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共通お題『背中』〜オーサムコーラル国物語2〜

作者: しろう

それは、8年前の物語………。

     *

世界でもっとも栄えるクルト王国より南に、暑い暑い死の砂漠を抜け、さらに、天にもとどろくけわしい山々をこえた先には、深い森がある。

その方角すらも狂わせる迷いの森のどこかに、竜や精霊、獣人、人間など様々な人達が仲良く暮らす、オーサムコーラルという国があります。

この物語は、そんなオーサムコーラルの迷いの森に暮らす双子の魔法使い、アーネリーフとローズリーフのお話です。

《オーサムコーラル国物語》

第二部・背中


双子の姉弟、アーネリーフとローズリーフの家は、いつも寂しげに迷いの森の中にポツンとたたずんでいた。

小さな木の家に住んでいるのは、父親と双子の三人であったが、父親は、城に使える優秀な魔法使いである為、ほとんど家には寄り付かなかった。

その代わり、幼い双子の面倒を見るのが、近所の―――といっても、迷いの森の外にある、村に住んでいるのだが―――獣人・クスラであった。

「さぁさ、アーリィちゃん、ローリィちゃん、お昼ご飯ですよ」

ふさふさとした短いしっぽをゆらしながら、クスラは、頭が痛くなるようなぶ厚い本を読んでいる、幼い双子に声をかけた。

「はーい」

先に反応したのは、姉のアーネリーフだ。

アーネリーフは、まだ、本に集中して動かない弟の手を引っ張ると、急かすように言った。

「ローリィ、本は後にして、早く食べましょ。クスラおばさんを待たせたら悪いわ」

「んー……」

ローズリーフは、名残惜しいのか、ぐずったが、姉の言うことは最もだと、立ち上がった。

「わぁ、おいしそう!」

双子は、食卓を見ると、感嘆の声をあげた。

食欲をくすぐるシチュウの匂いが部屋にたちこめる。

木の皿には、サラダ、それに、双子の大好物のブドウパンが並んでいた。

「二人とも、イスに座ってお上がり」

二人の嬉しそうな表情を見て、クスラは満足そうに笑って、子ども達の小さな皿に、たっぷりとシチュウを注いだ。

「いただきますっ!」

双子は、元気よく言うと、飛びつくようにシチュウに手を伸ばした。

「おいしい!」

「おかわりはあるからね。たんとお食べ」

「はぁーい!」

双子は、楽しげに、元気よく返事をした。

「ローリィ。お外に行かない?」

食事の後、三人で片づけをしてから、再び、読書に戻った双子だが、分厚い本を半分までめくった所で、アーリィ──アーネリーフは、隣にいる、弟のローリィ──ローズリーフに話しかけた。

「ん……。もうちょっと………」

ローズリーフは、本から目を離すことなく答えた。

それを見たアーネリーフは、一つのものに集中したら、他のものが見えなくなるのは自分も同じ事だと、ローズリーフと遊ぶ事はすぐにあきらめ、立ち上がった。

「分かった。ちょっと、お花つんでくるね」

「ん……」

アーネリーフの言葉を聞いているのか、聞いてないのか、ローズリーフは、気のない返事をした。

アーネリーフは、小さな肩をすくめ、一人、木の家からでるのだった。

ローズリーフが、本に没頭している頃、外にでたアーネリーフは、森の中を北の魔法使いであるルーデンベルクの元に向かっていた。

家にこもり、ずっと本を読んでいたせいか、体がこわばり、目もぼんやりとするため、とりあえず、外の空気を吸おうと、とびだしたものの、行くあてが、声も忘れてしまった父親の友人、ルーデンベルクしか思いつかなかったのだ。

「………」

それに、ルーデンベルク宅には、薬草がたくさんある。

目的のお花摘みもはたせるし、最近、薬草にこりつつあるローズリーフも喜ぶだろう、と、アーネリーフは、駆け足で走りはじめた。

「………?」

しばらく進むと、道から外れた木陰に、黒髪の男が、うつむいて座り込んでいるのが見えた。

「……」

アーネリーフは、興味がわいたものの、クスラから、知らない人について行ってはいけない、と言う言葉を思い出し、急いで走りぬけた。

「………」

通りすぎる瞬間、ちらりと、男の顔を見る。

「……!」

少し顔色が悪いようだった。

「……」

男の姿が見えなくなって、アーネリーフはやっと立ち止まった。

ルーデンベルクの家はすぐそこだ。

クスラの言いつけを守って、ここまできたものの、アーネリーフは、さっきの若い男が気になってしょうがなかった。

「どうしよう……。あの人、大丈夫かな」

大きな背中は、記憶の中にある父とかさなって見えた。

「……」

あのまま、父の様に消えてしまうのではないか、と、アーネリーフは、怖くなってふりむいた。

父は、めったな事では、家に帰ってこない、城仕えの魔法使い。そう言えば、あの若い男も、重そうな黒いローブをまとっていなかったか。

「!」

アーネリーフは、はっと、クスラの言葉を思い出した。

「……困ってる人は、助ける」

アーネリーフは、そうつぶやくと、勢いよく走り出した。

ルーデンベルクの家に向けて。

「あの!」

息をきらしながら、アーネリーフは、黒髪の男に話しかけた。

男は反応しない。

まるで、アーネリーフの声が聞こえてないかのように。

「これ」

アーネリーフは、水が入ったコップをさしだした。

男は、やっとのろのろと頭をあげた。

「走ってきたから、ちょっとこぼれちゃったけど……」

アーネリーフは、恥ずかしそうに笑った。

男は、不思議そうに、水が半分しかはいってない、コップを眺めている。

「大丈夫?どこか痛いの?」

アーネリーフは、コップを受け取ろうとしない、男を見て、首を傾げた。「そうだ!」

アーネリーフは、ぱっと、目をかがやかせ、男に近づき、コップを握ったまま、男の背中に手をまわした。

「痛い時はね、こうするといいんだって。クスラおばさんが言ってた」

アーネリーフが、ぎゅっと抱きつくと、男は、驚いて、体をこわばらせた。

アーネリーフは、すぐに離れ、再びコップをさしだした。

「これ、飲んで。あのね、私アーネリーフ。魔法使いのお勉強してるの」男は、戸惑いつつも、そのコップを受け取った。

「それでね、今から、ルーデンベルクのおじ様の所に行くの。だから、一緒にいこう」

アーネリーフは、微笑えんで言った。

男は、相変わらずきょとんとしている。「ルーデンベルクのおじ様はね、魔法使いなの。薬草に詳しいから、きっと痛いの治るよ」

アーネリーフは、男に、手をさしのべた。

しかし、男は、コップを持ったまま、固まっている。

アーネリーフは、動こうとしない男の手をとり、言った。

「大丈夫。ルーデンベルクのおじ様の家はね、すぐそこなの」

アーネリーフは、森の木漏れ日の向こうを、指差して言った。

「………知っている」

と、男は、ぼそりとつぶやいた。

「え?」

アーネリーフは、聞きとれず、男の顔を覗き込む。

「さっき、通りすぎたのも、知っている」

男が、突然話し出したので、アーネリーフは、びっくりして、答えた。

「見てたの?……あのね、知らない人についていったらダメだって、クスラおばさん言ってたの」

アーネリーフは申し訳なさそうに、笑った。

「なぜ、戻ってきた?」

男は、アーネリーフの顔をじっと見つめながら、言った。

アーネリーフは、不思議そうに頭をかしげながら答えた。

「だって、困った人は助ける、でしょ?」

迷いのない答えに、そうか、とうなずき、男は、コップの水を飲み干した。

「……フィン」

「俺の、名前」

男のとうとつな言葉に、驚いたものの、アーネリーフは、嬉しそうに笑いながら言った。

「私、アーネリーフ」

「……知っている。迷いの森に住む、双子の魔法使い。弟は、ローズリーフ」

アーネリーフは、目を見開き、男を見上げた。

「どうして知ってるの!?」

男は、ちらっと、目をそらしてから、答えた。

「………ルーデンベルクから聞いた」

「おじ様のお友達なの?」

アーネリーフは、言った。

「………そんな、ところだ」

二人は、ルーデンベルク宅につくまでの短い道のりを手をつないだまま、歩いた。

それを見て、人のくえない、白髪のまじりの北の魔法使い・ルーデンベルクが、さんざん、男をからかうのも、弟の元に男の手をひいて連れて行くのも、そして、アーネリーフが、コップをさしだし、抱きしめた相手が、人間嫌いの偉大なる地竜・フィン──オロフィンだと知るのも、まだ少し、先のお話し。

《おしまい》

やっと、オーサムコーラルが初期設定通り、ほんわかファンタジーになった……。

やったよ、俺は、やったよ!!


ご購読ありがとうございます。

次回作も、読んでくださると光栄です。

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― 新着の感想 ―
[一言]  お初お目に掛かります。私、武竜と申します。当作品を読ませていただきました。まさしくファンタジーな雰囲気をかもし出している作品だと感じました。ほんわかした感じといい、温かみのある文章といい、…
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