奇遇
9月半ばに、同期会があった。場所は韓国料理店、幹事は八重と和泉君だった。
4月最初の飲み会で、ワインを数杯飲み、やたらと陽気になった後、気分が悪くなってダウンした上にトイレでさんざん吐いたことは、同期内での秘密だった。その時に「佐倉は酒に弱い」が皆の共通認識となり、幹事は「必ず佐倉を見張ること」が役目となった。
そんなのしなくても、私だって馬鹿ではない。反省もするし、学習もしている。4月以降、飲み過ぎないように注意していた。
今回も雰囲気を楽しみながら、料理に専念していたはずなのに、
私はトイレの中、鏡の前に立っている。
気分はそう悪くはないが、少し酔ったようだ。
顔色がよくない私が、映っている。
蛇口に手を置くと、水が流れ始める。
マッコリを何杯飲んだだろうか。そんなには飲んでいないはずだけど、と思いながら両手ですくった水で頬を濡らす。冷たくて気持ちいい、シャキッと目が覚める。
早めに抜けた方がいいかなと考えながら、鏡の中の自分を見る。口紅が剥がれていることに気づき、ポーチの中からリップを取り出し、唇を描く。今日の色はチェリーピンク、かわいらしい感じでお気に入りの一色だ。ファンデも取り出して、軽く化粧を直した。
顔色の悪さをカバーして、化粧道具をしまい、
今日はもう抜けさせてもらおうと思いながら、
トイレから出た。
ドアを開けて、廊下に出た途端、
人にぶつかった。
「イタタ………」
相手の胸にもろにぶつかる。
鼻が痛い。鼻を両手でこすりながら、相手を見る。
ぶつかった相手は、
藤井さんだった。




