前日
お見合いが明日に迫った昼休み、社食で
いつもの3人で定食を食べる。
メニューは、キャベツの千切りを添えた
豚肉の生姜焼き定食に、
ニラがいっぱい載っかった冷奴、
キュウリの酢の物に、
香の物に、紫のゆかりを振りかけたご飯。
ニラ好きな調理師さんがいるのかと考えていると、
「いよいよ明日ですね。
ドキドキします。」と、
栞ちゃんが 右手に持った箸を握りしめて言う。
「もっと声を抑えて、」
小声で言って、周囲を見回す。
大丈夫、誰も気にしてない。
「何で、栞ちゃんがドキドキするのよ?」と
尋ねる。
栞ちゃんは、若干低い声で、
「お見合いは初めてなんで、興奮します。
だって、結婚するかもな相手なんですよ。
どんな人か想像するし、
素敵な人だったらいいな、とも思うし。
ご趣味は?なんて聞かれたら、
どう答えたらいいんですか?
本当のことを言っても構わないんですか?
言ったら、ドン引きですよ。
でも、最初に言っておかないと。
それでも構わないか確認しておかないと。
後からは言えませんよ。
あ~ どうしよう。なんて言おう………
それでは若いお二人で、になったら、
どうしたらいいんですか?
相手が話しかけてくるまで、待った方がいいですよね?
でも、おとなしすぎはNGですよね。
どの程度のおしゃべり具合がいいんですか?
あと、
失礼なこと言ったら、どうしようって思うし、
失敗したらどうしようって思うし、
やっぱり、NGワードってあるんですよね?
「切る」とか、
あぁ、とんでもないことをしちゃいそうで怖い!
…………………
…………………
私、変ですよね。変なの分かってるんですけど、
考え出したら、止まらないんです。」
ようやく栞ちゃんの妄想が終わった。
「今の栞ちゃん、怖かったです。」
私は、感想を言った。
八重は違う感想を持ったようだ。
「栞ちゃんは普通だよ。
冷めてる里菜が変なだけ。」
と私を睨む。
睨まれた私は、言葉を返すことを止めて、
目の前の生姜焼きを食べることに
専念した。
「八重ちゃん、里菜ちゃん、久しぶりだね?」
の声に 、視線を上げると、
同期の受付嬢、エリコサンが
「一緒していい?」と隣に座った。
ダイエット中だと言うエリコサンが手にしているのは蒟蒻サラダ。ポン酢の味付けがさっぱりしている一品だ。
バーゲン情報などを交換していると、
突然、岩瀬さんと付き合っているのか尋ねられた。
初耳の八重と栞ちゃんは驚いている。
「噂を聞いたの?」と聞くと、
「うん」と頷いて、
「お姉さま方がやっかんでるから注意してね。」と言われた。
「でも、それ、嘘。」と八重たちに同意を求めると、ウンウンと頷いてくれる。
「火のない所でも、煙が立つからねぇ」と同情され、放っておくことでまとまった。




