準備
それからは、平穏な日々。
何の代わり映えのない毎日は、落ち着く。
ルーティンワークは、単調だけれども、
気を抜けない。
迅速かつ正確、しかも心遣いができるという
評価は下げたくないから。
自惚れている訳じゃない。
だって、そう思われるように、
入社してから1年ちょっと、
頑張ってるもの 私。
何事も最初が肝心だと思う。だから、
1時間前には必ず入る。
コーヒーをセットして、机を拭いて回る。
コーヒーが出来上がる頃には、
営業部員も姿を見せ始める。
岩瀬さんから言われた挨拶は何時なんどきでも
しっかりとした。
仕事の先に相手がいることを忘れるなと教えられ、
相手の存在を意識して仕事に携わった。
どんな些末な仕事でも、チェックを忘れずに、
とにかく、ミスが無いように気をつけてきた。
(ミスしたのは配属直後あの1回だけ)
急な頼まれ仕事は優先して処理した。
しばらく経って、
ホッチキスの綴じ方に気配りを感じたとか、
データ処理を早くしてくれて助かったとか、
あの資料ビジュアルが工夫してあったとか、
誉められてガッツポーズした。
昔から誉められて伸びるコだった私は、
それが嬉しくて今に至る。
因みに、「事前準備は怠らない」と
「当たり前のことをコツコツと」が
私のモットーだ。
だからお見合いの準備も怠らない。
美容室でカットしてもらったし、
(お見合いのためのお薦めカットを
希望して、引かれたけど)
シャーベットピンクのワンピースも買ったし、
(売場の年配の店員さんが、
これが鉄板と太鼓判を押した)
エステにも行った。
(スベスベにしておきましょと、
エステティシャンのお姉さんは、
妙にテンションを上げていた)
八重からは、毎日、馬鹿だと言われていた。
「動きだしたら、家同士のことになるから、やーめたは出来ないんだよ。」と今日も諫められる。
「分かってるよ。」
「きちんと向き合う気もないのに会うのは、すごく失礼だよ。」
「分かってるよ。」
「里菜自身が傷つくよ。」
「分かってるよ。」
全部分かってる。
だから、許して、と思う。
幸せになりたい。
幸せだと思い込みたい。
幸せなんだと、思わせたい 私を。
また、八重に馬鹿だと言われそうだ………
あいつからは何も言って来ない。
もうメールもない。
電話も来ない。
偶然に会うこともない。
それが寂しいなんて、絶対に言えない。




