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僕がお姫様!?  作者: ゼクスユイ
第1章 追究編
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第6話 課外授業は危険がいっぱい

 ユキがマリアとして出た魔王討伐パーティから数日が経った。

 ユキの勉強机にはドッサリと置かれた資料の山々が置かれいる。この前のパーティでの失態を侵さないようにアルが、著名人の名前のリストとその人が出版している論文や図書を渡したためである。論文の中にはドロシーの名前が書いてあるものが数多く存在していることから、彼女が才能に溺れずどれだけ努力してきたか分かる。

 そしてアルさんから出された宿題はこれらの資料を著名人ごとにレポート形式でまとめることである。そのため、懸命に辞書を引きながら悪戦苦闘しているユキの姿があった。

「ドロシーさんの論文はうまくまとめてあるから分かりやすかったけど、このシューベルトさんの本は抽象的すぎて、よくわからない」

 まずはパーティで出会った人のものから片づけていくユキであった。


 そこに不機嫌そうな顔をしてマリアがユキの部屋に入ってくる。

「何なんだ、あの連中は!」

 ユキは一体何事かと思い、レポートを書く手を止める。

「何があったのですか?」

「うむ。今日は勇者育成学校の視察に行ったのだが、そこにいる勇者候補生が私を下卑た目でジロジロと見るのだ!」

 勇者育成学校とは王国内にいる光魔法の使い手または素質がある人間を集めて、魔王を打ち倒す勇者を育成する学校のことである。ただ、光魔法が使えるからといって全員が「世のため人のため」という考えを持っているわけでもなく、中にはお姫様とお近づきになる手段として考える人も少なからずいるらしい。

 今回、マリアが不機嫌なのはそういった人からのネットリとした視線が気に食わなかったのだろう。

(男から見れば、魅力的な体つきをしているからね。でもマリアが結婚して、家事をしている姿が全く想像できない。きっと結婚した相手が不幸になりそうだ)

 ユキは心の中で思ったことは口に出さずにマリアと話す。

「いつもみたいにキュッとしてドカーンをするわけにもいかないですからね。とりあえず耐えるしかないのでは?」

 こればかりは本人が頑張るしかなかった。いくら勇者候補生がユキと仲良くなっても、実際の戦場と戦うのはマリアである。マリアと相性が悪ければ、本来の力を引き出せないのだから。

「嫌だ!私はあんな連中と組みたくない!だから、少し腕は落ちるものの私を変な目で見ないガイを勇者として選んだというのに」

 どうやらマリアにとって相性は非常に重要なパラメーターのようだ。

「しかし、今日会った候補生はひどすぎる」

 また話がループしそうであったが、そうなることはなかった。

「どうせならユキが勇者になればいい。最近は低級モンスターなら簡単に倒せるようになっていたから大丈夫だ」

 なぜか話の矛先がユキに向かった。

「光魔法が使えないから無理ですよ」

 ユキが絶対に勇者になれない理由を端的に述べる。

「光魔法が使えない勇者がいてもいい。それが自由だ」

 ユキは無茶を言うなと心の中で思った。

「いいことを思いついた。ユキが私の代わりに行けばいい」

「それは意味がないのでは? 実際の戦場で戦うのはマリアさんでしょう」

「ユキが選んだ人物ならそれなりに相性がいいと考えたまでだ。あと私のことはお姉ちゃんと呼んでほしい!」

 急にマリアがユキを抱きしめる。

「……マリアお姉ちゃん?」

 そうよばれるとマリアの表情はこれ以上ないくらい幸せそうだった。

(レズ? それともシスコン?? どっちにしても駄目だ、この人なんとかしなちゃ)

ユキは深くためいきをついた。


 後日、王様からの依頼でユキはマリアの代わりに勇者育成学校に行くことになった。

 マリアは鬱憤を晴らしにセルゲイと一緒にギルドの依頼を受けている。

 そのため、今回のユキの護衛はアンドレイのみとなった。他にも兵士はいるが、マリアたちが心の底から信頼でき、なおかつ腕の立つ兵士となるとそう数は多くない。

 そして立派な門構えの勇者育成学校についたユキたち。

 門の前にはスキンヘッド(という名のハゲ)の男性が1人いた。彼は勇者育成学校の校長であるカシス・グレーデルである。なお、カシス校長にはユキのことが事前に伝えられている。

「我が勇者育成学校ようこそ、ユキ姫」

 そしてカシス校長はユキたちを校長室へと連れて行く。


 校長室ということもあり、高そうな品々がいくつも置かれている。また、何かの記念のトロフィーも数多く置かれていることから、この学校がいかに多くの優秀な人材を育成していることが分かる。

「本日の視察内容ですが、大きく分けて2つあります。

1つ目は使用している機材に故障や不備が無いかの確認。

2つ目は本校の授業風景の確認するため、本日行われる課外授業への同行となっております」

(王様が言うように確認作業だけならお姫様抜きでも問題ない。課外授業も担当の人についていくだけだ)

 と思いながらユキが本日の視察内容について語っていく。

1つ目は機材による不備で生徒たちを傷つけないようにするため、2つ目は生徒に達成困難な要求をしていないかを確認するためである。

 いずれも生徒たちを守る上では欠かせないものであった。

「分かりました。課外授業までまだ時間があるので、機材の確認からお願いします」

 カシス校長は立ち上がり、様々な機材が置かれている倉庫へと案内した。


 倉庫には数多くの機材があったが、ユキが持ってきたリストに書かれているチェック項目に該当するようなものもなくスムーズに1つ目の視察が終わった。

「意外と早く終わりましたね。我が校の授業風景を見るのもどうです?」

(課外授業までには時間があるから、一度見るのもありか)

 ユキは念のためアンドレイに確認を取った後、

「それではよろしくお願いします」

 カシス校長の提案を受け入れ、授業風景をみることにした。

 教室がズラリと並んでおり、窓から見ると高校生くらいの子たちが黒板に書かれたことを一生懸命に自分のノートに書いている。別の教室では怪しげな薬品を混ぜて、何らかの液体を作っていた。

(大学みたいな形式の授業かと思っていたけど、どちらかというと高校みたいだ)

 ユキがそう思っているうちに授業が終わったことを告げるチャイムが鳴り響く。

「それでは課外授業の時間になりましたので、失礼ですが課外授業に関しては担当の者に代わらせていただきます。

なお、担当の者には本当のことは伝えていないのでよろしくお願います」

 ユキたちに集合場所を告げるとカシス校長は去っていた。


 ユキたちは集合場所である勇者育成学校の近くにある小高い丘に来た。

 課外授業では生徒たちが、学外の近くにある洞窟(ダンジョン)に行き、一定数のモンスターを倒した後、ダンジョンの外へ戻ってくるものである。

そのダンジョンには低級のモンスターが数多く生息しており、時々ではあるが中級のモンスターがでることもある。また、ダンジョンは生息しているモンスターによって掘られたものであるため、年月が経つとダンジョンの構造が変わっていくため、正確な地図は存在しない。


「それでは課外授業を始めます」

 課外授業担当のアイル先生は点呼により、生徒たちがそろっていることを確認した後、課外授業を始めた。

 3人1組がダンジョンに入り(道具の持ち込みはできる)、指定された低級モンスター20体を倒すというものである。

 特に大きな問題点はないことを確認したユキとアンドレイはアイル先生とともに最後尾からダンジョンへと入っていた。

 ダンジョンの中は足場が濡れており、手に持っているランプがなければ目の前が見えないほど暗い。

 ユキたちは大きな異常がないことを確認してから地下2階へと進んだ。

(今のところ大きな問題はないから、無事に終わるのでは?)

 とユキが思っていると「うわ~!!」という悲鳴が聞こえた。その声を聞いた三人は声がした方へと駆けだした。


 3人の生徒を襲っているのはゴーレムと呼ばれる石でできた巨人だ。このダンジョンで数少ない中級モンスターでもあり、打撃による攻撃はほとんど意味をなさない。

 襲われている男子生徒3人を見たアイル先生は

「私の生徒には手出しさせませんよ!ストームトルネード!!」

 竜巻を発生させ、ゴーレムを竜巻に閉じ込めあっという間に風化させる。

「ゴーレム相手に手出しできないとはどういうことですか!あなたたちは減点です」

 3人は助かったことにホッとしていたが、アイル先生の言葉を聞くと表情を青ざめていた。

(ゴーレムは宝物を守る番人として作られていることが多いから、道中で出会うことは少ないはず……)

「何か変なことはしていないか?」

「いいえ、お…俺たちは何もしていません!」

 ユキの言葉に答えると、3人はそそくさと去っていた。まるでアイル先生たちから逃げ出すかのように。


 ダンジョンの奥へと進むと、さらに地下へと進む階段があった。

「地下3階まで来ている生徒はいないので、引き返しましょう」

「どうしてでしょうか?」

「ダンジョン探索は地下2階までと決まっているからです」

 ユキの問いに答えるアイル先生。

「間違って3階を探索している人がいたらどうするのでしょうか?」

「それは彼らの自己責任です」

(アイル先生の言うことも分かるけど……)

 ユキは持っているリストに罰をつけるからで悩んでいた。

 基本的なダンジョンは地下へ行けばいくほど、強力なモンスターと遭遇しやすい。そのため深くまで潜っている生徒を探し出そうとしたら、教員も危険にさらされてしまう。

(こればかりは仕方が無いことなのかな?)

 アンドレイにも聞いたが、ある程度は仕方が無いという返答であった。

 そのため、地下3階のことについては減点対象にしなかった。

 そしてユキたちは最初の集合場所である丘の上に戻り、迷子になっている生徒がいないことを確認した。あとは学校へと戻るだけであった。

『あった』すなわち過去形になっているのは、丘から降りようとしたときに1体のドラゴンと対峙することになったからだ。

「グォォォオオオン!!」

 緋色の鱗を持つドラゴンの咆哮が生徒たちを怯えさせる。

「アイル先生、ここは私たちに任せてください」

「分かりました、マリア姫のご武運を」

 ユキの言葉を聞いて、アイル先生と生徒たちはドラゴンから逃げて行った。

(アイル先生の中ではマリア>>アンドレイ>アイルなんだろうけど、本当はアンドレイ>アイル>>僕なんだ……

でも、ここで引いたら生徒を襲うかもしれない)

 ユキたちは少しでも犠牲者を減らすため、ドラゴンと戦うことになった。

『任せろフラグ』(死亡フラグ)を建てたユキ(とアンドレイ)は

マリア抜きで龍に挑むことになってしまった。

この世界におけるドラゴンの設定は次回に。

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