第11話 現実世界
祐樹はゆっくりと目をあける。
祐樹が辺りを見回すと、ベッドがいくつかあり、看護師らが病人の世話をしている光景が見られたため自分が病院にることが分かった。そして自分の身体を触り、男の身体に戻っていることを確認する。
(未来と思われる世界……Cの世界から戻ってきたのか)
祐樹はあれは夢だったのではないかと思い始める。だが、初めての戦闘やドラゴンとの戦いはまるで本当にあったかのように感じた。あれがすべて夢だとは思えない。
祐樹が目を覚ましたことに気づいた看護師が、担当医に慌てて連絡する。
担当医からの話によれば、祐樹が眠っていたのはたった1日の出来事だったらしい。なお、祐樹が倒れた理由はCT等をとってもわからず、過労やストレスによるものだろうと診断された。
祐樹は昼過ぎに病院から退院することができ、自宅へと帰っていた。祐樹の家はそこそこ広く、駅からも近いという好物件である。祐樹はドアを開けた瞬間、誰もいないはずの家から物音が聞こえた。祐樹は自分が不在の間にドロボウが入ったのではないかと思い、110番をかけようと携帯電話を取り出しているうちに、ドタバタという足音が聞こえてくる。その足音の主を見てみると未来の世界にいるはずのマリアだった。
「マリア……!?」
祐樹は思いもしない出会いに思わずマリアの名前を言ってしまう。
「私をなぜ知っている!? お前は誰だ?」
男の姿を見せたことが無かったことを思い出した祐樹は今の状況を簡潔に伝えることにした。
「この姿では初めましてかな。僕は武藤祐樹。向こうの世界ではユキと呼ばれていたよ」
「ユキ……」
マリアは小さくつぶやき、祐樹の姿をマジマジとみる。祐樹は短い黒髪で身長が170cm前後のどこにでもいる普通の男性だ。
「男より女の方がよかった!頼むから女に戻ってくれ!!」
マリアは祐樹の肩をつかみ、必死に懇願する。
「そんなことを言われても、困るから。とにかく家の中に入ってゆっくり話しましょう」
玄関先で話したら近所迷惑な上に、変な目で見られるかもしれないと祐樹は考えたからだ。そして祐樹とマリアは家の中に入り、祐樹はマリアを2階の自分の部屋に案内する。その後、祐樹は冷蔵庫にあったオレンジジュースを2つのコップに入れて、自分の部屋に運んだ。祐樹は自分の事情を話した後、疑問に思っていたことを聞く。
「どうしてマリアは僕の家にいるの?」
マリアがオレンジジュースを1口飲んだ後、事情を話す。
「私は気が付いたらこの家の中にいた。これからどうすべきかを考えていたらドアが開くような音がして、そこに向かうと見知らぬ男性がいたというわけだ」
マリアの事情が分かった祐樹はため息をつく。
(元の世界に戻ったら、今度はマリアをCの世界に戻さないといけないのか。どうやってCの世界に戻せばいいのかわからないのが問題だ。食・住はこの家で一緒に住めば解決するから、問題は衣か)
祐樹はこれからの方針を考える。マリアがいつものドレス姿で外出する際に目立ってしまうことから、服を買わないといけないと思った。
「しばらくの間、僕の家に住んでもらうけどいいかな?」
「ユキがいいのであれば、別にかまわん。今の私にはいくところがないからな」
あっさりOKをもらったことに一安心する祐樹。そして祐樹は近所に住む友達に電話をかけて今までの出来事を簡潔に話す。
数十分後、茶髪でショートヘアの女性とボサボサ頭の男性が祐樹の家にやってくる。
「言われた通り、私の服を持ってきたよ」
「おう、身体の方は大丈夫みたいだな」
「待っていたよ。詳しい話は家の中で話すよ」
祐樹は2人を自分の部屋に連れて行く。
「すごい綺麗な人。私の服で大丈夫かな?
あっ、自己紹介が遅れました。神崎彩、って言います」
「祐樹、こんな綺麗な彼女作りやがって……爆発しろ。
俺は田中健太。祐樹のとは昔からのダチでコンピューター関連の問題なら俺に任せてくれ」
「私はマリア・ミュートンと言う。この世界には王国が存在しないからため口で構わんぞ」
彩、健太、マリアは互いに自己紹介を行い、祐樹は今まで起こったことを最初から詳しく話すことにした。
「祐樹がお姫様ねぇ。いいなぁ、私もお姫様ライフを過ごしたかったよ」
「お姫様とイチャイチャしやがって。お前は爆発しろ!
未来の世界がファンタジーみたいになっているのか。
どういう理由かはわからねえけど、俺も魔法を使ってみたいぜ!」
二人ともドラゴンとの戦いなどはスルーしていた。確かに戦いが無ければ、ほのぼのとした生活だったのは間違いない。
「彩が持ってきた服に着替えてきたが、胸のところが苦しいな」
マリアは今では空き部屋となっている両親の部屋で彩が持ってきたワンピースに着替える。
「どうせ私は小さいですよ!」
「そうそう、彩は貧……グァバぁ!!」
健太の言葉を聞いた彩が健太の頭を思いっきりグーで殴る。健太は痛そうに頭を押さえていた。
「明日は大学が休みだから、下着も含めて買いましょう」
「お願いするぞ、彩」
そんな彩とマリアのやりとりを見て女の子同士の方が仲良くなれるんだと思う祐樹であった。健太は祐樹にこっそりと近づき小さな声であることを尋ねようとする。
「ところであのお姫様のスリーサ……すみません、許してください」
祐樹にマリアのことを聞こうとした健太だったが、彩とマリアの殺気がこもった視線に思わず土下座していた。健太たちと談笑した後、自宅に帰る時間になったので
「じゃあ、俺たちはそろそろ帰るから。また明日な」
「マリナちゃんを襲ったら駄目だよ」
と言って帰る彩と健太に対し、
「襲わないよ。というより襲ったら身の危険がある」
と祐樹は言い返す。二人は苦笑しながら、帰り道につく。
祐樹は台所に戻り、夕食の準備を始めた。ちなみに今日は冷蔵庫の余り物を使った野菜炒めだ。明日、食材も買わないといけないこともメモしておいた。祐樹特製の野菜炒めをマリアが食べた感想は
「私の世界の食べ物と味は似ているな。おかわり」
見た目はともかく味は同じというのは祐樹も同意見だったので、元気よくマリアがおかわりをする様子を見ながらご飯をよそった。その後、祐樹がテレビのニュースを付けると
「おお、小さな箱の中で人が動いている!これは一体どうなっているのだ?」
マリアはテレビを持ち上げて人が入れるスペースが無いことを確かめる。
(まだ推測とはいえ、未来の人間が過去のものに驚くっていうのも珍しいな)
と思う祐樹であった。
夕食が終わり片づけを終えた後、一度マリアを連れて祐樹は自分が倒れた場所に向かい、同時刻にマリアを自分が倒れた場所に立たせたが何事も起らなかった。祐樹はマリアを元に戻せる唯一のあてを失った後、自宅へと戻った。自宅に戻るとマリアは
「どうやらこの世界に長居をすることになりそうだな。ところで私は何処で寝ればいい?」
「さっき着替えていた部屋ならベッドもあるから、そこで寝たらいいよ」
マリアの質問に答える祐樹。マリアはおとなしく別室へと向かった。そんなマリアの様子を見て、
(マリアにしては態度がおとなしい。やっぱり別の世界に来たから不安なのか)
と祐樹は勝手に思った。祐樹は久しぶりに一人で寝ることになったが、どこかさびしさを感じながら眠りにつく。
主人公は元の世界に戻りましたが、今度はマリアを元の世界に戻さないといけなくなりました。
この話から主人公の名前はユキではなく祐樹になります。




