その晩の夢 1
ホテルの一室だった。濃い茶でまとめられた室内は落ち着いた雰囲気を醸している。
ここに来る前のイタリアンのお店は、冷製パスタがとても美味しくて、ワインとよく合った。
慎さんと過ごす時間は楽しくて、1年目の失敗談や同僚の噂話も面白くて、いつもよりお酒の量は増えていたけど、酔っぱらってしまう程ではなかった。
お店を出て、駅までの道を、手をつないで歩く。
キスしてくれないかな、と思った。
二人で過ごす時間が楽しくて、まだ慎さんと別れたくなかった。一緒にいたいなぁと思っていた。
だから、ホテルで休んでいかない?と誘われた時も躊躇はしなかった。
慎さんが言う、
「もう、逃げるのは無しで、」
と、両頬を慎さんの手に包まれ、彼の顔が近づいてくる。
ギュッと目をつむる。あれっ?唇が降りてこない?
薄く目を開ける。眼前に慎さんの顔。
「俺はこのまましちゃっていいの?……… このままセックスしたら、関係が変わるよ?
君は俺をどう思っているの?
君の気持ちを知りたい。」
いつもと違う声、真剣な目。
「逃げるのは、ダメだって、」
「そう、確かにさっきそう言ったけどね、やっぱり、確認しておこうと思って、」
彼が私の目を見る。近さに心臓がドキンと跳び跳ねる。至近距離過ぎる。
その距離で彼の言葉を聞く。
「だって、君、あんま分かってないでしょ?」
「そんなことない、ちゃんと分かってます。」
慎さんが軽く笑って言う、
「何を分かっているの?」
「そういう関係になるってことでしょ?」
私は理解してますよ、彼に伝える。
「なっていいの?」
何で聞くの?だって、
「だって、逃げちゃダメだって言ったじゃない?」
「言ったけどね、……… これじゃ、堂々巡りだ。」
慎さんは、苦笑する。
だから、言った。今まで言わなかった言葉を、
「好きだよ? 」
慎さんは、少し、顔を離して、私を見る。
やだッ、恥ずかしいッ、見ないでッ、
逃れようとする私の顔を捕らえて、
額と額をぶつける。
痛いッ、涙目になる。
「何で疑問形?」クスと笑って、続ける。
「そこは、断定するとこでしょう?」
「そ……そうですか。」
失敗したと思った、その時、
「俺も好き」
彼の顔がもっと近づいてきて、唇が合わさった。




