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想定外の続き
「私が藤井さんを振り回す?」
聞き間違いではない、よね。
確かに、今、藤井さんはそう言った。
藤井さんは頷いた。
「そう、俺を振り回して。
君になら、
振り回されても構わないから。」
「ゲームなの?」
私の問いには答えずに、
「遊びが嫌なら、
俺を夢中にさせてみせて。」
思いがけない提案、
「そんなこと、」
できないと言いかけた私に被せて、
「できるんじゃない?」
藤井さんが請け合った。
「俺がここに来た理由、聞いてた?」
さっきの言葉だよね。
「驚かせようと思ったって……」
私は口ごもる。
「覚えてるのは、そこ?」
いつもと違う真剣な目、
藤井さんが、私の頬に右手を添える。
そして、続ける。
「その前に言った。
『君に会いたくなった』って。」
「君はどうなの?
俺に会いたいと思わなかった?」
藤井さんの顔が近づいてくる。
考えるより先に、
身体が動いた。身体が逃げた。
ガタン、椅子から立ち上がった。
怖い。
私の心をすっかり読まれそうで、
怖い。
藤井さんの手に捕まりたくなくて、
慌てて、休憩室を逃げ出した。




