第1話 僕がお姫様!?
祐樹はゆっくりと目を開ける。
祐樹が見た光景は天井におおきなシャンデリアがあり、おそらく豪華な部屋だということだけは分かった。
「ここはいったい……!?」
祐樹は一度状況を整理しようと声をあげてみた。声に出すことで頭の中が整理されることがあるからだ。
しかし、その声は祐樹がいつも聞きなれた声ではなかった。そうまるで女の子のような声だ。
(普段自分が聞いてる声と他人が聞く声は少し違うとどこかのTV番組でやっていた。実際に自分の声を録音をして聞くと少し違う印象を受けるのは、自分の声は頭蓋骨越しで、ほかの人は空気を通して聞くからだ)
そう考えることで祐樹は現実から逃げていた。いや目を背けていた。
自分の身体がいつもと違う、すなわちその身体が胸がしっかり膨らんでいることから女性であることも。
ドアが開かれるような音がしたので、音がした方向に振り向くとメイド服をきた30代くらいの女性が来た。
「お目覚めになったようですね。もう一人のお姫様」
(…………えっ???)
祐樹の頭には?マークがたくさんついていた。
そして祐樹はメイド服の女性に無理やりドレスに着せ替えられ、寝室らしき部屋から出ていくことになった。
着せ替えの際に顔が真っ赤になっていたのは秘密だ。
-王宮-
祐樹はメイド服の女性の後ろに連れて行かれる道中で明らかに高級そうな花瓶などが置かれている廊下を見ていた。そしてときどきすれ違う鎧を着た男性。
(ここは何かのテーマーパークか?いや、それだと女性の姿になっている説明がつかない。とにかく、今すぐ殺されるようなことはないようだから、できるだけ情報を集めないと……)
祐樹は長い廊下を歩いているうちに冷静な思考を取り戻していた。
「この部屋の中には王様とお姫様がいます。失礼が無いようにお願いします」
「分かりました」
祐樹はメイドさんに対し短く答える。
そしてドアを開けると王冠をかぶったいかにも王様という感じの男性とドレスを着た長い金髪でスタイルのいいお姫様がいた。
「もう出てもかまわんぞ」
「かしこまりました」
一礼をした後、部屋を退出するメイドさん。
「うむ。今、そなたがどのようなじょ……」
王様が話そうとしたとき、お姫様が祐樹に近づく。そしてじっくりと祐樹の身体を見る。
(僕、何か悪いことをした?)
祐樹は自分の言動を振り返るが、大きなミスが見つからない。そしてお姫様が祐樹の肩に手を置き、衝撃の一言を放つ。
「さすがは私の身体にそっくりだ」
(……そういえば、あのメイドさんも『もう一人のお姫様』と言っていった……!?)
あの時は状況を飲み込めていなかったせいで、理解できていなかった祐樹。そしてお姫様が手鏡を魅せるとお姫様と瓜二つの顔が映っていた。
「えっー!?」
祐樹は思わず叫んでしまった。
祐樹が落ち着いたところで王様が状況を説明する。
魔王の攻撃によって2つの身体に分裂したお姫様。一人は本物(自称)のお姫様で、残されたもう一人がどのような人物なのかを確認するために生かしていたらしい。万が一、自称本物のお姫様が偽物だったら大変だからだ。
そして祐樹は別の世界の住人としての意識があることを伝える。
「地球、日本。そのような名称は聞いたことがない」
(王様が知らないと言うのであれば、存在しない可能性が非常に高いか。やはり、ここは別の世界。すなわち異世界か)
どのようなことに陥っても思考はクールにというのが教授の口癖だったらしく、祐樹はその教えを忠実に守っていた。
王様によるとここはセウロパ王国と呼ばれ、緑豊かな地だそうだ。そして、この城がカステル城と言う。王様の名前はアルベルト・ミュートン、お姫様の名前はマリア・ミュートンである。
「お主には元の世界へ戻れる方法が見つかるまでは、ここで暮らすがよい。きっと親御も心配しているだろう。早めに探すことを約束しよう」
王様の提案に驚く祐樹。すぐ外に追い返されるのではないかと考えていたからだ。
しかし、その表情はすぐに暗くなった。
「僕には両親がいないから、そのような気遣いは大丈夫です」
「うん? 親戚くらいはいるだろう」
お姫様の問いに対して祐樹は自分のことを話す。
「僕の両親は数年前に飛行機、空を飛ぶ船による事故で亡くなって、僕がその事故の唯一の生存者です。
両親は駆け落ちに近いような行為をしたせいか、親戚からは仲が悪くって、お金しかもらえなくって……」
祐樹の言葉を聞いた王様は少し考えた後、
「お主、私のもう一人の娘にならんか?」
まさかの提案に驚く祐樹。果たして彼(今は彼女だが)の決断は……
彼が下した決断。そして王様の真意は次回に。