深層 2
「橘はモテるよ。
人当たりがいい。誰とでもそつなくコミュニケーションとれるし、フットワークも軽い。要求された以上に動くから、取引先の信頼も得ている。
可愛げがあるから上司受けもいい。
将来有望な、結婚相手だと思っているコも多い。
食事に誘われたり、合コンに呼ばれたり、迫られている。
本人は逃げているけどね。
そんな近くにいて、何故君は橘に行かなかったの?
実際のとこ、橘が身近に置いているのって君ぐらいだろ?」
藤井さんが言ってることは全部知ってる。
知っているけれど、それは外から見た評価だ。
どう答えたらいいのだろう?
しばらく考えて、思いを言う。
「橘が私に構ってくるのは女避けのためだとずっと思っていました。
そんなのなくても、橘に行こうなんて思いません。
そりゃぁ、好きですよ。嫌いなところも勿論ありますが、外面は、今、藤井さんがおっしゃったような人間ですもん。好意を持つのは自然ですよね?
でも、橘は違います。
だって、どう考えたって、
やっぱり 、橘にはドキドキしません。
頭を撫でられても、手を握られても、
橘が戻ってきて嬉しかったり、あったかい気持ちになったりするけど、トキメイたりしません。」
言い切っちゃったけど、これは本当の気持ち。
藤井さんの視線は、私の表情のちょっとした変化をも見逃すまいとするかのように外れない。
エアコンの風音は止んだ。時間が流れる
少し考えてから、藤井さんが口を開く。
「無意識のうちに君が橘を同期の枠に嵌め込んでいるからではない?
俺には理解しがたい。
たとえば、
逆に、俺が同期という理由で他の子の頭を撫でたり手を握ったりしても、君は気にならない?」
その光景を思い浮かべてみる。
見たくない、
嫌だけれど、
「仕方ないと思うと思います。」
俯いて小さい声で答える。
えっ、と驚かれて、
「仕方ない?」と聞き返される。
「だって、藤井さんはモテるから。
独り占めなんてしちゃいけないから。」
思い込もうとしている言葉を口にする。
「彼女なのに?」と突っ込まれて、
返答する。
「彼女だからです。彼女にしてもらえたことだけで十分だから、それ以上欲張ったらバチが当たります。」
「バチが当たるって何それ?」
藤井さんは苦笑し、
「なるほどね、だから、橘なのか。」
と呟いた。




