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未練のない幽霊

作者: ぐんそう

何も考えずに読める系小説第三弾


今日は土曜日だ。

社会人になり早くも1年が経過した。こんなにも仕事が辛いとは知らなかったよ。

まったくサラリーマンってやつはすごいジョブだなあ。


家には当然俺一人しかいない。社会人になると同時に一人暮らしをはじめたからだ。

といっても県外には出ていないんだがな。

この一人暮らしにも慣れ、と言うか一人に慣れ、たまの休日は一日中ゲームをやったり

テレビを見たりしている。

因みに今はゲームに疲れ、ソファに座りバラエティ番組を見て笑っている。

・・・ふと違和感を覚えた。先ほどとは明らかに違った情報を目が感知し、それを脳へと送り込む。


「電気が消えた?なんで・・・」


そんな独り言を言った瞬間、背後で何者かが声を上げた。


「うらめしくないわ。」


次の瞬間、部屋の明かりがついた。


「え?なに?誰お前?」

「見て分からないの?幽霊よ。」


吃驚した。腰を抜かした。だって幽霊だぜ?自分で幽霊って言っちゃってるんだぜ?


「あまり怖くねえなあ幽霊って。」

「まあどっちかっていうと亡霊?」

「不吉だなあ、化けて出ないでよ。」

「化けたかった訳じゃないけどさぁ。」


なんだかほんわかする会話だ。どうしたことかこの幽霊は。

見た目は普通の女の子だな。大学生って所か?

いや幽霊に年齢もクソもないんだろうけど。


「やっぱりというかなんというか。」

「なによ。」

「白装束なんだね。」

「仕方ないわ、着せられたんだもの。」

「だろうね。」

「だもの。」

「で何のよう?」

「私はなんで化けたのかしら?」


知るか。


「ああ、お腹すいた。ねえ、何か食べさせてよ。」

「幽霊って腹が減るもんなのか?」

「う~ん、どちらかって言うと感覚的ね。」

「ていうか何にもないよ。」

「コンビニはあるじゃない。」

「歩いて10分はかかるよ。」

「いいよ。私は歩かないから。」

「じゃあお前が行ってこいよ。」

「幽霊がコンビニにいたら変でしょ!」

「え?すみません。」


結局俺は寒い中わざわざコンビニまで足を運びカップラーメンを二つ買ってきた。

なぜ俺がこんなことを。


「なんで幽霊に顎で使われなきゃならないんだ。」

「取り憑くわよ?」

「ひぃ!?」

「なんてことは出来ないけど。」

「脅かすなよ!」

「あら、脅かすのは幽霊の役目よ。そうでないと本当に消えてしまうわ。」

「驚かすの間違いだろ。」

「儚いわぁ。」

「で、買って来たけど?」

「二つもいらなかったのに。」

「一つは俺のだ。」

「あなたの分なんて要らなかったのに。」

「何でお前が決めるんだよ。」

「五月蝿いなあ、祟るわよ!」

「鬼か!」

「幽霊よ。」


まあ一悶着して(ないけど)からカップラーメンに湯を注ぐ。


「キャ!熱いわ、消えてしまう!」

「え?そうなん?」

「幽霊だもん。」

「寒いねえ、勘弁してよ。」

「あ、いいにおい。」

「においとかもちゃんとわかるんだなあ。」

「感覚的よ。」

「短絡的だねえ。」

「あ、もう2分たったわね。いただきます。」

「ええ?早くない?」

「このくらいが一番美味しいのよ。」

「幽霊の癖に。」


二人ならんでラーメンを食べた。

今年最大の間抜けな光景だ。幽霊と並んでラーメン食うとは。

ていうか結局こいつが何もんなのかがよく分からんぞ。不気味だ。


「幽霊だから不気味じゃなきゃね。」

「いや、う~ん。そういうのじゃないんだけど。」

「私もよくわかんないのよ。気がついたらここに居たって感じで。」

「前世の記憶とかないの?何が恨めしいんだアンタは。」

「うらめしくないってばぁ。わかんないよ。」

「えらくおちゃらけた幽霊もいたもんだ。」

「幽霊って皆そうよ?」

「幽霊のイメージが崩れていく。」

「それはいい傾向ね。」

「お供え物はしないぜ?」

「そなえてぇ。」

「あ、俺の麺盗るなよ!」

「だって、もう全部食べちゃったんだもん。」

「早いなオイ。」

「幽霊ですから。」

「意味わからん。」

「うふふ、間接キスだね。」

「気持ち悪い事言うなよ!」


ガキかこの幽霊は。


「ふう、お腹いっぱいだわ。」

「そうか、では帰ってくれ。」

「私の帰る場所はここよ。」

「ここに住み着く気か?」

「逆よ。私が住み着いた場所にあんたが来たの。」

「俺のせいかよ。」

「違うよ。」

「今はここは俺の家なんだから、お前は隣にでも住めよ。」

「それは出来ないんだよねえ、自縛霊的なやつだから。」

「あー、面倒な奴だ。」

「アーメンなんていったら成仏しちゃいそうじゃない!やめて!」

「ああ、そいつはたいそう良いねぇ。」


結局こいつは俺の家(アパートだけど)に住み着くことになったみたいだ。

実に迷惑だねえ。 夜中に枕元にたたれるし(立ってるだけ)。









たまの休日の一人でゲームが二人でゲームになった。

これでゲンガーやゴローニャが手に入るな。いや幽霊はゲームしないけど。


「ああー、そこでメテオは卑怯よ!」


してたわ、ゲーム。


「もうカービィ使うの禁止!」

「ええ~、俺のアイキャラが。」

「知らないわよそんなこと。」

「ていうか幽霊がコントローラー持つなよ。念力でやれよ。」

「ムリよ。」

「そういう超能力的なのは使えんのかい。」

「妖怪の中でも力は弱いからねえ。」

「ゲームも弱いしな。」

「機械には強いよ。」

「コンピュータには誰でも勝てるさ。」

「もう違うゲームにしよ。」

「あ!勝手に変えんなよ。」

「次はティンクルスタースプライツで勝負よ!」

「すごい選択きた!」


流石に吃驚したよ。幽霊だなあ。

ていうかハード変えなきゃいけないじゃん。面倒だ。


「あー、また勝っちゃったよ。」

「・・・今のはなしよ。」

「小学生かよ。」

「幽霊よ!」

「ああそうかい。」

「もうやめたわ!」

「じゃあテレビでも見てなよ。」

「つけてよ。」

「機械強いんじゃなかったのかい。」

「早くしてよ、ニュース終わっちゃうじゃない。」

「そんなに世の中が気になるの!?あの世に居るべき人が!?」

「ご飯作って。」

「今やるよ。」











そんなこんなで二ヶ月ほどがたった。


「あのさあ。」

「ん?何?もうご飯?」

「幽霊の癖に食い意地が張ってる。」

「張ってるのは気だけじゃないのよ。」

「お前消えそうじゃん。」

「で?」

「俺さ、もうすぐ引っ越すことになったんだ。」

「へえ、めでてぇなあ。」

「ああ、とてもめでたいことだ。」


俺は会社での功績が認められ、新人ながら大きな部署への転勤を許された。

そのために県外へ出ることになったんだ。


「それで、いつなのかしら?」

「明日。」

「え?」

「まあ、急だわな。」

「私を残してどこへ行くんですか!?」

「お前自縛霊じゃん。」

「自爆してやるー!」

「そいつは大往生だな。」

「では今日は最後の晩餐ですね。」

「不吉な事いうなあ。」


なぜだか少し寂しい感じがした。

幽霊に愛着がわくなんて、どうかしている。


「最後の晩なのにカップラーメンなの?」

「お前好きだろ?」

「私の好みに合わせてくれたんですか?」

「俺の好みに合わせたんだ。」

「ははあ、気が合いますねえ。」

「奇遇だよ。」


まったくもって、それは奇妙な偶然でしかなかった。


「・・・これからまた静かになっっちゃうなあ。」

「なんだお前?俺と居るほうが良かったのか?」

「儚いんですよ。」

「ここから離れることはできんのかい?」

「自縛霊だから。」

「無理かい・・・」


少しの沈黙が訪れる。

部屋にはまるで幽霊でも居るかのような張り詰めた空気が漂っている。


「そりゃあ私は幽霊だからねぇ。」

「そりゃわかってる。」

「でも・・・こんな幽霊でも、一緒に居てどうでした?」

「はぁ?」

「か、感想、とか・・・」


ふーん。幽霊の癖に可愛いとこあんだねえ。


「ま、楽しかったよ。」

「そう・・・」

「・・・」

「・・・あの、もし・・・」

「あん?」

「もしよかったら、私---


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あれ?何かがおかしい。

先ほどとは明らかに違う情報を目が感知しそれを脳へと送り込む。


「また停電かい?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

え?あれ?なんだあれ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何が起こっているのか、理解が出来ない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

もともと不条理なものだった。儚いものだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

穢れなき浄土のもの。その美しさたるや。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

自分の目が信じられない。信じたくない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

消えていく。儚げな存在が、揺らいでいる。

・・・・・・・・・・・・・・・

「おい!なにが・・・

・・・・・・・

・・・・


しばらくして明かりがついた頃には、そこにはただ一人の男しか残っていなかった。

当然だ。俺は一人暮らしをしているのだから。


「成仏したのかい?」


返事など帰ってくるわけもなく、ただ淡々と夜は時を刻む。

突如として幽霊は姿を消した。何の前触れもなかった、ように見えた。


「そりゃあ、いい冗談だね。」


その日は久しぶりに安眠が出来た。枕元にたつモノはいなくなった。

釈然としない。ねえ。



次の日、俺はそのアパートから去っていった。

新しい生活に胸を躍らすはずなのに、でも・・・

虚しい。何かが。


「それほど愛着のあったアパートでもなかったけどなあ。」


やっぱり、楽しかったんだよねえ、幽霊の居る生活が。

今年一番間抜けで、楽しかったよ。

さらば、もう戻れぬ日よ。











あれから二週間ほどたったか。一人でゲームをするのがこんなにもつまらないなんて。


「慣れたはずだったのにな。」


新しいアパートは幽霊なんかとは到底縁のないような立派なところだった。


「ああ、無情。」


この部屋は前の部屋と比べるととても広い。広くて、とても広くて


「一人にはもったいないねえ。」


なんて一人言をこぼしたその時。


「うらめしくないわ。」

「ああ、そいつは困ったねえ。」


幽霊が出た。ぎゃーとでも声を上げて訴えてやれば勝訴取れそうな気もしたがやめておこう。


「どうも、帰って来ました。」

「お前の帰る場所はここじゃないだろ?」

「いけずぅ。」

「自縛はどうした?」

「えー、私は自分の前世について思い出すことが出来たので晴れて普通の亡霊になりました。」

「普通ねぇ。」

「なので、私の帰る場所はここよ。」

「そりゃあ厄介だ。」

「厄くらいは払ってあげるわ。」

「お前だよ。」


とぼけたこといいやがる。

ていうか成仏したんじゃなかったのかよ。

なんでここに居やがる。


「嬉しいですか?私が帰ってきて。」

「ああ、ま、少しはな。」

「もっと喜んでよぉ。」

「おかえり。」

「え?あ、ただいま。」

「よかった、戻ってきてくれて。」

「情にあついねえ、泣けるねえ。」

「幽霊も涙が出るのか?」

「出ないよ。」

「出ないのかよ。」


実に懐かしいすっとんきょうな会話だ。

二ヶ月も一緒に過ごしたはずなのにこの二週間はとても長く感じていた。

今この瞬間は、二人(一人と一体)だけの時間だ。


「私、ついに自分のうらみを思い出したのですよ。あなたのおかげで。」

「忘れるほどのうらみ、ねえ。」

「うらめしや。」

「で、なにが気に食わないんだい?」

「いやあ、私は生前とんでもない優等生だったんでねえ。」

「そうは見えないけどな。」

「でも、そんな私にもひとつどうしても分からないことがあったんですよ。」

「へぇ。」

「だから、もし良かったら。」

「良くないな。」

「私に、『恋愛』ってものを教えてくれないかい?」

「ああ、そいつだったらまあ良いかも知れんなあ。」


なんとも間抜けな話だが俺は人生(人類)初の恋幽霊を持つことになった。

幽霊の出るアパートはほんのりと暖かいのであった。

なんかありきたりな感じになっちゃったね。ていうか最後しか恋愛してないなこれ。

でも個人的には気に入ってますこの話。


感想くれたらうれしいねぇ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 微笑ましいお話です♪ 読んでて、楽しかったです。 [一言] 続きがあるなら、見てみたいです♪
2015/01/29 14:11 退会済み
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