第7話 ユキとドラゴン
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ドラゴン同士の会話は『』で書いています。
魔法をはじき返し、あらゆる鋼鉄よりも固く硬い鱗に覆われ、その口から吐く灼熱のブレスはあらゆるものを溶かし、羽ばたきで町1つを吹き飛ばすと言われているドラゴン。
そのため、ドラゴンと戦う時には専用の武装を施した上級クラスの腕を持つものが複数人がかりでようやく互角の勝負となる。
そのドラゴンと戦うことになったユキとアンドレイ。
「私たちでも多少は時間稼ぎくらいはできるはず」
(実戦経験がほとんどないユキ姫ではまだ荷が重すぎる。ここは私がなんとかしないと)
覚悟を決めたアンドレイが剣を抜き、ドラゴンと対峙する。
一方、ユキはドラゴンが自分たちを襲っている理由を考えていた。
(本来、ドラゴンは温和な性格でこちらから攻撃を仕掛けない限り、人間を襲うことはほとんどないはず。
あるとしたらそのドラゴンが大切にしているもの、たとえば財宝や卵などを奪われたときくらい……)
ユキはあらゆる可能性を考え始める。ドラゴンと戦うことになったきっかけはどこかにあるはずだと。
(もしや、ゴーレムが襲われていた三人組が地下3階まで行った?
そして地下3階のどこかにドラゴンの卵が奉ってあり、それを盗んだことで番人用のゴーレムが起動したとすれば……)
ドラゴンの卵は高い値で売買されている。金にくらんだ生徒が居てもおかしくない状況であった。
「アンドレイさん、ゴーレムに襲われていた三人組を追ってください。おそらくドラゴンの卵などを持っているはずです」
ユキの言葉にアンドレイは振りかえ、反論する。
「しかし、貴女ではドラゴンを相手にするのは……」
「誰が残ってもドラゴンが相手ならそう長くは持ちません。それなら足の速い貴方が卵を持ってくれた方が行き残る確率が高いはず」
アンドレイはしばし考える。
(確かに私の腕でもドラゴンが相手なら長くはもちません。しかし、マリア姫の身体を持つユキ姫ならもしかすると……
ですが彼女の腕はまだ未熟。一体、どうすれば……)
なかなか答えが出ないアンドレイ。そんなアンドレイの様子を見て、ユキは
「行け、ファイヤーボール」
ドラゴンに火の玉を放つ。その攻撃を受けても痛くもかゆくもないドラゴンだったが、ドラゴンの視線は間違いなくユキを敵だと認識した。
そしてユキはアンドレイから離れるため、先ほどのダンジョンまでの道のりを走りだし、ドラゴンはユキを追いかける。
こうしてユキとドラゴンの鬼ごっこは始まった。
「私がもっと早く決断していれば、ユキ姫もこんな先走ったような行為をしなくて済んだのに!
少し待ってください、必ずドラゴンの卵を持って帰ります」
自分の決断の遅さに後悔しながらも、馬鹿三人組を追いかけるアンドレイ。アンドレイは魔法を使って自身のスピードを強化し、生徒たちのもとへと向かっていった。
少し走ると生徒たちの後列が見えてきた。先頭の方にいる生徒たちの中にはあの三人組の姿も見えた。
「先の三人組、話がある」
急に聞こえたアンドレイの言葉に生徒たちの足が止まる。そしてアンドレイはゴーレムに襲われていた馬鹿三人組の前に立つ。
「君たちは地下3階に行って、ドラゴンの卵を盗んでいないか?」
三人組のリーダー格であろう少年は頭を下げた。
「すみませんでした。俺たち、どうしてもお姫様のお近づきにな……」
「そんなことはどうでもいい!卵は何処にある!!」
アンドレイは少年の言い訳を遮り、胸倉をつかむ。
「卵……どこかに落としました。慌てていたから…………」
アンドレイの腕から力が抜ける。
(何てことだ……ユキ姫は私が来ることを信じて戦っているのに……)
「私は……こんなにも無力なんだ」
アンドレイは自分の情けなさに涙を流しそうになるがこらえる。
「ならば、一刻も早くユキ姫のところに」
アンドレイは再び魔法を使って、ユキのところに駆け出していく。
ドラゴンの図体は大きいため、居場所は遠くからでもはっきり見えた。しかし、アンドレイがどれだけ急いでもそれなりの時間はかかることは明確であった。
「こっちだ、ファイヤボール」
ユキはドラゴンが生徒たちの方向へと振り向いたら、ファイヤーボールを放ってユキの方へと意識を向けさせていた。
しかし、ユキが魔法を唱えてもうんとスンとも反応しなかった。
「こんなときに魔力切れ!?」
ユキは原因がわかると、すぐさま近くにあった小石をぶつけ
「おい、決闘しろよ。それともそのまま逃げるのか。本当はお前、弱いだろう」
ドラゴンはユキの適当な挑発に乗り、その意識をそらすことに成功した。
そしてドラゴンはその鋭い爪でユキを切り裂こうとするが、ギリギリのところでかわすものの、風圧で吹き飛ばされ後方の木にたたきつけられる。
腕が未熟なはずのユキがドラゴンの攻撃を致命傷を受けることなくかわせていたのは1つの要因があった。
1つ目はユキが反撃する気や卵を捜索する気がなく、かわすことに専念していたこと。
2つ目はドラゴンが怒りのままに動いているので、動き自体が単調であり、逃げる隙も大きかったことである。
(ギリギリのところでかわせているけど、そう長続きはしない)
自分の集中力もそろそろ限界に近づいていることを悟るユキ。
(なんとか人気のないダンジョンの近くまでは誘導できたけど、これからどうするべきか……)
ドラゴンを恐れているのか周りには人どころかモンスターもいない。
しびれを切らしたのかドラゴンはこれまでにないくらいの溜めをつくり、この一撃で仕留めようとドラゴンが最大の技を放とうとする。
そしてドラゴンは自らの手に炎を纏い、これまで以上のスピードでユキを押しつぶそうとする。
この攻撃はかわせないことを悟るユキ。
ドラゴンの炎を纏った張り手をまともに受けたユキはドラゴンの攻撃による衝撃に耐えられなかった地面が陥没し、落ちて行った。
ユキは岩に押しつぶされながらも生きていた。
「まだ……生きているのか」
身体中から痛みを感じながらも、近くにある岩をどかしゆっくりと立ち上がる。
ユキの近くにあった燃えている木があったので松明代わりにした。
「あんな高いところから落ちたのか」
ユキは自分が落ちたであろう場所を見上げる。天上に空いている穴は距離にして十数mはあるのではないかと思われる。そのおかげで周りがよく見えるのだが……
(よくあんな高いところから落ちて助かったよな……)
強化スキルと自分の身体(マリアの身体)に感謝するユキであった。
ズシンという音が聞こえたので、ユキが振り向くと1つ目の巨人、サイクロプスがいた。
サイクロプスは個体差はあるが中級モンスターの1体として数えられる。その特徴は大きな腕を振り回すだけで岩をも砕く怪力だ。
魔法も使えない上に身体はボロボロだったユキは近くにあった岩をつかみ投げようとした。
(ん? この岩、変な手触りだったような……)
ユキが手に持っていたものをよく見ると卵のようなものであった。
(もしかして、これあのドラゴンの卵じゃない?)
何の確証もないが、ユキは卵らしきものを大事に抱え逃げ出した。
サイクロプスはユキを追いかけ始めるが、ユキの逃げ足にはかなわず、追跡をあきらめた。
ユキはひたすら逃げ続けていた。
なぜならばユキの片手には松明、もう片方の手には卵があるため剣を持つことができないからである。
ユキの目の前には一角兎とその後ろにはスライムの大群がいた。
(こうなれば、一か八か、マリアの身体のスペックに全賭けだ!)
一角兎がジャンプし、ユキに襲いかかる。
「一発逆転、2段ジャンプ!」
ユキは一角兎の跳ぶタイミングに合わせ、一角兎を踏み台にしてスライムの大群を飛び越えようとした。
一角兎が「俺を踏み台にした!?」と言わんばかりの表情をする。
そしてスライムの大群を飛び越えることができたユキは地上へと向かった。
運が良かったのか地上にドラゴンがいる影響だったのかユキはそれ以降、モンスターを見かけることはなかった。
そしてダンジョンの外にでたユキは待っていましたと言わんばかりにドラゴンが平然といた。すでに攻撃体制に入ってドラゴンに対し、
「ドラゴンよ、お前が探していた卵はここにある!」
ユキは卵らしきものをドラゴンに掲げる。ドラゴンはユキが持っている卵に視線を移す。
すると卵が動き始め、卵が割れると小さな赤いドラゴンがユキの方を見ていた。
「ガリュゥ?」
「……えっ~と、おはよう?」
雛のドラゴンになぜかあいさつするユキ。そして親らしきドラゴンと会話し始める雛。
『私が貴女のお母さんよ』
『私の母親はこの人だよ』
ユキの豊満な胸にダイブする雛。
(生まれたばかりの小鳥が最初に見た生物を親と感じるあれか)
ユキは雛の様子を見て、そう結論付けた。
『この人、すべすべでふんわりしていて気持ちいいもん』
『そんな人間を親とは認めません!』
『嫌だ!しつこいオバサンは嫌い!!』
ドラゴンがガビーンという擬音語が似合いそうな表情をする。
(なんかあの親のドラゴン、なにかショックを受けているんだけど……)
どんな種族のメスでも年齢のことはアウトだったらしい。
『そんなわがままを言う子は私の娘じゃありません!』
親と思われるドラゴンは大空へと旅立った。そしてなぜかなついているドラゴンの雛。
「ユキ姫、ご無事で……」
その様子を見たアンドレイは言葉を失った。ドラゴンの雛になつかれている人はそういないから当然だ。
「ギュルル?(私の名前は?)」
ユキの方を見て、自分を指さし頭をかしげる雛。
(……名前、付けてほしいのかな?
レッドアイ……そっちは体が黒いか。親のドラゴンにそっくりな攻撃方法を持っている……)
「君の名前はレモンで」
250円の魂と同じ名前を付けるユキであった。
うれしそうに羽ばたいている雛を見て気が抜けたのか、そのままへたり込んでまうユキであった。
(身体中が痛い……多分アドレナリンのおかげで先まで痛みをかんじなかったんだろうな)
アンドレイはユキを背負い、城へと帰還した。
なお、今回の視察の報告書は後日アンドレイがまとめてくれた。
主人公がズタボロになるまで戦いました。
(逃げていただけとは言わない)
どんなに身体能力高くても、中の人の技術が大きく左右される
と思ったのでこのような結果になりました。