報告
同期会の翌日、社食で八重と栞ちゃんに報告会を開いた。といっても、報告すべき事はたいしてない。
ホテルのイルミネーションがキレイだったことを話すと、都合で参加できなかった八重は、
「評判だから行きたかったのに、」と残念がる。
ホテルの庭は、カップルでいっぱいだったと言うと
「雰囲気いいものね。あそこの庭は広いから隠れる場所は多いから人目は凌げるし、上には部屋もあるし、」と羨ましげだ。彼氏いないくせに、なんてことは言わない。
カップルについて妄想を巡らしていた栞ちゃんが
「里菜先輩は、お庭を散策されましたか?」と聞いてきた。
「あぁ、……まぁ、……うん。」
歯切れが悪い返答になった。
しまった、変に思われる、
平静に、平静に、と頭の中で唱える。
案の定、栞ちゃんは食いついてきて、
「誰とご一緒されたんですか?」と追及してくる。
仕方ないなぁ…… 栞ちゃんには藤井さんとのことを話してないから誤解するかも…… 誤解されないように説明しなくちゃ………
「酔った橘と。………橘、酔っぱらって大変だったんだよ。だってね、・・・
と、酔っぱらいの相手をさんざんして、とうとう終いに、ホテルの部屋のベッドに寝かせたところまで一気にしゃべった。
山路がいてくれて、ホント助かったよ。私一人じゃ部屋まで連れていくの無理だったもの。山路、一緒に泊まってやるって言ってた、イイ奴だよね。」
どんなに大変だったかをアピールして話を結んだ。
なのに、
そのアピールポイントを、栞ちゃんはスルーして、
「里菜先輩、橘さんと特別に仲良しですもんね。
橘先輩ファンの私としては、妬けちゃいますけど、
里菜先輩だったら許せます。
お二人の仲を認めちゃいますよ。」と、
恐れていた方に食いついて、
トンチンカンなことを言う。
八重までもが、笑いをこらえながら、
「いいんじゃない?
橘、"あり"なんじゃないの?」
とかぶせてくる。
「あり得ない!」とその時、
社食に入ろうとする橘と目が合った。
今日は一人だ。
橘は、目線をそよがせて、挙動不審。
ギクシャクとした動きが笑いを誘う。
「なに? あれ? 面白い。 」と、
八重は笑い転げている。
定食を手にした橘が、こっちに来る
「えっと、ここ、座ってもいい……かな?」
この下からの物言い、新鮮で良い!
気持ちよくなった私は、
「構いませんよ。」と言い、
「昨日は大変でしたね。」と気遣った。
どう?迷惑をかけられたのに、相手を心配してあげるこの心配り、大人だね。
橘は、数秒間私を眺め、
「うるせぇ、わざとらしいよ。」と言う。
その口調がどことなく弱々しい。
「もしかして、二日酔い……?」
「当たり、………頭いてぇし、最悪、
………………
お前、そばにいたんだったら、止めろよ。」
髪をクシャクシャ掻きながら、恨みがましい目で見てくる。
「そんなこと言っても、行った時には、もう随分飲んでたし ……… 」
そんなことを言い合っていると、
その様子を見ていた栞ちゃんが、
「お二人は仲良しさんなんですね。
二日酔いの橘先輩、気だるそうで、いつもの2割増しです。
そんな橘先輩を心配する里菜先輩も、いつもより可愛らしく見えますよ。
里菜先輩、合コン行ってもやる気無さそうだったのは、橘先輩狙いだったからなんですね。
大丈夫です。私のことはお気遣いは結構です。
ただのファンだから、傷は浅いです。
分かってますもん。オジャマ虫だってこと。
お二人を応援します。
そっと見守っていきますので、安心して愛を育んでください。」と、捲し立てた。
橘は「ありがとね、応援、ヨロシク!」と、
軽い調子で答えつつ、
(何者なの、この子?)と目で問う。
(目が怖いですよ、橘さん。)
「後輩、矢崎栞ちゃん。」と教えてあげた。




