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~第1章~山ガール~

~第1章~山ガール~



私は、メグの作戦?なのか、ただの天然なのか、分からないけれど、結局、山登りに付き合わされる事になってしまった。

後日、メグからメールがあり、私はなんとかスケジュールを調整して、当日、待ち合わせの駅へ向かった。



木立から漏れる朝日を浴びながら、黒光りしたリムジンが曲がりくねった県道を走り抜けていく。


「健さん、ここでいいよ」


優華(京子)は後部座席から運転手に声を掛けた、車は減速しながら路肩に寄り停車した。

運転手の高倉は、ハザードランプを点滅させると身体を後ろへ向けた。


「まだ、駅まで少しありますけど、ここで、良いんですか?」

「仕方ないじゃない、こんな車で、駅前に乗り付けられないでしょ」

「やっぱり、俺の車で来れば良かったですね」

「嫌よ、また、職質受けるの」


高倉は首をかしげて納得いかない様子だった。


「でも、お嬢、俺の車、どうして職質されるんですかね」

「そんなの、分かりきっているじゃない、怪しいからに決まっているでしょ、うるせーし」

「怪しいって、NSXのどこが怪しいんですか、歴としたレーシングカーですよ」

「だったら、警察に聞けばいいでしょ、だいたい、あの車はうるさいのよ、だからじゃなの」


エンジン音が大きいのは、高倉も否めない様子だった。


「俺、お嬢にそう言われるから、マフラーを交換したんすよ」

「ふぅ~ん、そうなの、でも、うるせーのは変わらないんじゃない」

「そ、そんな、あのマフラー、結構、高かったんすよ」

「いくらしたの?」

「5万っす」

「なんだ、安いじゃん、それより、後ろの座席シート買えばいいじゃない」

「あのぉ~、後ろのシートは金がなくて買えない訳じゃないんですよ」

「だって、不便じゃん」

「別に、不便じゃないっすよ、俺しか乗らないんですから」

「たまに私が乗る時に困るのよ」

「助手席に座ればいいじゃないっすか」

「あれ、座り心地が悪いのよね」

「お嬢、そりゃ、この車に比べれば、どの車だって、座り心地は悪いっすよ」

「そんなもん」


優華は備え付けのコーヒーメーカーのボタンを押すと、車内にコーヒー豆の香ばしい香りが漂う。


「お嬢、それより、俺の車のマフラーいたずらされたんすよ」

「いたずらって?、なにされたの?」

「俺、運転してて、なんか、エンジンの噴きが悪いと思ってたんすよ」

「そ、それで」


優華は笑いを堪えるのに必至だった。


「そしたら、マフラーの中からバナナが出てきたんすよ、誰ですかね、そんな、いたずらするの」

「ぷっ」


優華は高倉のあまりに真剣な顔に、思わずコーヒーを吹き出してしまった。

高倉は犯人を確信した。


「お嬢、俺も、それ、もらっていいすか」


高倉は優華が手にしているコーヒーカップを指さした。


「はぁ~、ダメに決まってんじゃん、これは私専用なんだから」

「いいじゃないっすか、この辺、自販機もないんすよ」


優華はコーヒーメーカーのボタンを押した。

「しゃーねーな」

「どうも」

「500円」


優華は手のひらを出した。


「えっ、金取るんですか!」

「そうよ、当たり前でしょ」

「マジっすか」

「早く出しなさいよ」


高倉は渋々財布から500円玉を取り出して、優華の手のひらに置いた。


「まいどー!、はい、コーヒー」

「ケチ」

「健さん、今、私になって言った?」

「あー旨そうなコーヒーだ!」

「そうでしょ、私直々に煎れたんだから、本当は500円じゃ安すぎる位なんだから」

「はい、はい、どうもありがとうございます」

「健さん、それで、お弁当は、どこにあるの?」

「あっ、弁当っすか」


高倉は助手席から風呂敷に包まれた重箱らしきものを取り上げた。


「でかっ、本当にそれなの!二人分だよ」

「そうなんすか、朝、三田さんから、渡されたんで、まぁ、確かに、二人分にしては多いっすね」

「この、リュックに入るかな?」

「それっすか」


高倉は車から降りると、風呂敷包みを持って後ろのドアを開け、後部座席に座った。


「ちょっと、入れてみますか」


優華が差し出したリュックに高倉は風呂敷包みを器用な手つきで入れ込むと、リュックはお弁当ではち切れそうになっている。


「でも、朝、三田さんが苦労してましたよ、お弁当にフライドポテトって、冷えたら美味しくないから、どうしたら良いかって、お嬢って、フライドポテトなんて食べましたっけ」

「私は食べないわよ、メグがポテトポテトってうるさいから、三田さんに頼んだの」

「お嬢のお友達、そんなに、フライドポテトが好きなんですか?」

「そうなのよ、メグはポテトを食べている時は、ニコニコしているのよ」

「そうなんですか」


高倉が腕時計を見みると、待ち合わせ時間の30分前だった。


「俺が荷物を持つんで、駅まで一緒に歩いて行きましょうよ」

「そうね、そうしてもらえると助かる」


二人は緑が生い茂る小道を歩いて、待ち合わせの駅へ向かった。


高倉が頭上の生い茂る木立を見上げる。


「懐かしいっすね、ここ、お嬢が高校生の時に来ましたよね」

「健さん、私に嫌な事を思い出させないでよね」


優華は立ち止まると、振り返りざまに高倉を睨み付けた。


「あっ、すみません、でも、もう、あれって、解決したんじゃないの」

「そんな訳ないでしょ、解決なんてしてないわよ、健さん、あの事件が、そんな簡単に許せると事だと思う」

「そうっすかね~だって、あれっしょ、お嬢の、その、初めての」



「なによ、その言い方は!まるで、私の器が小さいみたいな言い方よね、私はねぇ、あの時、心に大きな傷を負ったのよ、わかる?その傷はそう簡単に消えないのよっ!」


腕を組んで、さらに、高倉を鋭い目で睨み付けている、その、凄んだ姿に高倉は困惑している。


「い、いや、そういう、つもりじゃ」

「健さんには、私の負った心の傷がどれだけ大きいか、分かってないのよ」

「いやいや、分かりますよ、それは、よ~く、分かります」

「ふんっ、あんたなんかにねぇ、分かってもらえなくても結構よ、ふんっ、いいわよ!、どうせ、私が悪いんでしょ!、私がっ!健さん、もう、帰っていいわよ」


高倉が持っていた荷物をひったくり、リュックを肩に掛けようとしていた。


「お嬢、すみません、そんなに、怒らないで下さいよ、今日は楽しい、山登りじゃないっすか」


高倉は背負ったリュックをゆっくり肩から外した。


「言葉には、気をつけなさいよ」

「はいっ!」


木々の木立が爽やかな音を立てながら、風が吹き抜けていく。


「健さん、でも、偶然、この山なんてね、ホント不思議よね」

「そうっすね、お嬢のお友達がこの山を選んだですよね、山なんて、他にもいっぱいあるのに、なんで、ここにしたんでしょうね」

「ただの偶然ならいいけど、なんか、私、嫌な予感がするのよ」

「そうですか、お嬢の予感は当たりますからね」


優華は立ち止まり振り返りざまに言った。


「そうなのよ、私の予感は当たるから、困るのよね~」

「でも、大丈夫っすよ、そんな、あるわけないっすよ」

「当たり前でしょ、そんな訳ないわよ」


道の先に駅舎が見えてきた所で、高倉は立ち止まった。


「それじゃ、俺、この辺で」

「なんで、もうちょっとじゃない」

「いや、お嬢のお友達に俺と一緒にいる所を見られると、ややこしい事になるんで」

「ややこしい?、って、別にそんな、変な関係じゃないでしょ」

「端からみたら、そう思われるんですよ」

「そんなねー、見られる訳ないでしょ、 なに言ってるのよ、第一、あんたとなんてね・・・」


優華は顔を真っ赤にして怒っている。


「お嬢、それは、分かってますから、俺、一応、近くで待ってますよ、何かあったら、連絡ください、すぐに迎えにいきますから、はい、リュック」


高倉は持っていたリュックを背負わせると、足早に車の方へ戻っていった。


「ちょ、ちょっと、話を最後まで、聞きなさいよ、ったく」


待ち合わせ場所の駅は、登山口に近いと言う事もあり、平日だというのに登山に向かう人達でごったがえしていた。


「はぁ、山ガールか、誰がそんな言葉を作ったんだ、バカな奴らが多い事、まったく、山を甘く見ると怪我するよ」


流行の派手な山ガールスタイルで着飾った、今風の若い子達が談笑しながら目の前を通り過ぎていった。


「ほら、そこ!あんた達だよ、そんな格好で、ヘラヘラして、まったく」


10年前に同じ様な格好で、この山に来た自分を思い出し、余計に腹が立っていた。


「なんなの、あの派手な格好は、恥ずかしくないの、大体ね、あういう、ケツの青い奴らは、崖から落ちて怪我をすればいいのよ、その点、私はバッチリ、この装備、山登りに適したこの服装、万全よ!」


独り、ガッツポーズをしながら、自分の服装を確認するように眺めていくと、そのあまりにも完璧なその姿に、再び、独り言がこぼれる。


「べ、別に、私は誰かに見られる為に着ている訳じゃないし、見て欲しくないし、ましてや、私に声を掛けてくるような男には、マジで、ぶっ飛ばす、大体ね、男なんていうのはね、くっそ、むかつく」


ひとりで熱くなっている自分に気がつき、ため息をついた。


「はぁ」


腕時計を見ると、待ち合わせの時間を過ぎていた。


「それにしても、メグ、遅いな、さまか、寝てるじゃないだろうな?」


優華が腕時計から視線を上げると、コロコロした見覚えのある女の子が、派手な服装に身を包んで、自分の方へ小走りに向かってくる。

「メグ?あれ、転がった方が早くない」


当然、その言葉はメグには届いてない。

優華の元に到着したメグは、しばらく両手を膝に当てたまま、肩で息をしている。


「ふぅ~、ふぅ~、きょ、京子たん、おはよぅ、ま、待った、はぁ~、電車に乗り遅れちゃって、ギリ、間に合ったかな」

「メグちゃん、おはよう、今、来たところよ、それより、その格好、どうしたの?」

「はぁ、何が~、どこか、変かな?」


メグはキョロキョロと自分の姿を見て、特に可笑しな所が無いことを確認して、非の打ち所が無い自分の山ガールファッションに自ら関心している様子で、何度も頷いている。


「これ、可愛いでしょ」

「えっ、派手じゃない?(目がチカチカする)」


メグはショートパンツにピンク色のタイツ、さらに、ピンクの上着を羽織っていた。


「派手?なーに、言ってんのよ、これが、今、流行の山ガールファッションなのよ」

「パー子ファッション?」

「ちょ、ちょっと、今、パー子って言ったでしょ!いくら京子たんでもそれは許せない!ってか、京子たん、こそ、何、その、ダッサい格好さぁ、越谷でもそんなの着ている人いないよ」


メグは反撃に出た。


「ちょっと、ダッサいとか言わないでよ、これ、すごく動き易いのよ、それに、山は何かと汚れるから、ほら、地面に座ったり、そこら中が泥だらけなんだから、汚れが目立たない服が良いのよ」


メグは京子の奇抜?なファッションを目を細めて見ている。


「それ、中学のやつ?」

「なにが?中学のやつって」

「その、ジャージ」


京子はハッとして自分の姿を見た。


「ち、ち、ち、違うわよ、そんなの、着てこないわよ、それに、私、どんだけ物持ちがいいのよ、そんな、中学のジャージなんてとっくに捨てたわ、失礼な」


メグが冷め切った目で、その姿を見ている。


「とにかく、それ、やばくない?」

「だから、私のなんの、どこが、ヤバイのよ、山の中は、蚊に刺されたりするんだから、長袖に長ズボンって相場が決まっているのよ、それにね、動きやすい!っていうのが、一番なのよ、わかる、そんな、ピンク色なんて着ていると、変な虫がいっぱい寄ってくるんだから」


京子の力説もメグには通じてない。


「京子たん、それじゃ、男が寄ってこないよ(あっ、てるみんだ)」


京子が熱く語っているのをよそにメグは話を全く聞いていないどころか、メグが「てるみん」と呼ぶ人の元へ転がってでなく走って行っていまっていた。

しかし、京子は男について熱くなり過ぎているのか、メグが居なくなった事に、気がついていないのか熱く語り続けている。


「いいのよ、男なんていうのはね、バカなのよ、それで、超エロスで、変態で、毎日、エロスの事しか考えてないんだからね!そんながね、私の所に寄って来たらね~、まず、こうして、ぶっ飛ばしてね、倒れた所を、足でこうして、パンパンパンって踏みつけてね、それからね、こうやって、あやってね・・・・・・・・」


京子のワンマンショーはまだ続いている。

メグは「てるみん」の元へ到着した。


「メグちゃん、おはよー」


メグとは対照的に、細身にロックテイストな感じロングTシャツ、スラッと細く伸びた脚にスリムなGパン穿きこなしている「てるみん」がメグに手を振っている。


「おはよー、てるみん」

「あっ、メグちゃん、その服、可愛いじゃん、似合ってるね~」

「でしょ、でしょ、でもさぁ~、今、あそこで、ひとりで地面を踏みつけている人がね、パー子とか言うんだよ、ヒドイでしょ」


メグはまだ一人で地面を踏みつけている京子を指さした。


「うん、ヒドイね、それは、思っていても言っちゃいけないよね」


メグはそう思っているのは京子だけではない事を薄々知ってしまった。


「そんで、メグちゃん、あの子、誰?(ダッサい格好してるね~)もしかして、知り合いなの?」

「あー、京子たんって言うの」

「京子たん?って誰?メグちゃんの友達なの?」

「うん、ぼっきゅんにポテトくれた人なの」

「めぐちゃんは、ポテト貰ったら友達なの?」


時より意味不明な発言があるメグだったが、さすがに今回の発言は理解に苦しんだ。


「うん、だって、新発売だったんだよ、それを、ぼっきゅんにくれたの」

「メグちゃん、私には意味が分からないけど、そんで、あの子、まだ、地面を踏みつけているけど、何をしているの」

「男に声を掛けられたら、こうしてやるとか言ってた」

「それで、地面を踏みつけてるの?」

「ぶん殴ってからだって」


てるみんは自分の頭を指さしながら言った。


「メグちゃん、あの子、ここ、大丈夫?」

「わかんない、でも、この間、病院に電話してた」

「やっぱり、あの子、ここがおかしいんだ」


京子は地面を踏みつけて熱が冷めたのか、メグが居なくなっているのに、ようやく気がついて、メグの元へ駆け寄った。


「ちょ、ちょっと、メグ、急に居なくならないでよ、なんか、ひとりでしゃべっているみたいに、なちゃったじゃない、超はずいじゃん」

「はん、だって、てるみんが来たから」

「てるみん?」


メグの横に立っている、自分よりスタイルの良い女性が「てるみん」だという事はすぐにわかった。


「あっ、あの、はじめまして、姫野照美と言います」


照美は軽く会釈した。

京子は初対面の照美に少し緊張気味に挨拶した。


「は、はい、あ、あさか、朝香京子です」


お互いに挨拶している、その間に割って入るようにメグが現れた。


「ほーぃ、ぼっきゅん、メグちゃん」


京子はふと思った。


「そういえば、メグって、名字なんていうの?いつも、メグ、って呼んでだけど」


京子の質問に急にメグのテンションが下がった。


「ドキッ」


動揺しているメグの様子を見ながら、照美が意味深な言い方で言った。

その横ではメグが意味不明な雄叫びをあげている。


「ねぇ、朝香さん、メグの名前、知りたい?」

「あー、あー、聞こえない、聞こえない、あー」

「名前?だって、名前は、めぐみとかじゃないの?それより、メグ、どうしたの?うるさいよ」

「ぼっきゅんは、メグでいいの!」

「朝香さん、教えてあげるよ(コソコソ)」


照美が京子を招き寄せると耳元で囁いている、その横でメグが顔を真っ赤にして俯いている。

京子は予想しなかった答えに、思わず噴き出してしまった。


「ぷっ、本当はタマちゃんなんだ」

「そうなのよ」

「もう、てるみん、嫌い」


メグは赤くなったほっぺを膨らませている。


「だって、ぷっ、でも、分かる、分かる、私も、じゃなくて、仕方ないよね、名前だから、でも、気持ちは分かるよ、はい、これあげるよ」


京子は笑いを堪えながら、メグに持っていたガムを渡すと、メグは素直を受け取った。


「あんがと、じゃ、ないよ、あーん、てるみんが余計な事を教えるから~」


メグは短い手足をばたつかせて、照美の抗議の姿勢を見せた。


「珠枝ちゃんっていい名前じゃん、ね、恵さん」

「めぐみたまえ、だもんね」

「もぉ~、だからって、食べ物をくれなくてもいいからねっ!」


再び、メグは赤いほっぺを膨らませている。


「メグ、フグみたいよ」

「はっははっ、ホント、フグだ!」

「もぉ~ぼっきゅんをいじめてなにが楽しいんだよぉ~!(もう、ヤケ食いだ!)」


京子はこんなに笑ったのは久しぶりのような気がした。


「ねぇ、もう、そろそろ、行こうか」


照美が二人に言った。


「そうだね」

「はん(モグモグ」


駅前を離れ登山道へ行く参道の緩い坂を二人で登っていった。

一人足りない?そう、メグは既にスローダウンして、前を行く照美と京子を必至に追いかけている。

今日会ったばかりの二人は、お互い会話を探しながら、無言のまま歩いていたが、照美が京子に話かけた。


「ねぇ、朝香さん」

「あ、あっ、なに」

「メグちゃんとはどこで知り合ったの?」

「まぁ~、どこでと言われれば、コンビニかな?」

「コンビニ?」

「そう、コンビニ」

「コンビニでどうして、メグちゃんと?」

「まぁ、説明すると長くなるけど、コンビニでフライドポテトを買ったの・・・最後の1個で・・・って訳」


京子がメグと知り合った経緯を話すと、照美は相づちをうちながらも笑いを堪えていた。


「ちょっと、朝香さん、それって、マジで、ふふっ、フライドポテトのお礼が蒙古タンメンって、メグちゃんの大好物らしいからね、ふふっ、フライドポテトを貰ったのが、そんなに嬉しかったのかな、それは、笑えるわ、ホント、メグちゃんらしい」


照美は後ろを振り返ると、坂道を必至に登っているメグに手招きをした。


「メグちゃん、なにしてんの、置いていくよ~」


メグはその問いに答える気力を使い果たしているようだった。


「めぐちゃん、もう、バテてるよ、運動不足だね、ありゃ」

「でも、帰りは、早いかもね」


京子がそう言うと、二人の息がピッタリあった。


「転がれば」

「転がれば」

「ねっ!はははっ!」


京子は照美とは、今日初めて逢ったというか、まだ、何時間の付き合いなのに、もう、何年も付き合っている友達同士のように思えてきた。

あまり、初対面の人とは、緊張して本音を話せない性格の私が、素直に本音で話しをしているが不思議だった。


「でも、あの子は素直でいい子でしょ」

「うん、そうだよね、本当、素直だよね、そういえば、姫野さんとメグちゃんって付き合い長いの?」

「メグちゃん?、あの子は、私がやっている工場のエンジニアなのよ、あー見えて手先が器用なの」

「へぇー、意外だね」


笑顔だった照美の表情が急に曇った。


「でも、朝香フィナンシャルが親会社を買収するみたいなんだ・・・買収されたら、うちみたいな小さな工場なんてさ、やっぱり、潰されちゃうのかな・・・私はいいけど、メグとか他の従業員はかわいそうだよ、一生懸命やっているのにさ」


照美はため息をついた。


「そう、なんだ・・・」


京子も表情を硬くし、二人の間に重い空気が流れた。


「ごめん、ごめん、愚痴ちゃって、朝香さんには関係ない話だもんね」


しかし、京子の表情が冴えないのに、照美が気いた。


「うんん、気にしないで」

「ゴメンね、楽しい山登りの時に、なんか暗い話しちゃって」

「ううん、気にしないで、謝るのは、こっちの方だから」

「なんで、朝香さんが謝るの?」


照美は京子の発言が理解出来なかった、朝香フィナンシャルと隣にいる朝香京子が関係があるとは思えなかった、なにしろ、学校の3本線が入ったジャージ上下に林間学校に行くようなリュックを背負っているのが、日本のみならず世界を席巻する朝香フィナンシャルの一人娘だと普通は思わない。


「あのさぁ、その親会社って、なんていう会社なの」

「なんていう会社って、玉淀製薬だけど・・・知らないでしょ」


照美の言葉に京子の表情が急に明るくなった、照美はその変わりように驚きというより、脅威を感じた。


「なんだ、玉淀製薬かぁ、それなら安心していいよ」

「なんか、よく分からないけど、そう言ってもらえるだけでも、嬉しいよ」

「本当だって、詳しくは説明出来ないけど、姫野さんの工場は大丈夫だから安心してよ」

「そう、ありがとう」


照美は京子が言っている事は俄には信じがたい事だけど、そうなって欲しいと心の中で願っていた、ただ、京子の言葉にやけに自信があり説得力があるようにも思えた。

「朝香さんは何してるの?」

「私?まぁ、一応、医者かな」

「えっ、医者ってあの病気を治す、医者の事?」

「そうだけど」

「その、人間の病気を治す?」

「まぁ、私はあまり症例を持ってないけど・・」

「えっ、マジで、お医者さんなの!すごーい、なんで、医者なのに、そんな格好してんの?」

「あのさぁ~医者だからって、山に来るのに、白衣着てこないでしょ」

「そりゃ、そうだけど、じゃなくて、まぁ、いいや、私、医者と知り合いになちゃった、それじゃ、これからは、朝香先生って呼ばないと」

「姫野さん、それは、ちょっと」


京子が話す間もなく照美は後ろを振り返って手招きしている、その予想以上の反応に、京子はやっぱり言わなければ良かったと思った。


「ねぇー、めぐちゃん!こっちこっち、朝香さんってお医者さんだったの知ってたの~!」


照美の声は10m位後方にいるメグに届いているようだが、息を切らせ必至の追いつこうとしているメグには、言葉を理解する余裕はないようだ、それより、他の登山客が一斉に声のする方を注目し始め、その視線が自分の方に向けられている事が分かる。


「はぁ、はぁ~、なに、てるみん、ちょっと、歩くの速いよ~」


メグはおそらくそう言っていると思うが、声は聞こえてこない、照美はさらに手招きしてメグを追い込んでいく。


「だから、早く、こっちに来てよ」

「あの、姫野さん、あまり、大きい声で、言わないでよ、恥ずかしいから」

「恥ずかしいだなんて、だって、お医者さんなんでしょ、いいじゃん」


照美に追い込まれたメグは、最後の力?を振り絞り、二人が待つ場所で辿り着いたが、その途端へたり込んでしまった。


「ねぇ、ねぇ、メグちゃん、知ってたの」

「は~ん」


メグは朦朧としながら、ペットボトルの水を飲んでいる。


「朝香さんが、お医者さんって、知ってたの?」

「朝香さんって、誰?」


照美が京子を指さして言った、


「京子さんよ、メグちゃん、しっかりして!」


「あー、京子たん、いつも、ぼっきゅんに、ポテトをくれるいい人だけど」

「めぐちゃん、だから、京子たん、じゃなくて、朝香先生って呼ばないと、ねぇ、先生」

「あー、京子たんって、学校の先生だったの、ふーん、だから、学校のジャージを着てるんだ」

「違うわよ、学校のジャージ着ているけど、お医者さんなの医者の先生なの!」

「ほーん、京子たん、お医者さんなの、ふーん」

「だから、京子たん、じゃなくて!」


二人の会話を聞いていた京子は、たまらず二人の間に割って入った。


「姫野さん、あの、私、先生とか言われるの、嫌なんだ、それと、これ学校のジャージじゃないし、まぁ、それは、後でじっくり話すとして、だから、京子たんでも全然構わないし、それと、朝香さんっていうのも固い感じするから、京子って呼んでもらっていいから」


照美は京子の話を聞いてさらに、感心したような素振りを見せている。


「いや~、やっぱり、本当に偉い先生は、違うな~、そんな謙遜しなくても」

「ほんと、先生だけは止めて、私、本当に嫌なのよ、職業を言うとみんなそう言うから、あまり、言いたくなかったんだけど、嘘をつくのが嫌だったから、だから、ほんと、京子でいいから、それと、これ学校のジャージじゃないって言ってるでしょ」


京子はどさくさに紛れてちょいちょい、自分の格好をいじってくるのが気になっていた。


「そりゃ、先生、あっ、京子がそう言うなら、まぁ、そんじゃ、私も照美って呼んでください」

「いいわよ、照美」


メグは座り込んだまま、ペットボトルの水を飲み干している。


「(グビ、グビ)ふぅ~、生き返った」

「メグちゃん、それじゃ、行きましょうか」


照美がメグに手を差し伸べた。


「どこに?ここ頂上じゃないの?だって、かなり、登ったよ」


メグの言葉に、京子を照美は顔を見合わせ、同時にツッコミを入れた。


「まだ、入り口だって!」

「まだ、入り口だって!」


二人の息の合ったツッコミと同時に、メグの悲痛な叫び声がこだました。


「もうダメ~、足が痛いよぉ~」


メグの様子を見て、京子と照美は顔を見合わせた。


「京子さん、どうしよう?メグちゃん、本当に限界みたいよ、山頂までケーブルカーで行く?」


照美は山頂行きケーブルカー乗り場を指さし、メグは京子の足元に猫のように寄り添って京子の賛同を求めている。


「賛成、賛成っ!ねっ、ねっ、そうしようね、そうしようね」


「でも、それじゃ、登山にならないよ」

「そんなぁ~京子たぁ~ん、友達でしょ~、それにお腹が空いたし~」


京子の足元にメグがまとわりついている。


「第一に、メグが山に行こうって、誘ったんじゃん、コラッ!メグ、お尻を触るな!」

「京子さん、この状態じゃ、無理だよ」


照美は、メグの様子を見てこれ以上は無理だと判断した、メグは欲しいおもちゃが買って貰えない子どもの様に地面をゴロゴロと転がっている。


「そう、そう、もう、ダメで~す(だら~ん)」


京子もそのメグの姿を見て、無理に山登りさせて、心筋梗塞になられても困ると、ドクターストップ?を決断した。

「しゃーない、ケーブルカーに乗って行くか」

「わーい\(^O^)/」


3人はケーブルカー乗り場へ向かって歩き出した。


途中で普通に登山を楽しんでいるような男性とすれ違った、しかし、その男性は京子達の姿を見ると、急に立ち止まり、少し驚いたような表情を見せた。

その後、京子達の後をつけるように歩き出した。

しかし、その時3人はその男性はただ偶然に同じ方向に歩いているだけだと思っていた。


「ねぇ、さっきすれ違ったあの男の人、さっきから、ずっと、こっちを見てない?」


照美が口火を切った、京子はその問いに頷くだけだった。

隣のメグはポテトを食べるのに夢中だが、さずがに気がついていたようだった。


「うん、そうだよね、あの人、結構イケメンじゃない、ねぇ、ぼっきゅんとてるみん、どっち狙いかな?」


ケーブルカー乗り場で順番を待っている京子達の姿を、その男性はまだ凝視している。

「メグちゃん、それは、私に決まっているけど、でも、なんか、ちょっと、気持ち悪いよね」


京子は何も言わずただ頷いた。


「てるみんは、だって、おばさんじゃん、やっぱ、この中で一番若いのは、ぼっきゅんだよ(モグモグ)」

「メグちゃん、今、私になって言ったのかな?」

「本当の事を言っただけ、だけど、京子たん、知ってる、てるみんって、意外と歳とってるんだよ」


照美とメグはお互いに睨み合い火花を散らしている。間に挟まれた京子は何か別の事を考えている様子だった。

メグはポテトの塩が付いた指を、ぺろりと舐めながら京子の顔をみた。


「京子たん、知りたい?」


さっきの名前のお返しとばかり、メグは得意げになっている。


「別に・・・いいけど・・照美、若そうに見えるけどね」


メグは言いたくて仕方が無い様子で、京子の耳元に顔を近づけたが、背後に忍び寄る影には気がついていなかった。


「見た目はね、でもね、実は、ムグムグムムっ」


後ろから照美にメグの口を押さえ込まれ、メグは目を白黒させて短い手足をばらつかせてもがいている。


「*%$#%&」

「この裏切り者、私に歳の事は言うんじゃないよ」

「#$%&*」


メグが必至に照美の手を口から離そうとしているが、力では照美の方が勝っていた。


「たぶん、私じゃない」


呟くように京子が言うと、その言葉を聞いた照美とメグは呆気にとられ、照美は思わずメグの口から手を離してしまった。

そして、照美とメグが口を合わせて言った。


「それはない」

「それはない~(モグ)」


照美とメグは再び顔を見合わせ頷き合い、京子の顔を見ながらお互いに心の中で呟いた。


(確かに、よく見ると可愛いけど・・・でも、その学校ジャージの子をナンパするかぁ~)

(モグ、モグ、モグ、やっぱり、ぼっきゅんだよ)


京子は嫌な予感がしていた、あり得ないと思いながらも、10年前のあいつだとしたら・・・そう思うとその男の顔が気になった。

京子はその男性の方に顔を向けると目が合ってしまった、すぐに視線を逸らせたが、その男は何か確信を得たような表情をした。

そして、その男は意を決したように京子達の方へ歩きだし始め、徐々に京子達との距離が縮まっていった。


「あっ、こっちに来るよ」

「ほんとだ(モグ)」


照美とメグは素早く手鏡を取り出して、メイク直しをしているが、京子は顔を下に向け隠れるように照美をメグの背後に回ると、まもなく、男が声を掛けてきた。


「あの~すみません」


真っ先にメグが反応した。


「なんですか?ぼっきゅん、メグちゃんだよ、これから・・・」


メグに負けじと照美はメグを押しのけ、男性の前に立ち髪を掻き上げた。


「なにか、ご用ですか?私達これから・・女3人なんで・・・」


メグも照美も声のトーンは徐々に小さくなっていく、それは男性がメグや照美の方を全く見ようとせずに、その後ろに隠れている京子の方しか見ていなく、二人の話は全く耳に入っていない様子だった。

男性はひたすら下を向いている京子に話し掛けている。


「あの~すみません、10年前に、ここで」


男性の言葉に、京子の身体が一瞬震えた。


「10年前・・・・・」

「あの、人違いだったら、すみません、優華さんじゃないですか?」

「優華・・そう呼ぶのは・・・」


京子は動揺している自分を悟られないように必死に平静を装い言い放った。


「違いますけど」


その言葉に男性は肩を落とした、しかし、何か確信を得ているような口調で、さらに京子に迫った。


「そうですか・・・本当に10年前、僕と逢ってないですか、この山で、憶えてないですか」


京子はその男性の言葉に、下を向いたまま、再び強い口調で言った、


「知りません、人違いじゃないですか」


京子と男性のやり取りの間、照美とメグは敗北感に苛まれていた。


「まさか、京子さん狙いとは・・・マニアな人もいるのね、学校ジャージファンかしら」

「ぼっきゅんが、一番若いのに・・・しゅん」

「まさかね~」


二人は共感しあいながら、京子とその男性のやり取りを見ていた、そして、照美が下を向いている京子に耳打ちした。


「京子、そんな、真面目に答えちゃダメだよ、どうなの?この男、結構イケメンだよ、いらないなら、私がもらっちゃうよ」

「照美、止めておいた方がいいよ、こいつ、ろくな男じゃないから」

「えっつ、なにっ!京子、この人、知ってる人なの?」

「知らないけど・・・こんな、声を掛けてくるやつは、ろくな男じゃないのよ」


照美は頑なに顔を上げようとしない京子の姿を見て、恥ずかしがっていると勘違いしていた。


「あの~、私、京子の友達で~照美と言いますけど、この子、恥ずかしがり屋で内気なものですから、良かったら私がお相手してもいいですけど・・」

「あっ、ぼっきゅんもオッケーだよ(モグ)」


しかし、二人のアピールも空しく、男性は照美とメグの方を見ようともせずに、下を向いている京子の顔を覗き込もうとしていた。


「姫野さんって言いましたっけ」

「は、はい」

「この方、本当に京子さんっていう、お名前なんですか」

「そうじゃなの、本人が言っているんだから」


男性は下を向いている京子の顔を覗き込もうとしている。

京子はそれを阻止しようと手を大きく振りかざしながら言った。


「止めて!見ないでよ」


その声はざわめいている他の登山客にも十分聞こえ、京子のただならぬ様子に、他の登山客が一斉に京子達の方を見た。

その光景は男性が女性に何か嫌がらせをしているように、周囲の目からは捉えられている。

男性はその気配を感じ引き下がらず得ない状況に追い込まれていった。


「す、すみませんでした、でも」


男性は何か言いかけたが、周囲の視線を感じ言葉を飲んだ、そして、その場から立ち去っていった。


「照美、あいつ、居なくなった?」

「うん、京子が大声を出したから、びびって行っちゃったよ、勿体なかったな~、いい男だったのに~」

「本当にもう居ない?」

「うん、遠くに行っちゃったよ」


京子は顔を上げた瞬間、激しい頭痛に襲われその場でうずくまった。


「うっ、痛っ」

「京子、大丈夫?どうしたの?、具合悪いの?」


照美がすぐに寄り添った。

痛みはすぐに治まり、京子は立ち上がって、照美に笑顔を見せた。


「平気、平気、ちょっと、立ちくらみがしただけ」

「良かった、ビックリしたよ」

「ごめん、ごめん、もう、大丈夫だから」


京子は自分の身体に異変を感じていた。


「そう、良かった、でも、さっきの男、格好良かったなぁ~、でも、私、完全に無視されちゃったからなぁ~あいつ完全に京子狙いだったもんな」

「そんな事ないよ」

「また、謙遜しちゃって、京子はさぁ~もっと可愛い格好をすれば、もっとモテルと思うんだけどなぁ~」

「ぼっきゅんもそう思う、京子たん、よーく見ると、可愛いじゃん(モグモグ)」


照美はさらに追い打ちを掛けるように言った。


「そうだよ、そんなダッサい格好じゃ、男が逃げて行っちゃうよ」


照美とメグの服装バッシングに京子は若干キレ掛かっていた。


「だから、いいのよ、男なんか、逃げたって、むしろ、そっちの方が良いわ、それに、さっきから、ダッサい、ダッサい、って、山を登るに格好なんて何でもいいじゃない、ったく・・」


照美はメグの顔を見ながら、二人で目配せをしている。


「ダメだよね~」

「うん、うん、ダメだよ(モグ)」


京子は完全否定され怒りを顕わにしている。


「それじゃ、どうすばいいのよ、今更、着替えられないでしょ、それじゃ、私、もう帰るよ」

「まぁ~まぁ~、落ち着いて、落ち着いて」


照美は京子を宥めると、肩に掛けていたリュックを下ろし、中から紙袋を取り出して京子に見せた。


「ジャーン!」

「なにそれ、まさか、でしょ」

「そう、お着替え、はい、どうぞ、京子ならサイズはちょどいいと思うよ」

「そんな着替えなんて、なんで持ってるのよ」

「えっ、なんでって、私が着ようと思って持ってきたんだけどさ、着替える所がなかったし、着替えるのが面倒になちゃったからさぁ~丁度良かったじゃない」


京子は渡された紙袋の中を見ると、本当に着替えが入っていた。


「照美、丁度良かったじゃないわよ、これ、照美が着ればいいじゃん、私はこれでいいんだから」

「だから、面倒じゃん、着替えるのさ」

「私だって面倒よ、それに、これ、どこで、着替えるのよ」

「その辺にトイレあるんじゃない?」


照美は適当のその辺を指さしている。


「トイレ?そんな所で着替えろって言うの?そんなの私は嫌だよ、汚ったねーし」

「もう、京子ちゃんは、可愛い顔しているんだから、お洒落しないと、男が寄ってこないでしょ」


照美は京子のほっぺを指でちょんちょんしている。


「だから、男なんて寄ってこなくていいし、むしろ、ウザイ、あっちいけ!ポイポイって感じなの」

「ダメだよぉ~それじゃ~(モグ)」

「いいんだって、これで」


そう言った京子のジャージ姿を照美とメグがじっと見ている。


「じーっ」

「じーっ」

「な、なによ、その目、そんなに見ないでよ、恥ずかしいから」

「そんなら、着替えれば、それ、学校の体操服じゃん」

「ち、違うってば、体操服じゃないってば、私の学校はね、こんなダッサい体操服じゃないの」

「やっぱ、ダッサいんじゃん、じーっ」

「じーっ」


京子は段々このやり取りが面倒くさくなっていた。


「はい、はい、分かりました、着替えればいいでしょ、着替えれば、ったく、面倒くさいなぁ~」

「行ってらっしゃい~!」

「(もぐ)らっしゃい~!」


二人は京子に手を振っている、京子は最後の抵抗とばかりに二人に言った。


「でも、着替えるの、結構、時間掛かるよ、それでもいいの、二人とも」

「いいよ~、ケーキ食べて待ってるから(モグ)」


メグの突然のケーキ発言に、京子を照美は同時に問い返した。


「ケーキ?」

「ケーキがどこに」


メグは振り返ると遠くを指さした。


「うん、あっちにケーキ屋さん、発見した(モグ)よ」

「いつの間に」


京子と照美を顔を見合わせた。


「めぐちゃん、どこのあるの、ケーキ屋さんなんて」

「うん、あっちだよ」


メグが指さした先に目を凝らすと、確かにケーキ屋らしき雰囲気の建物があった、京子と照美はメグの恐るべき能力に感服するしかなかった。


「ホントだ!」

「どうして、こんな山に、ケーキ屋があんのよ」


メグが自慢げに言う。


「ケーキのいい匂いがしたんだ」


その言葉に京子を照美は顔を見合わせ小声で会話をしている。


「京子、ケーキの匂いなんて、した?」

「ううん、全くしない、メグのフライドポテトの匂いはさっきからしてるけど」

「だよね」

「もしかして、メグって、犬レベルの嗅覚があるの?」

「いや、ブタでしょ」

「照美も言うね~確かに、ブタも嗅覚がいいから」

「そうでしょ」


二人の会話の内容を察したメグは、二人の会話に割って入っていった。


「そこの二人、また、ぼっきゅんの悪口を言っているでしょ」

「ううん、全然」

「全然」

「いや、絶対、悪口言ってた!ブタって聞こえたもん」

「違うって」


京子はなんとか笑いを堪えていたが、照美はメグの姿を見て耐えきれなくなっていた。


「そう、そう、悪口なんて、ぷっ、ぷ、はははっ」


照美はメグのピンク色の服を見て、笑いを我慢しきれず噴き出してしまった。


「やっぱり、うそだぁ~、てるみんと京子たん、二人して、もう、ヒドイよ、ぼっきゅん、ばっか、いじめるんだもん(>_<)」


メグはイジケ虫2号に変身した、しかし、イジケ虫2号からメグに戻すのは簡単だった。


「ゴメン、ゴメン、分かった、ケーキ、おごってあげるから機嫌直してよ」

「やったー!\(^O^)/」


照美のケーキおごってあげる発言により、イジケ虫2号は簡単に駆除されメグは上機嫌になっている。


「ケーキ、ケーキ」

「メグちゃん、ちょっと、待ってよ」


メグが照美の手を引っ張っている。


照美はメグに手を引っ張れながら、京子と簡単な打ち合わせをした。

京子が着替えに行っている間、メグが発見したというケーキ屋で待っている事になった。


そして、京子は着替えの紙袋を抱えながら、県道の方向へ歩き出した。




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