駅ナカ
更衣室を出て、節電のため、少し照明が落とされた廊下を進む。人けのない廊下に、自然と早足になる。
そんな時、いきなり後ろから、
「あれ、佐倉?」
と呼び止められた。一瞬ビクッとして振り返る。
「なんだ、橘だったの。お疲れさま。」
同期の橘圭介だ。彼はIT統括本部に所属している。「いきなり失礼な奴だな。お疲れ、こんなに遅くまで珍しいね。」と言われ、
「岩瀬さんに頼まれて、明日のプレゼンの資料を準備してたの。」と答えた。
「そうなんだ、大変だったな。」と労われた後、
「なぁ、夕飯まだだろ?食べに行かない?」と誘われた。
まだ家には帰れない気がしたし、帰ってからの夕飯作りが面倒に思えたので、
「あまり遅くならないなら、いいよ。」と返事した。
すると向こうも、
「大丈夫、明日朝イチで出張だし。」だった。
「じゃあ、行こうよ。」と一緒に歩き出す。
ビルを出て、「何食べたい?」と聞かれる。
「橘は何がいいの?」
逆に聞き返す。
「俺はご飯をがっつり食いたいな、朝からコンビニのおにぎりだけだし。」
「それなら、駅ナカのご飯処に行こうよ。お惣菜も充実してるしね。」
同期の噂話をしながら歩いている間に駅ナカに着き、和食屋「静」の暖簾をくぐる。「静」は名前のとおりママが一人でひっそりと営む店、ではなく、明るい店内と元気のよい従業員がウリの店だ。
幸いそんなに混んでなかったので、それほど待たずに座り、メニューを開く。
「俺、今日はビール止めとく。ウーロン茶でいいや。」
「私はカシスパインにする。これだったら酔わ ないし。」
橘が疑いの目を向けてくる。
「何よ、失礼ね。ジュースみたいなもんだよ。酔ったりしないわよ。」と、
橘から視線をハズさずに答えた。橘は目を反らした。勝ったと思った私は店員さんを呼び、飲み物と焼きおにぎりなど数品を注文した。




