恋愛相談
橘は隣のテーブルを片付けていた店員さんに、
3杯目のビールを注文した。
「お前、もう止めとけ。」
と、ウーロン茶を一緒に頼んでくれる。
「まだ、酔ってないし、」
と抗議しても、
「さっき、怪しかった。」と、
取り合ってくれない。
橘が、テーブルの焼き鳥豚タレを取って頬張ったのを見て、私も皮塩を手に取る。
「ここの、旨いよな。」と同意を求める。
「……… そうだね。」とだけ答える。
「口数少ないな、撃沈か?」と、
橘が、意地の悪いことを言う。
「だって、橘があんなこと言うから………
ずっとそんなふうに見てたなんて
気づかなかったもの…………」と、
本音を吐露する。
橘は、私よりも、焼き鳥が気になっているようで、
「お前さ、タレと塩だったら、やっぱ、
今食ってる塩だよな?」
「あっさり味が好きだも。」
「好きだも。って、何?」とクスリと笑って、
「男の好みも一緒だろ?」
と、続けた。
「ダメなの?」
この上何を言われるんだろ………身構える。
「ダメじゃないさ、男の趣味、昔からそうなの?」
と、筍の木の芽合えを箸で摘まんで尋ねる。
「そうだね、付き合うタイプは一緒かな?」
そんなに付き合ったことないけど、
って一人しかいないけど、と心の中で付け加える。好きになるタイプは同じような人。
枝豆を剥いて、口に放り込む。塩辛い。
「ふうん………、社会人と付き合ったのって、藤井さんが初めて?」
「初めてだよ。」
「大人の男だと思った?」
「そりゃぁ、そうだよ………」
橘が続きを促す。私は続ける。
「だって、あんな素敵な人なんだよ。」
彼の整った顔を思い浮かべる。
「綺麗と言った方が似合うような………、すっきりとした顔立ち、切れ長の目、通った鼻筋、薄い唇、一つ一つのパーツが細長の小顔に絶妙に配置されてるよね。少し茶がかかった色素の薄い瞳の色は、とても純日本人とは思えない。見上げなければならない背の高さも、細身なのに筋肉質の身体も、ちょっとした仕草も、素敵ポイント。一緒に歩いていて、すれ違う女の子たちが振り返るのも優越感をくすぐられるし、それにね、」
「ストップ、ストップ。もういいから。」
橘に遮られて、ムッとする。
言えと言うから言ったのに、途中でやめさせるのはひどくない?
「お前さ、今言ったの、藤井さんの外見ばかりだってことに気づいてる?」
橘が問う。
えっ、そうだった?気づかなかった………
「その様子だと気づいてなかったみたいだな。」
橘はハァァと溜め息を吐く。
「大人だと思うとこ、そこかよ。どうせ好きなとこもそうなんだろ?てか、全部外見って、どーなのよ?しかも、一緒に歩いて優越感って、藤井さんを馬鹿にしてる?」
「なんで馬鹿にしたことになるの?
イイナと思うところを言っただけじゃん。
包容力があるとことか、内面だってちゃんと見て」
橘に遮られる。
「見てないよ、佐倉は。
全然見てない。」
「藤井さんは、ただの男だよ。
そりゃ、見た目はいいけれど、普通の男。特別じゃあない。
余裕があるように見えるのは、そう思わせてるだけ。嫉妬だってするし、好きな女に逆ギレする格好悪いところだってある。そういうとこ、見ろよ。」
橘の言葉は衝撃的だった。
そんなふうに考えたことはなかった。
私、本当が見えてなかった?
「言い方キツいけど、勘弁な。
でも、佐倉はもう恋に恋する年でもないだろ?
24だぜ?
大人の女になれよ。
ガキくせぇことは止めにしろ。」
一言一言が、胸に突き刺さる。
私、どうしよう………
どうしたらいいんだろう………
もう、遅すぎる………
「素直に自分の気持ちを伝えたらいいんじゃね、」
橘が言った。
「ギリ セーフってとこかな?」付け加えた。
店を出た後、会社に戻ると言う橘と別れて、私を駅に向かった。プラットホームのベンチに腰かけて、私は携帯を取り出した。




