食事中の会話 その1
注文した品が持って来られ、まずは乾杯からと軽くグラスを合わせる。
「お疲れ。IT部は毎日遅くまで大変だね。」
「ホント、新人でいきなりITはキツいよな、怒鳴られてばっかり。」
「指導は誰に当たったんだっけ?」と尋ねると、
「藤井さん、藤井慎さん、知ってる?」と聞かれた。
「知ってるよ。有名だもん。イケメンだよね。」と頷く。
「ああ、しょっちゅう女どもが 騒いでいる。
でも、あの人自身、すごいよ。あれだけの容姿が備わっている上に、仕事も出来るし、無敵じゃね。」
「それはすごい、でも、言い過ぎじゃない?」
「今度の異動で係長になるかもよ。社内最年少。」
えっと驚いたけど、あいつの話は避けたいので、
「それは、何情報?」と、話をずらす。
「お局様情報。」
よし、成功。
「それもすごい、………お局様と仲良しなんだ?」
「お局転がしはさ、基本だって。可愛がられておく方が絶対に得だぜ。こうして情報もくれるし。」
「橘 ……… ウーロン茶飲みながら、何気にワルだね?」
「あっちだって悪い気はしてないさ。若い男が頼ってくるんだぜ?」
「うう"~、私もいずれそうなるのかな? 」想像してみる。周囲に辛辣な物言いをするのにデキル男と若い男にのみ甘い私…………「なんか、やだ………」と、カシスパインを口にする。うん、甘くて美味しい。自然と顔が緩む。
橘は料理に向けていた目を上げ、私をチラッと見てから、
「その前に、結婚退職じゃね?」と言い、少し躊躇ってから続けた。「今、噂になってるぞ。」
「ええ"ぇ!!!…………」心底驚いた。あれほど隠してたのに。「噂になってんの?」と聞き返す。
「ああ、男連中の間ではかなり。」と橘は言い切る。
「知らんかったぁ…………。でも、なんで結婚………振られたのに………」とつぶやくと、
「えっ、お前振られてんの?」と逆に驚かれた。
そして、少し間をおいてから、
「同じ部署で、キツいよな。……まぁ、噂が消えるまで辛抱な。」と慰められた。




