想定外
悩んで、悩んで、
本心とプライドとを秤にかけ、
プライドを選んだ私は、
連絡しないことに決めた。
絶対に、私からは連絡しないと決意した、
その1週間後、
?????
休憩室で一人くつろいで、
コーヒーを飲んでいた私の前に、
藤井さんが座ってる。
「里菜ちゃんは、コーヒーが好きなの?」
コーヒーが好きか訊かれた!
「えっと、えっと、ええ、好きです。
いえ、違くて、
あっ、あのっ、厳密に言わせていただくと、
薄いコーヒーが好きなんです。
薄いのをストレートで飲むのが好きなんです。
香りや味を純粋に楽しみたいなぁって、
思ってて、でも苦いのはダメで、
なので、
エスプレッソみたいな濃いのは、飲めません。
けど、お店で飲むと、ブレンドより、
アメリカンの方が高いですよね。
薄いのに何故かな?って、
それがいつも不思議で、
薄めるために、
お湯を加える手間のせいかなって、
常々考えてて、、、」
誰か私の口を塞いで!!?
口が止まらない!!
藤井さんを見ると、
こっちを見ている。
手で口を覆い、
笑いをこらえている。
笑ってくれていいのに ………
藤井さんはこっちを見たまま、
コーヒーカップを持ち上げ、
一口飲む。
一連の、その動作はまるで映画のようで、
彼の仕草に見とれてしまう。
彼が口を開く。
「緊張してるの?」
「えっ、えっと、
緊張なんて、してないです……よ?
ただ、不思議で……
あっ、不思議っていうのは、
さっき言ってたコーヒーの値段じゃなくて、
そんなことじゃなくて、
えっと、ですね……
あっ、あの、どうして藤井さんが、
ここにいらっしゃるのかなっなんて、
思っていたりして、………
い、いえ、別に
いたらダメって
言うわけじゃないですよ、
ただ単純に不思議で、………」
うわぁ、ドツボにハマッていく……
藤井さんが悪い、
突然現れるから、ビックリして、
うろたえてしまって、
アワアワして、
こんな失態をさらしてしまって……
あぁ、涙目になってるかも……
藤井さんは、
「うん、ビックリさせちゃったね、
俺が悪いよね。」
ちっとも悪いなんて思ってない様子で言う。
「でも 、君、連絡を寄こす気、なかったでしょ?
それもいいけどさ、俺が会いたくなっちゃって、
君の驚く顔も見たかったし、
だから、居場所を岩瀬に教えてもらってね。」
今、とんでもないことを言われ……た?
「岩瀬さんに聞いたんですか?」
聞き返す。
「そうだよ。岩瀬がさ、休憩室だろうって。
この時間帯は必ずいるんだってね。」
「岩瀬さん、岩瀬さんに言ったんですか?」
恐る恐る、確かめる。
「言っちゃった。」
藤井さんは微笑む。
「言っちゃったって、そんな……
まだ入社して半年しか経ってないのに、
何て思われるか……」
やっと、仕事を任せてもらえるようになったのに、
と、ガクリとうなだれる。
「付き合ってること、知られたくないんだ?」
と訊かれ、力なく頷く。
当たり前だよ、知られたくないに決まってる。
「嘘だよ。」
彼が言った。
「えっ、えっ、えっ、ウソ ?」
半信半疑で聞き返す。
「さっき営業部に行ってさ、
誰かが話してるのを聞いて、
来ただけ。」
「そう……なんですか。」
あぁよかったと、安堵する。
で、でも、何でそんな嘘を言うの?
混乱する。
と、藤井さんが爆笑!!
「やっぱ、里菜ちゃん、面白い!
表情がくるくる変わって、見てて飽きないよ。
本当に癒されるよ。可愛い。」
体中を振るわせ、大笑いしている。
大絶賛です、か?
誉められても、全然嬉しくないんですけど。
遊ばれたくないし、
ここは、ビシッと言っておかなくちゃ。
「藤井さん、
藤井さんは楽しくても、
私は楽しくないです。」
ビシッと言ってやった、どう?
「なんなの?その、どや顔?」
さも可笑しそうに言う。
「からかわないでください。
て言うか、
私を振り回さないでください!!」
きっぱり言い切った満足感が身体にみなぎる。
よく言った、頑張ったね、私。
自分を誉めていた私に向かって、
藤井さんは、
「あのさ、振り回されるのが嫌なら、
俺を振り回してみれば?
面白いかもよ。」
と、サラリと言い放した。




