36/105
決心
発信音が途切れ、「里菜」と呼ぶ声がする。
八重 …… 声を聞いてほっとする。
いつもと変わらない。
「………今いい?」
「大丈夫だよ。」
「あのね、さっきまで…… 橘と話してた。」
「今日だったの?
あのさ、…… ゴメン、橘に頼んだ。」
「うん、…… 全部聞いたよ。……
こっちこそ …… 心配かけて、ゴメン。」
お互いに謝り合った。少し言葉が途切れる。
先刻の橘の言葉を思い出す。
「橘に、……キツイことばっか、言われた。」
「うん。……イタかったね。」
「好き放題言ってるとか思ってたんだけど、
八重と橘の気持ちがジンときた。
二人が背中を押してくれるから、」
一つ呼吸をする。
「……… 藤井さんと話してみようと思う。」
本当はまだ迷っているけど、
このままフェードアウトにだけはしたくない。
「それがいいよ。」
八重が賛成してくれ、
「里菜のペースでがんばって。」
応援してくれる。
「ありがとう。」
お礼を言って、電話を切った。




