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言葉で伝わらなくても。  作者: モロキ
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飲み会

金曜日の岩瀬さんとの食事会は結局、少人数の飲み会になった。

岩瀬さんが何時に会社を出れるか尋ねたのを聞きつけた八重や栞ちゃんが参加したがり、それに田谷さんや課長まで加わった。


それならと、会社を出る前に作戦会議を行った。

名付けて「バツイチ鈍感の桝田課長が八重を意識するように仕向けるための作戦会議」だ。

会議のお題が長いのは仕方ない。

だって、桝田課長は結婚に失敗後、色恋沙汰とは無縁、女子社員と距離をおいて、どんなモーションにも気づかない男なのだ。

そして、八重は1年半にわたり、秘かに課長に恋心を抱いている乙女なのだ。

メンバーは、八重に私、栞ちゃん、酒井君だ。

恋バナ大好きの栞ちゃんもこの恋だけには、ダメになったら洒落にならないと近寄らない。

作戦会議では、邪魔をされたくないという八重の強い要望を受け、(失礼だと憤慨しつつも、)会議のメンバーは別のテーブルに座ることになった。

「とにかく、ちょっかいを出さないで!!二人にして!!」という八重を、「観察しようね」と栞ちゃんと話し合った。栞ちゃんに引きずり込まれた酒井君は「歯車さんは課長ですか、ハードル高いですが頑張ってくださいね。」と応援してくれる。


みんなで、営業行きつけの居酒屋へと足を運ぶ。

賑やかな店内は、店員さんの威勢のよい声が行き交う。ミュールを脱いで座敷に上がり、堀ごたつ式のテーブルに腰を下ろす。岩瀬さんの隣だ。向かいには栞ちゃんと酒井君が座る。通路を挟んだ隣のテーブルには、課長と八重が向かい合って座っている。課長の隣は田谷さんで、八重の隣は同期の男子和泉君だ。「ごめんね、二人っきりは無理だよ。」と、心の中で謝る。


まずはビールで乾杯した後、思い思いに注文する。私は、だし巻きとアサリの酒蒸しを頼む。他にも、ホッケの開きや鳥の唐揚げ、山芋のサラダなどを頼んだ。

酒井君と栞ちゃんの会話が楽しい。

酒井君は基本敬語で、「私」か「僕」なのに、

栞ちゃんにはタメ口で、「俺」なのも若者らしくて微笑ましい。

私と橘みたいだな、とも思うけれど、橘ほど毒舌ではないのも好ましい。

いいな、酒井君。社会人になってからの1年後輩、学生時代ほどにはくだけない。常に先輩を立てて下からの物言い、おねぇさんは可愛いと思うよ。と、ニコニコして眺めていると、

岩瀬さんの同じように感じたのか、私と栞ちゃんたちとを見比べて、言う。

「こうして見ると、佐倉も先輩という感じだな。

それにしても、同期はいいもんだよな。部署が同じでも違っても、ライバルにもなるし、頼りにもなる。若い時のネットワーク作りは大切にしろ。」

酒井君は「そうですね」と頷いている。

私も、ライバルはまだまだだけど、頼ってるなぁと同期の面々を思い浮かべる。

同期の話題で盛り上がる。岩瀬さんは藤井さんの他に、総務の吉田さんや辻さんたちも同期だそうだ。

「佐倉も、歯車や橘と仲がいいよな。橘と親しくなったきっかけはあるのか?」

「えっと ……… しいていえば、新入社員の研修ですね、同じグループになって迷惑をかけてしまって。

それで、上下関係が確定して、橘が上で、私が下になって、で、でも、酔ったりすると、甘えたになるとこはかわいいなぁっと思ったりしますよ。」

あれ? 私、語りすぎ?

上や下って、やだ、そんなんじゃないのに。

栞ちゃんも酒井君も真っ赤になってる。

岩瀬さんはビールを持つ手を震わして、笑いをこらえている。

「凄いな、橘は、そんなに思われているのか?」

え? え? え?

私が橘を思っていることになってる?

恥ずかしいことを言っちゃった!

頬がかぁっと熱くなる。

顔を両手でパタパタと扇ぎながら熱を冷ます。


隣のテーブルでは、課長と田谷さんが今期の営業実績について意見を交わしている。時折和泉君が口を挟む。八重は愛想笑いしている。


出かける前の作戦会議はなんだったのだろう。

岩瀬さんや栞ちゃんたちと一緒に飲めて楽しかったけれど、課長と八重の距離は1ミリも縮まってなさそう………作戦は失敗だ。


駅までの帰り道を岩瀬さんと一緒に歩く。

二次会へ行く課長たちとは店の前で別れた。

何てことのない話をしながら歩く。

ほんの少し秋を感じさせる夜風が心地よい。


駅の手前で信号待ちをしている時、不意に岩瀬さんから「藤井とは、もう駄目なのか?」と聞かれた。


「分かりません。」とだけ答えた。



信号が赤から青に変わる。









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