった。


それからは、

会う時は、

名前を呼ぶようになった。

手を繋ぐようになった。

ホテルに行くようになった。


彼との関係は、一見複雑そうで、実は単純だった。

"セフレ"

他人は、"定期的に会い、ホテルに行く"関係をそう呼ぶ。

しかし、そこに"付き合っている"という要素を加えるとややこしくなる。


秘密にしているとはいえ、

付き合っていると自認する二人のうち、

一人は、女の噂が絶えない男。

付き合い始めてからも変わらない。

実際に、バーのカウンターでツーショットのところを、目撃したこともあった。

一人は、"特定の男"はいないと言い夜遊びする女。

私は同僚と飲みに出かけたし、誘われれば合コンにも参加した。


二人でいる時、いつの間にか、

ふざけたり、冗談を言ったり、が減って、

からかわれることはなくなった。

藤井さんは優しい。

常に私を気遣う。

会うと必ず、

「寒くない?」と尋ねられた。

「冷たいね。」と手を握ってくれた。

「危ないよ。」と抱き寄せられた。

「楽しんでる?」と確かめられた。

食事中の会話は、藤井さんの近況報告が主だったが、可笑しくて笑ってばかりいた。

食事の後は、ホテルに行く。

夜更けまで抱き合い、最後は眠気に引き込まれる。目覚めるとシャワーを浴び、ルームサービスで遅い朝食をとり、ゆっくりと身じたくを整えてから、昼前には別れる。

次の約束をする。


この付き合いの、

核心に触れさえしなければ、よかった。

割り切りさえすれば、笑えた。


だから、

私から会いたいと言ったことはない。

女の子との噂も、「お互いさま」と割り切った。

その代わり、

藤井さんと約束をしていない時、

とにかく予定表をいっぱいにしたかった。

一人で過ごすことを避けた。


藤井さんの気持ちはわからなかった。

けれど、少しでも私の心に気づかれると終わる。


私は彼の目をみつめる癖がついた。

目の中にしか本当のことはないと思った。

瞳が僅かに揺らぐ時、彼の心の揺らぎを感じた。

彼も、よく私の目を覗きこんだ。

彼もまた、私の心を探っているのだと感じた。

言葉にしない部分での探りあいに、

私は疲れ果て、

彼もそうかもと感じ始めていた。





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